盗賊団とは呼ばないで
「そうか…荷を奪うことは出来なかったと」
「申し訳ありません」
「よい。下がれ」
夜。高台の丘に位置する、小規模な廃ビル内。
根城の最上階にあたる五階、玉座に納まった堂々たる体躯の銀髪の壮年ーーヒャクライは部下に気づかれないよう嘆息した。
賊に身を窶して、三年。
集落の食料プラントが突然停止してからならば、五年になるか。
飢え。病。絶望。混乱。
長である自分には、責任があった。
だが強者であることを見込まれて長になった自分には、力で食わせる他に手段は結局思いつかなかった。
やがて警戒され、防備を固められ、近年の実入りは目に見えて減ってきていた。
ーーこのままでは結局は、女子供ともども飢えて死ぬしかあるまい。
だがこの荒野に、食料生産の望みは薄い。
ーー希望は、ないのか。
「…む」
堂々巡りの思考は、階下の乱の気配に阻まれた。
怒声。足音。
格闘音。発砲音。
…静寂。そして。
突然、蹴り飛ばすように広い居室の扉が開いた。
鉄パイプを持った、丸刈りの男。
擬似刀を持った、髭面の男。
二人の見知らぬ漢が、立っていた。
「盗賊団くん、あ〜そ〜ぼ〜」
「道楽者が世直しに来たぜ。伝説の大災害の一人、大火災…」
髭の男が、黒い擬似刀を此方へ向ける。
「…の、偽物さんよ」
「成程、お前たちが」
私に引導を渡してくれるのか。
「前に襲ったというシップの者だな。あのとき、部下を一人も殺さずにおいてくれたこと、礼を言おう」
ゆっくりと玉座から立ち上がる。統率の象徴でもある武器は、常に装備している。
「大火災様!」
部下が次々と集まってくる。
「下がれ。お前たちの敵う相手ではない」
女子供も連れて全員城から退去せよ、と命じた。
「言ってたとおりみてぇだな、テッサン」
「ああ、ヤーボン」
不敵な男たちを、睨みつける。命知らずの牙城乗り込み、同業ではあるまい。
「なぜ名を騙っていると分かった?」
問うてみる。おそらくは褒賞狙いであろう。
「少し考えれば簡単なことだ。本物は強奪と殺戮の限りを尽くし、だが全員が同時に突然消えた…という話は事実のようだが」
口調は静かだが睨み返す眼光は強く、鋭い。この漢も、多くを背負って生きてきたようだ。
「部下を食わせたり群れたという話は一切無かった。まるで一体一体がレギオンのような野獣の集団、それが大災害だ。噂の断絶の前後で、毛色が違いすぎる」
あとは逆算だ、と髭面の男は嘯く。
「人々が震え上がる威名が、持ち主なく転がっている。盗まれない方がおかしいだろうな。威名を盗む理由は二つのいずれかーー盗む者が弱いから、あるいは」
「よせ。買い被りよ」
止めたヒャクライは両手首装着の得物を構えた。
借り物の二つ名を象徴する武器ーー火焔放射器。
の、二刀流。
「なぜ子供たちが飢えて死なねばならぬ。なぜ機械の獣に怯えて暮らさねばならぬ。このような時が何代まで続く」
特別製の呼吸マスクを装着する。己を殺す仮面のように。
「この世界を作り出した愚か者共への怒りが、我を焼き尽くす火焔の災害と化したのだ。我は狂気の大火災、その魂を受け継ぐ者」
文字通り気炎を吐くように、着火する。
「部下の命を救われた立場だが、こちらは手加減の出来る武器ではない故ーー許されよ」
ヒャクライが瞬時に移動し、鉄パイプの男の腹部に正拳突きを放った。
撃たれた側は反射的に得物で受け止めるが、即座に表情を変えて飛び退きーーその一瞬後に手首から放たれた業火を、かろうじて転がり回避する。
ヒャクライは悠々と、構えをとった。
テッサンとヤーボンは感嘆し、瞠目した。
「拳法と、火焔放射器の融合…!」
「なんじゃそりゃ!」
後背からのテッサンの擬似刀の鋭撃を、ヒャクライは最低限の動作で交わす。
カウンター気味に裏拳からの顎打ち。拳に追従する炎が十字を描き、テッサンの顔面を僅かに掠めた。
「危ないな。マユゲもヒゲもコゲちまう」
「全身黒焼きになってもらうぞ!」
擬似刀の男に軽い縦蹴りのフェイントを見せ、振り返りつつ鉄パイプの男への水平蹴り。相手はぎりぎり射程外に引いて躱す。
だが吹き出した火焔が、円弧を描く線に追従し、炎の面を描く。
「うぉっ、脚からも…!?」
躱した位置で辛くも仰け反ったヤーボン。
瞬時に軌道を変えたヒャクライの踵落としが、
「ぐふっ!」
体勢を崩した、がら空きの胴体に直撃した。




