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喧嘩屋稼業と違うのよ


「ぐふぅっ!」


腹部に踵を振り下ろされたヤーボンが、肺腑から空気を吐き出す。

「燃え尽きろ!」

「させん!」

間一髪。テッサンの横薙ぎの一撃で、ヒャクライは脚部火炎放射を止め回避に切り替える。

「甘いわ!」

這うような低い姿勢で横薙ぎを躱し、瞬時に反撃の蹴り上げが宙を切り裂く。

「おっと!」

鋭い剣のような円軌道を描いた炎を相棒が辛くも回避する間に、ダウンした男は機敏に転がり立ち上がった。


「大丈夫かヤーボン」

「ゴホッ…。危ない危ない。腹筋ばっか鍛えてて良かったわ〜」

「悩みの中年太りがエアバッグになったかな」

「ゴホッ、やかましい……ゴホッ、ゴホ」


凶器の拳脚から、攻撃のたびに業炎が放たれる。

それは次々に物品、壁面、天井、絨毯に延焼し、室内は次第に火事場の様相を呈していた。


「ビックリ炎攻撃は慣れてきたけど…やばいぞ、テッサン」

「ああ。時間切れはあっという間だな」

「逃がすと思うか?」

ヒャクライが唯一の出口を背に、立ちはだかる。

燃える床、壁。発生する煙塵と有毒ガス。

今更ながらに理解する。触覚、視覚、呼吸を奪う全てが、彼の武器なのだ。

生物である以上、火災に勝てる道理がない。


「テッサン、火事場の逃げ方は?」

「濡れた布で口を抑えて」

髭面の男が、床を指さす。

「下へ、下へだ」

「よっしゃ。場所変えるか」


大上段へ得物を構える、丸首丸刈りの男。

睨みつける先は、床面。

「ふん…鉄の配管ごときで何をする気だ」

「まあ見とけよ。これが流星号ケンカひみつ道具そのイチ…」

硬く固く蓄積した肩と腕の筋肉が、盛り上がる。

そのバネが、一気に解放されるーーその刹那。


「…ジェットエンジン鉄パイプじゃい!!!」


瞬間、振り下ろされる鉄パイプの先端近くの器具が点燈、青白くバーニアを吹かした。

一瞬で超絶加速した質量が、床の一点を打つ。


轟音。閃光を伴う衝撃波。

次いで、大地震のごとき揺動。

すべての炎が一瞬、揃って大輪の華となる。


思わず防御姿勢を取ったヒャクライの前から砂塵が収まったとき、


床には大穴が空き、二人の姿は消えていた。



※※



「一階までは来れたが…ここまでか?」

「仕方ない、息は整った。ここで覚悟決めるか」


中央階段を降りた先に、逃亡者の姿があった。

一階。無骨な鉄骨が立ち並ぶ、だだ広い整備場ホール

「…残念だったな」

観念したのか、得物を構えて睨みつけてくる。


「その武器、確かに恐ろしい破壊力だ。人間はおろか、シップやレギオンとですら互角に渡り合えるであろう。ーーしかし」

追い詰めるように、歩を進める。

「低層階の防壁は、外敵に備え入念な補強を施してある。それが城郭というものだ。そして逃げ延びたここは確かに、まだ燃えてはいないが」


両手から、火焔を放つ。

周囲が、一瞬で高熱に晒され白煙を放ち始める。

微かな舌打ち。

外には、燃える瓦礫が落下してきていた。


「これから燃える。私が来たからには、ここが火元だ。もはや外にも下にも逃げられんぞ」

「くそ、ここまでかーー」

髭の男の眼が。


「ーーなんてな」


変わった。

瞬間に打ち放たれる、大きく鋭い居合い。


視線を読むことで寸前で見切った模擬刀は、背後の鉄柱に当たり大きな反響音を響かせる。

外した…いや。


「…ケンカひみつ道具そのゼロ。クロムセラミック&ナノカーボン木刀」


構え直した二撃目が、何故か再び同軌道を辿る。

「…?」

殺意の全く感じられない、柱への再打撃は。


鉄骨の支柱を、音もなく貫通し、切断した。


「ぬう、恐るべき斬れ味…ではないな」

「こいつは特殊製法の合成素材でな」

髭の男は弄ぶように片手で得物を取り回す。

「打った物体の振動数に合わせたうえで、周波をきっちり半分減調・・・・する性質がある」

髭の男は片手持ちの模擬刀で、異なる鉄柱に再び触れる。

鉄柱は、そのまま紙のように切り裂かれた。

「固有周波数が噛み合う、つまり二度目の接触の抵抗が『0に限りなく近くなる』という原理を活かした特殊刀なのさ。一枚岩の、硬質素材限定ではあるが」

微かな高音に鳴る模擬刀を、両手で構え直す。


「…二閃で斬れない金属は、ない」

蓬髪の下の眼差しが、剣士のそれに変わった。

成程。失われた技術が、こやつらを支えるか。


「おいちょっとまてや。なんだ『ひみつ道具そのゼロ』て」

緊張感のない声が、張り詰めた空気を中断する。


「いやお前の鉄パイプより先に出来てたから」

「ずるいわ〜。二番手はなんか弱そうやん」

「お前のがその一番だろ?」

「いやゼロがあるなら一番じゃないやんけ!」

「マイナス一番にしろよ」

「どう考えても喧嘩マイナス一番は弱い!」


無言で火力を強める。


「あっちぃ!」

「上方はいまも燃えている、むしろ落下する瓦礫は増した!貴様らは愚かにも、望んで危地に飛び込んだのだ!」


もはや、すべてを終わらせるのみ。

飛び込み、拳と脚を叩きつけ、炎を吹きつける。

小賢しい反撃を、上回る速度で躱す。


加速しながら交差する、斬撃と拳脚。

横薙ぎの大振一閃は空振り、虚しく鉄骨を裂く。


「壁と柱を斬るばかりで敵に当たらんではないか!貴様の剣技は鉄骨相手の大道芸か!」

「ラスト!こいつで仕込み完了だ!」

「頼むぞ!シマケン!」

『はいよ』

「小型無線機だと?!仲間がまだいたのか!」


失われた技術を、貴様らは。どこまで。


地を揺らし腹に響く、爆発音。

二度、三度。四度。


「むぅ。上方で何かに引火したか…」

「違う。これは俺たちの車両シップの最新装備」

「75ミリ主砲の『砲撃』だぜ!」


響く爆音。揺れる建物。

外の車両から、ビルに向かって撃っているのか。

しかし射撃目標は、この地階ではないようだ。


「今更、最上階に爆風消火か?無駄なことを…」

そんなことで形勢逆転などーー

 

いや。

髭の男が切断したのは。

ーーすべて、西側の柱。


「…まさか」

「おっ、気付いた?」

「実は降りてくるとき、同じ仕込みをさせてもらった。柱はビルの片側だけスカスカだ。そこへ逆側からの砲撃、てことは…まぁ、もうバレたよな」


脳裏によぎった予感を裏付ける、これまでの戦闘音とは根本から異質で不吉な高い音。

それは城全体に響き、徐々に徐々に大きくなる。

蓬髪の男は、続ける。


「除去消火法、別名を破壊消火。古代、火消しと呼ばれたプロたちは炎そのものを相手取るよりも、建造物を先に破壊することにより延焼を防ぎ火焔を抑えたそうだ。…で」


振動、轟音、徐々に斜めに傾ぐ壁と天井。

炎を背負う背筋を、冷たいものが走り抜ける。


「バカな…、そんなことが、できるはずが」


数階を降りて見せたのは、逃げるのではなく。

支柱を破壊しつつ下に位置取るためだったのか。


『見た感じ、そろそろ逝きそうだぞ』

無線機から聴こえる、間延びした声。


頑丈なはずの地階外壁が、バランスを崩したビルの偏った重量に悲鳴を上げる。

一瞬で、壁に巨大なクレバスの亀裂が入る。


「このビル、折るぜ」


男が、笑う。

その背後。広がる裂け目から、暗い空が見えた。

それは見る見る、大きく広がってゆきーー


「最後の一発!唸れや、ジェットエンジン!」


露出した弱点を貫く、力任せの剛直の一撃。

二度、三度。燃え盛る熱所に、叩きつける砲弾。


城は、この世の終わりのような声で哭きながら。

歪み、剥がれ、破断し、塵を吐き咆哮して。


全身を震わせながら、文字通りーー倒壊した。



※※


「クッ…、き、貴様ら…!」

膝を立てる。バカな…こんな、こんなことが…。

物理的に、可能なのか…?!


「綺麗に折れたな。粉塵は思ったより少ない。火焔の気流が偶然、良い方に働いてくれたのか?」

「おお、いい月夜だ。空気がうまい」

生物として本能的な怯懦パニックを引き起こすはずの大火災、大音響、大崩壊に立ち会いながら、漢たちは平然と空を見上げている。

「さて。もう燃えるものはないようだ」

「これならてめぇの技も、広場で焚き火やるのと変わらねぇな。さあ、第二ラウンドだぜ!」

「調子に…乗るなぁ!」


怒りに任せた炎拳の一撃を、木刀が叩き払う。

首を狙った焔蹴を、鉄パイプが打ち払う。

距離を置く。睨みつける。呼吸があがっていた。


緊張している。いや。恐れている。

本能が叫んでいるーーこいつらは、化け物だと。

燃えさかるビルを一棟、へし折る怪物だと。

二匹の怪物が、その牙をこちらへ向けた。


「罪なき集落を、道行く人々を襲い奪った盗賊団の首領、大火災コンフラグを騙る者。最後だ。己が悪行を思い出しな」

「道楽世直しモンが、成敗したらァッ!」

「…ッ!」


気圧されている。馬鹿な。


怯むな。足よ。心よ。

我が怒りは正当、我が炎は最強。

この火を消せば配下は、家族は、どうなる。


「…負けられるかぁああああっ!」

「負けろ!」


怒号に対するは呼吸の合った、交差の一撃。

宙に吹き飛ばされ、残った壁に叩きつけられ。


激情の炎は、やがて昏く。


一瞬揺らぎ、それから静かに、

漆黒の闇へと、呑みこまれていった。



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