〈30〉その時はあっという間にやってくる
どうしたらいいのか……。と悩み続け、解決策を思いつく間もなくあっという間にパーティー当日になってしまった。リヒトが準備して渡してきたドレスは私の瞳や髪色に合わせたのか淡いピンク色のフリルたっぷりのドレスだ。元々のヒロインなら喜びそうではあるが私の好みではない。似合ってはいるのだろうがこんなに全身ピンクでは目立ちそうだなぁとため息が出そうになる。どちらかと言うと私は目立たずに壁の華になりたい派なのだが、そうもいかないんだろうなぁ……。
「おねーさま、やっぱり行っちゃダメだよ……!」
ドレスに着替えて侍女に普段はあまりしないお化粧を施されていると部屋に入ってきたエリオットが必死に止めようとしてくる。エリオットはあれから体調を崩していて未だに顔色が悪い。たぶん体が細胞レベルで拒否しているのだ。それだけトラウマが植え付けられているのだろう。
「大丈夫よ、エリオット。私はゲームのヒロインとは違うんだから王太子の思い通りにはならないわ!それに……一応ルーファスもいるしね?」
エリオットのゲームの記憶ではそのパーティーにはヒロインとエリオットが出席して色々と巻き込まれるのだから、エリオットの代わりにルーファスが出るというだけでかなりストーリーとは違うことになるはずだ。あれから、もしかしたらエリオットの王家ルートを回避出来るかもしれないと考えてルーファスの申し出を受け入れたのである。(ルーファスとパートナーとしてパーティーに出るなんて鳥肌ものだが)少しでも心配を減らしたくて震えるエリオットを抱きしめながら小声でそう告げるがエリオットはさらに顔色を悪くしていた。
「……僕のせいで、ごめんなさい…………」
「エリオットは何も悪く無いわ!私がフラグを全部叩き折ってくるから心配しないで!」
しくしくと泣き出すエリオットの背中を手でポンポンとしていると視線を感じる。視線だけをそちらに動かすと眉根を顰めた正装のルーファスが扉にもたれかかっていた。
「……仲が良いのはいいことだが、いつまで抱き合っているんだ?」
さすが攻略対象者なだけあって正装姿のルーファスは眼福レベルなのだろうが、生憎私には変態を愛でる趣味はない。というか、私とエリオットの友情にケチをつけるなら再びボール蹴りしてやろうか。
「……エリオットは私の可愛い義弟です。姉が弟を慰めるのは普通のことですわ」
「ふん、”義弟“か……。本当にそう思っているのならば変な噂が立たないように振る舞うべきだな。……先に馬車に行っている、早く出発しないと遅れるぞ」
そう言って身を翻したルーファスはずっと眉を顰めていた。やっぱりパーティーの招待状が私に届いたのがお気に召さないのかしら。まぁ、確かにまだ正式に侯爵家を継いだわけではないけれど、実質は私に全権が委ねられているのだから長男としては面白くないのだろう。
「確かにそろそろ行かなくちゃ……。お化粧ありがとう、悪いけれどエリオットを部屋まで連れて行ってあげてくれる?」
「畏まりました」
準備を手伝ってくれた侍女にお礼を言いエリオットを任せると私はルーファスの待つ馬車へと足を進めた。
いざ、戦場へ……!
……ん?そう言えば、ルーファスが言っていた変な噂ってなにかしら?




