〈14〉ちぐはぐなパズルは噛み合わない
「……昨日の事、リヒトにチクらなかったんだな。それともなんだ、もしかして俺に恩を売ったつもりか?」
朝食の間やたらと意味深な視線で私を睨んできていたと思っていたが、まさか食後に待ち伏せされているとは思わなかったのでやや驚いてしまった。だからほとんど食べずにすぐ退席したのね。
いや、もう少し周りの視線とか考えてから絡んできてよ。せっかく内緒にしといたのに食べ終わって部屋から出た途端に待ち伏せして絡んでくるなんて“何かありました”って宣伝してるようなもんじゃん?!
「……おっしゃっている意味がわかりません」
出来るだけ平然を装って視線を反らすが、ジェンキンスの意図がわからず思わずツンとした口調になってしまった。私だって昨日の事で疲れているのだ。胸ぐらを掴まれた恨みは忘れていない。
でも、せっかく告げ口しないでおいたのにわざわざこんな目立つ事をしてくる意味がわからない。確かにあの女の人は気になるがよく考えればジェンキンスとあの人が結ばれるなら私としては万々歳なのだ。私に絡む前にあの人に私との関係は誤解だとちゃんと説明しておいて欲しいと思う。
そんな意味も含めてジェンキンスの前を素通りとしようとしたら、肩を捕まれ引っ張られる。ちょっ、爪が食い込んで痛いんですけど?!
「……きさま、自分の立場がわかってるのか?!」
立場がわかってないのはお前だ!と叫びたい。
「やめてくだ「昨日の女、聖女でしょ」え?聖女?!」
私とジェンキンスが揉めてる横をスタスタと歩きながらエリオットが冷めた視線を向けてきてボソリととんでもない事を告げた。どこから現れたんだ……って、いや、部屋から出てきたんだろうけど。
「なっ……なんでそれを……っ?!」
慌てるジェンキンスの姿に情けなさを感じる。ドSな俺様キャラのくせのわりには以外と小心者のようだ。バレたら困る相手ならばなおさらなんで絡んできたのか意味がわからない。
それにしても“聖女”か……。聖女って言えば……。
それは“乙女ゲーム”として認識する前世の私の知識にない存在だったが、“この世界”を生きてきたヒロインの知識にはヒットしたのだ。
────そうだ、“聖女”とは確か────。
“聖女”と言っても神聖だとか神の嫁だとか、そんな仰々しい存在ではない。だが数年に1度の割合で本人の信仰心や実家からの教会への寄付金などの度合によって選ばれるいわゆるミスコンみたいな存在だ。ゲームのストーリーにはあまり関係してこない事柄だが確かにいた。私にとってはその程度の認識だった。
だが1度聖女に選ばれれば数年間は持て囃されるしなにかと優遇される。しかも“聖女”の肩書きは嫁入りのさいにも効力を発揮していた。つまり聖女に選ばれたと言う実績があればその娘の価値が上がるわけだ。だからか下位貴族はみんなこぞって教会に寄付をし、娘を教会の礼拝に通わせていた。私が孤児院にいた頃もたまにだが聖女と名乗る貴族の令嬢が慰問に来ていたな、と思い出した。
……笑顔を振り撒いて孤児たちと握手だけして帰っていったけどね。教会にいくら寄付をしても孤児院には1銭も入らない。教会は孤児たちを保護すると名言しているが実際は放置だ。まぁ、孤児院として使っている建物を没収されないだけマシなのだろう。その裏でお金が動いていたのかは子供だった私にはわからないが、最低限の衣食住を守るためにシスターたちが必死だったのだけはわかっていた。もしかしたら“聖女”の価値をあげるためだけに孤児院が利用されていたのかもしれないがそれを訴えたとしても孤児院の現状が良くなることはないだろう。
まぁ、それはそれとして。あの綺麗な人が聖女?だとしたら、ごく最近に選ばれたはずだ。私の中にあるヒロインの記憶では最後に孤児院に訪問していた聖女は別人物だった。
「……わざわざ聖女に選ばれた女を連れ込むとか、ダサっ。聖女の称号を得て箔をつけてから金持ちの後妻に売り込むなんてよくある手口だけど、それを横から手を出して結局捨てるなんて最低だよね」
全く興味の無いような顔だが心底軽蔑したような口調でそんな事を言ったエリオットは固まるジェンキンスを無視して私の袖を掴んだ。
なんというか、うまく説明出来ないが妙な違和感を感じた。エリオットってこんな女心に関心あるタイプだったっけ?
「行くよ。それともこの最低男とまだ一緒にいたいわけ?」
「え?えぇっ?」
そのまま私はエリオットに引っ張られるように連れていかれたのだ。
エリオットって私の事を嫌ってたんじゃなかったの?と疑問も浮かんだが、このままジェンキンスと一緒にいるよりはマシだろうとおとなしくついてくいことにしたのだが……。
「あの、エリオット……ありがとう」
しばらく歩いて2人きりになってから素直に感謝の言葉を口にしたら……。
「キモッ!僕に近寄るなよ!」
と、ものすごく嫌そうな顔をして速攻離れらてしまった。
顔を真っ青にして私を睨みながら走り去るエリオットの姿に私は呆然とするしかなかったのだった。
いや、あんたから近づいて来たんでしょうが?!意味わからん!




