〈1〉 言うなれば、プロローグ的なそれ。
それは、たったひとことの遺言から始まった。
とある雨の日。私は長年暮らしていた孤児院から急きょ引き取られ、知らない人のお葬式に参加させられた。
喪服に身を包んだたくさんの人だかりの中、故人に祈りを捧げる3人の青年の姿がやけに印象的だったのだけは覚えていたが……その故人が私を引き取ってくれた本人だとわかるのは、それからもう少し後のこと。
「あ、あの……おはよう、ございます……」
着なれないドレスに身を包み、朝食が並ぶテーブルの端で私はぎこちなくも必死に覚えたカーテシーを披露した。
それを一瞥した3人の青年はそれぞれの反応を返す。
「……おはよう」
まずは長男・ルーファス。金髪に氷のようなブルーアイをした超絶美青年だが、ちらりと私を見た後はもくもくと朝食を食べている。はい、無関心。
「あー、やっと起きたんだぁ。おっはよー」
そして次男・ジェンキンス。黒髪に緑眼のこれまた美青年。ルーファスよりは好意的だが絶対腹黒な彼は朝食ではなくワインを飲んでいる。朝から酒を飲むな。
「…………」
おっと、ガン無視。こちらは三男・エリオット。赤みを帯びた茶髪と同じく赤茶の瞳をした美少年だが、とにかく無愛想だ。敵視されていると言っても過言ではないと思う。ちなみにこの子は私より年下である。
「エレナ様、昨夜はよく眠れましたか?どうぞこちらへ」
3人の対応に戸惑う私を優しくエスコートしてくれたのは執事のリヒト。銀髪に青い瞳をした彼は普通の女の子ならばうっとりと見惚れるような微笑みを見せてくれた。とにかく優しい。が、大人の色気がダダ漏れてる気がするので閉まって欲しい。
「あ、あの、ごめんなさい。私、まだマナーとかあまりわからなくて……。その、お兄様方にご不快な想いをさせたのでは……」
つい先日まで孤児院でその日暮らしをしていた私にとって、今ここはまさに未知の領域……いや戦場か。
「これから少しずつ覚えていけばよいのですよ。あなたが立派なレディーになれるように微力ながらご尽力させていただきます。……エレナ様は、この侯爵家の大切なご令嬢なのですから」
そう、私はつい先日まで身寄りのない孤児だった。
だがあの日、侯爵家の当主が残した遺言によって人生が大きく変わることになってしまったのだ。
『エレナ・ミカリス嬢を我が侯爵家の正統な跡継ぎとして養女にする』
私を養女にと迎えてくれた義父と初めて対面したのは、彼のお葬式だったのである。
そして執事によってこの侯爵家の異常な家族関係が明かされたのだ。
故人である侯爵には3人の息子がいた。だが、その3人に血の繋がりはなくそれぞれが養子として他家から迎え入れられたのだそうだ。
侯爵は生涯独身であった為、侯爵家を存続させるために優秀な人材を養子にしたのまではよくある話なのだが……。
死に際に残した遺言が問題だった。
『エレナ・ミカリス嬢を我がメルキューレ侯爵家の正統な跡継ぎとして養女にする』この遺言には続きがあった。
それは『財産の相続権はエレナのみに与えるものとする』というものだ。
そんな衝撃遺言を残して眠るように亡くなったというメルキューレ侯爵。私は「お父様」と呼ぶことなくメルキューレ侯爵の養女となり……血の繋がらない彼の3人の息子と一緒に暮らすことになってしまったのだった。
……え?孤児からいきなり侯爵令嬢になるなんて、まるでシンデレラストーリーだって?
しかもイケメン3人プラス、大人の色気ダダ漏れミステリアス執事に囲まれて両手にイケメンの逆ハーレムで羨ましい?
まさか、とんでもない。だって私、思い出しちゃったんだもの────。
この世界は、攻略難度MAXの激ムズ・ヤンデレ系の乙女ゲームの世界だってことに!
そして私は誰を攻略しても不幸になる、とんでもヒロインに転生してしまったのだと……!!
私の新たな人生はスタートと共に詰んだぁぁぁ!




