怪しげな露天商、でもなくて
「おうシマケン。いつものピコピコ自作ゲームは並べんのか?」
陽光を遮ることくらいはできる、崩れかけた一室。
応急の救護所に手伝いに現れたヤーボンが、からかい半分の声をかける。
「ここでは医者のほうが稼げる。怪我人が無限に出るからな。はい次の方」
言葉通り、廃墟ビルの一角に怪しげな白衣の男が開いた救護所は、それでも客が列をなしていた。
集積地ゴンザ。
数基のビルの廃墟の谷間にたむろする人々はほとんどが武装し、その日暮らしの磊落な快活さと、野心的な眼差しが住人の共通点といえた。
落下都市の廃墟のすぐ側にあることから、危険と引き換えに集められた貴重な文明遺物の交換取引が行われる、自然発生的な集落である。
とてつもなく広大な複合階層の廃墟の中には今も生きたセキュリティやレギオンたちがうろついており、無傷で出てくる者などほとんど居ない。
医療医薬品が充足している訳ではないが、物品の集まりやすい地だけに他所よりはマシな治療ができる土地でもあった。食料や酒もある。
「全快薬飲んで寝てれば治るだろ」
「それはそうだが、ここだと品薄なんだ」
運がよかったな、助かったぜ、という声が聞こえてくる点には確かに需要の高さが伺える。
「しかしま、ずいぶんと稼ぐこって」
謝礼の物品の総価値は、前の集落で三人がやった謎の出店たちを遥かに上回っているだろう。
「やはり地トカゲレースはもう駄目かね」
「スライム焼きよりマシだったがな」
ヤーボンの呟きに、客の骨折患部に添え木をしつつ、医師の顔をしたシマケンが答える。
シケモクを咥えたままなのは褒められた点ではないが、彼なりの集中力向上手段でもあった。
「奇形魚すくいは誰もやらんかったしな」
「テッサンは商売のセンスが壊滅的すぎる」
二人は隅で昼寝中のリーダーを見る。場所が場所だけに手遅れになった死体のようだ。
「で、こんなに品物集めてどうすんだ」
「欲しいものがある。後で交換交渉に行く」
「欲しいもの?」
丸刈りマッチョの問いに白衣の男はニヤリと笑って煙を吐き、
「車載の大砲だ。ここでなら手に入るはず」
機械マニアの眼差しだけは、少年の頃と何ら変わりはないものだった。
「なぜ大砲かというとだな」
「聞いてねえが。まあいいや勝手に喋れ」
シップへ搭載する大型武器を扱う者の場所を聞き、二人はそこへ向かっていた。
この集落は様々な人間たちが、個々に雑多なコミュニティを築いている。
余所者にほとんど頓着しないのはこの時代では奇跡的なほどで、猥雑で乱暴だが舐められなければそれなりに過ごしやすい場所と二人はみていた。
「別に装弾数の多い機銃でも良いし、いずれは流星号に装備したいと思ってはいるがね。だが軽装で倒せるものは、お前らでも倒せる」
「まあそうだな」
「中大型の硬質レギオンに遭遇したとき、白兵の打撃武器では辛いものが在るだろう。そんなときに有効打を与えられるのは、やはり大口径の砲弾なのだよ」
「普通逃げんだけどな」
まあ倒せばでかいか、とヤーボンが呟く。
大型を打ち倒し、膨大なエネルギーを秘めたパックを奪えれば、場所によってはそのままかつての金貨のように取引できる。
別に一攫千金が目的という訳でもないが。
「そういえば武器屋のほかにもうひとつ、客たちから聞き出すことが出来たぞ」
「何だよ」
「大災害だ」
知らないほうが吃驚されたよ、とシマケンは鼻を鳴らした。
油の匂い、鉄の匂い、埃の匂い、汗の匂い。
廃材を丁寧に組み上げて作られた大きなガレージは、長年にわたり荒野を行き交うシップたちの整備をしてきた歴史の匂いが、層になって蓄積しているような場所だった。
今も何台かのシップが溶接を受けている。
ヤーボンが眉を顰めたその空気も、シマケンのようなメカニックにとっては古巣の遊び場といった感じの、安心感と高揚感の両立する空気だ。
「エンジンの出物はないか」
「手頃なブツは今はねぇなあ。人気でね」
白衣のシマケンの問いに、年季の入った作業着のオヤジがスパナを片手に禿頭を掻く。
エンジンの強化は即ち重量増強であり、即ち装甲板や重武装の増強でもある。競争率は高い。
とりあえず最初に聞くのは挨拶のようなものだ。
「武装を見せて欲しいんだが」
「これはどうだ?レギオンから剥ぎ取った武器を修理改修した珍品、その名も『シザーハンズ』!相手を挟み込み、締め砕く。セール中だぜ」
「ほう」
シマケンが興味深げに、チェーンで吊られたゴテゴテした武装を見上げる。
「シマケン、流星号をヨロイムシみたいにしねぇでくれよ…」
「そうか?格好いいのに」
ねーぇ、と白衣のオヤジと作業着のオヤジが同調する。
来て良かった、とシマケンは嘆息した。
ついて来て良かった、とヤーボンも嘆息した。
「では砲を見せてくれないか」
「オーケーオーケー。最高の出物があるぜ」
かの堕ちた都市の奥底から勇気ある冒険者が回収に成功した、存在自体が奇跡の聖なる砲、などとくどくど述べながら、シートに手をかける。
「その名も『プロメテウス』!」
ばさぁ、と大仰に外されたシートの下から、鈍く光る砲身が姿を現した。
「おおっ?これは?!」
「75mm砲だな。よくあるタイプだ」
空気に流されかけたヤーボンを尻目に、シマケンがしゃがみこんでモノを確認する。
「威力は並程度だが、重量、価格帯は申し分ない。今回は取回しの良さを取ってこれでいこう」
詳しい客には敵わねえや、と店長が苦笑した。
「そういえばオッサンも、大災害は知っとんの?」
「なんだと?」
マニアのノリに置いてけぼりで突っ立ったヤーボンの問いに、技師の顔色が変わる。
「いや、オレらこの辺は詳しくないんでよ。小耳に挟んだもんでな」
「奴らを知らないとか…一体どこから来たんだいアンタら」
まあちょっとな、と軽く笑って誤魔化す。
秘密な訳ではなく、説明が面倒なだけだ。
「ああ…良く知っているよ」
一段下げた声色で、禿頭の技師は語った。
「奴等は伝説だ。だが、現実だ」




