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我ら道楽渡世者

死んだはずの、末の娘だった。

彼女は元気にあちこち跳ね回り、全身で歓びを表現している。

穀物の山。モミの収穫時期か。


古びた食料プラントがまだ稼働できていた頃、僅かながら村民の生き延びる希望はあった。

村の食料を狙う盗賊共は、幾度となく焼き払い、退けたものだ。


そして、その日は来た。

食料プラントの不調は予見できていたが、手の施しようはなかった。

極度の栄養失調、抵抗力の低下。

病の犠牲になったのは、子供と年寄りからだった。


これからは、私のぶんは、仲良く皆で分けてね。


それが6歳だった娘の、最期の言葉だった。




「…ここは…」

走行する車内。漆黒の窓外は、おそらく砂漠か。

「お目覚めか。集落長ムラオササン」

運転している男が、ちらりとこちらを見た。

「殺さなかったのか。何故」

武装は解かれ拘束はされている。重傷を負ったと思ったが、簡易回復薬を飲まされたようだ。

…聞くまでもない。褒賞と引き換えは、生け捕りが条件だったということだろう。いずれ八つ裂きは避けられまい。


死。…ついに、ようやく。


「…お前達のような『正義の味方』に、これまで幾人も部下を殺されてきた」

蓬髪の男。テッサンと言ったか。

二人だけの車内、内装は見覚えがある。彼らのシップではなく、団のものを奪ってきたようだ。

「力負けは無念だが、やっと奴等に会えるか」

「俺の仲間の一人も、賊に妻子を殺されたよ」

運転する男の表情は、変わらない。

「あんたの手下は、先にいってもらったぜ」

「何だと!?」

「ああ悪い、言い方が悪かったな。生きてるよ、俺の仲間たちと一緒に先行だ」

激高しかけた己を諌め、呼吸を整える。


「…集落長ムラオサだったとは、部下から聞いたのか」

「アンタが慕われる訳が判るな。俺もかつては、ある集落のオサだった」

俺とお前の違いは何だったのだろうな、と男は呟いた。


しばらくの沈黙。揺れる車の音だけが響く。

「…」

「……こんな時代の」

運転しながら、蓬髪の男が再び口を開く。


「舵取り役は常に崖っぷちだ。食料の不足。流行り病。レギオンの襲来。なにか歯車が狂えば、全てが終わる。皆が生き延びるためならば、なんでもやれるな。俺もそうだった」

「一緒にするな。無責任な道楽者共が」

笑いながら、そろそろゴールだ、と男は応えた。


暗い車窓の外には、いまだ何も見えはしない。


※※※


「なんだ、ここは?」

到着したのは、広大な地面に岩山の屋根をかけたような大洞穴だった。中央からは空が見える。

「褒賞と身柄引き換えではなかったのか」

「誰がそんなこと言った」

軽く手を上げた方向を見ると、丸刈りの男と白衣の男が不敵に笑っていた。そして。


「長!」

「ご無事で!」


無事だったか。顔をみて、ようやく安堵する。

戦闘員のほか、女子供も揃っているようだ。

「本当に、本当に…!こんなこと、神様の…!」

奇妙なことに、その表情に一様に不安はない。むしろ、歓喜に沸き立つような雰囲気すらある。

「落ち着いて喋りなさい。何があった」

「奴等…いや、あのお方がたが!」

「ここにある、食料プラント施設をくれると!」


背筋に、電撃が走ったような衝撃が駆け抜けた。


「こいつは仲間の技術屋シマケンだ。アンタのアジトを砲撃でぶっ倒した奴だ」

「全くフレンドリーじゃない紹介をやめろ」

猫背で暗い瞳をした男が一歩前に出る。痩せ型だが芯の強さのようなものは確かに感じ取れる。


「さて。あんたも村長だったなら知っての通り、食料プラントとは汚染の少ない地底を使った地下農場の自動管理・収穫施設だ。レギオンから奪い取れるパックで稼働できる」

「…ちょっと待て」

「数カ月分は用意しておいた。最初の収穫は今すぐにもできる。プラント全体は完全にリカバリしたつもりだが、不具合があったなら早めに連絡しろ」

「待て」

「更にここの土地は地形の恩恵からか汚染が極度に少ない。その気になれば畑仕事すらも」

「聞けィ!」

白衣の男が、ようやく説明の口を閉じる。


「…一体何のつもりだ。我らは盗賊団だぞ。不要な情けをかけ、生き延びさせることすら意味が分からないというのに、何故に…」

身が震え、言葉に出すことができない。


食料プラントを、譲ると。

如何なる財産よりも貴重なそれを。


「言っただろう。道楽者の、世直しだと」

リーダーの男、テッサンが、口を開いた。


「盗賊団などいくら潰しても世直しにならない」

つかつかと設備に歩み寄る。

「何故なら天然自然の恵みのないこの時代、生産の出来ない集団は、飢えれば奪い取る他に道を見つけることなどできないからだ。ならば盗賊潰しに最も有効なのは何か?」

ぽんぽん、とプラントの制御装置を叩く。

「こんな生産施設を補修して、くれてやることだよ。盗賊団は消え、村落が生まれ、一石二鳥で合理的。分かったな?分かったなら、受け取れ」

「受け取らぬ。…道理が、通らぬ」

わなわなと震える拳を握り直し、己の罪を必死に思い起こす。

「お前たちの規格外な武力と技術力は分かった。だが力のあるお前たちが無すべきは我らのような悪党ではなく、弱者の救済であろう。より健全で、罪に手を染めていない者に寄り添うのが筋道だ。そうだな、皆」


仕方ねぇ、そうだ、長が正しい、という声がぽつりぽつりと上がった。

「……」

…全く、我は部下に恵まれた。

彼らの生命の保障だけでも、重畳であろう。


「関係ねぇよ。かわいい痩せ我慢を張りやがって」

丸刈りの男…ヤーボンが、一笑に付した。

「言っとくがこいつの管理もラクじゃねぇぞ。今度はお前等が賊に狙われる側になるし。大体な」

真っ直ぐに対峙し、じっと眼を見てくる。

逸らさずに見つめ直す。


「どう考えても一番弱いのは、まともにすら生きられなくなったお前等だろうが!」

「!」

言葉の衝撃が、身を貫く。

「罪だ?道理だ?筋道だ?知ったことじゃねぇ。ガチのケンカは確かな腹の探り合い、俺たちの眼は節穴じゃねぇぞ。それにな、弱いタネじゃあこんな僻地に蒔いて、何の実が成るってんだよ!」

「ヤーボンの言うとおりだ」

シマケンが、後を引き継ぐ。

「ここは近くに頼れる村落もなく、レギオンもそれなりに出没する。当然、盗賊にも狙われる。決して楽して生きられるようになる訳じゃない」

プラントの継続的稼働燃料のためレギオン狩りが半ば義務になる、むしろこれからが地獄かも知れない、と白衣の男は言った。テッサンが続ける。


「だからこれは、俺たちが強さを認めた奴等に、もう一度のチャンスをくれてやるだけのことだ。

受け取れ。『責任者』ヒャクライ。

蛮勇と剛力を、生存力に再び変えてみせろ」

「もう一度…これから…」


これからは、私のぶんは、仲良く皆で分けてね。


脱力し、膝をつく。

豊穣の土を、両手に掴む。


「決して…決して、無駄にはせぬ…!」


乾き果てたと思っていた涙が、地を次々濡らした。

部下たち…村民たちの歓声が、洞に響き渡った。




※※




「っかぁー!美味ぇ!」

「やはり大仕事終えた後は、焼肉に限る」

「たっぷりあるから、ゆっくり食え」

巨大な篝火を前に、二人の仲間に続いて串焼きを頬張る。


確かに、今回はまあまあの大仕事だった。

生産施設の修理も大規模だったが、眼をつけた盗賊団のボスが思ったより強かった。

よくもまあこの二人は、命懸けの勝負のあとで平然と飯が食えるものだ。

ほかの村人たちも自由に肉を振る舞っているが、流星号の冷蔵庫をカラにするにはほど遠い。


「…ここにいたか」

篝火の主がやってきた。

「やあ。プラントの稼働は皆でやれそうかね」

シップのメカを見ていた整備の連中もいたようだし、なんとかなるとは思うが。

「ああ。機械を見る者、住処を建てる者、農作業に挑戦する者、パック確保や自衛のため武器を取るものと自発的に動き始めている」

改めて我が長になる必要などなかったようだ、と満足げに村人たちを見る。


「アンタが必死に生かした人々だからさ。生きることが、犯した罪の償いだと分かってるんだ」

ところで砂カバの肉は栄養満点、知っての通り手もかからず、汚染土を勝手に浄化してくれる家畜を飼わない手はないぞ、と串の一本を勧める。


「前に作った集落では大規模に飼い始めて上手くいっている。これはそこからもらった肉だ」

「こんなことを、何度もやっているのか?」

まだ三度目だよ、とテッサンが応えた。

呆れたお人好し共だ、とヒャクライは歎息した。


「この地にいる盗賊団の総数を考えれば、焼け石に水であろう。すべてが成功するとも限らん。虚しくはないのか」

「楽しくて仕方ねえよ」

ヤーボンが応える。概ね同意だ。

道楽なのだ。効率も、到達点も、どうでもいい。


「この世にゃ不幸がたくさんある」

串の一本から肉をむしりつつ、テッサンが呟く。

「でも悪党の暴力による不幸は、力で上回れば消し去れる。今回のようにな」

「……」

「自由自在に荒野を旅して、出会った悪党を消して回る、という奴等がもしいたとしたら」

肉を飲み込む。

「そいつらが死ぬまで動き回れば最終的に、不幸の減った世の中になるだろう?強いて言えば、それが俺たちのやりたいことだよ」

「…お前達は、あまりに自由すぎる」

眉間の険がすっかり消えた集落長は、再び歎息した。

「王の器か。さもなくば大悪党か」

「はは、まさか。でもな」

テッサンが顔をあげ、洞の庇の向こう、白みかけた空を見上げる。

「実は俺等も少し、そう思うぜ」


それは大洞穴の未来を、祝福するように。

真っ白い旭日が、地平の向こうに。


※※



同時刻、無人の廃墟となった元アジトも、朝日を浴びていた。

根元から折れ、燃え尽きた廃ビル。


それを目前に、一人の盗賊姿の少女が、

目と口を丸くしたまま、膝から崩れ落ちていた。



(FIN.)




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