追放された役立たず共、ではなくて
戦争、災害、盗賊の発生、レギオンの襲来。
住居不足、医療不足、食料不足、燃料不足。
交易もなく貨幣紙幣すら失われた世界で、人々は孤立し、稀に集まっても、そのまま無力に死んでいった。
だがごく稀に、環境に恵まれ、旧文明の遺産の活用に目覚めた集団があった。
身を守る意志を持ち、確かな指導者に率いられ、不運にも不遇にも諦めない者たち。
彼らは独自の生命活動サイクルを確立し、彼らなりに平穏に生き、平穏に死にゆくことができた。
三人の少年がいたのは、そんな集落のひとつ。
ある良く晴れた日。
何を契機にそんな話になったのだったか。
「世界一強くなる。賊なんかボコボコにして、レギオンも狩れるくらいに!」
短髪の元気のかたまりのような少年が、拳を掲げる。凛々しい眉に良く動く手足、しかしまだまだ初々しい稚児の域を出てはいない。
「僕はみんなが道を間違えないように、前の方に立って進む役割になりたい。父さんみたいな」
確かな意志とカリスマの萌芽を感じさせる強い瞳をもった少年が、それに並ぶ。
どこか女性的な神秘さを備えた、この年頃の少年にしかない美しさが、英雄の相を感じさせる。
「え…じゃあ僕は」
「オマエは俺がケガしたら治す役だ!」
「皆のために道具を作ったり直したりしてよ」
細身でやや猫背気味の最後の一人は、わかったよ、と弱々しくも優しい笑みを浮かべた。
二人に振り回される存在に見えて、物事を深く見通す、落ち着いた知性が振る舞いに表れている。
三人の少年が見上げた空、夢見た未来は、どこまでも高かった。
それがおよそ、三、四十年前のこと。
※※※
「さあて。いっちょもんだろうかい」
周囲に集落もない、寂びた荒野の夕刻。
枯れ木が僅かに残る土の丘だけが遠くに見える土気色の光景、強すぎる残光が乾いた空気を照らす中。
最初にシップから降りてきたのは、丸刈りの中年男だった。
服装は戦闘服という訳ではなく、薄手の丸首シャツに腹巻という仕事着のような出で立ち。だが全身が実用的な筋肉の鎧に覆われており、強者のみが纏える不可視のオーラが更に覆っている。
不敵な笑みは、闘争の場に明らかに悦んでいた。
その大きな手には鉄の配管。
「やりすぎるなよヤーボン。殺しが目的じゃない」
続いて降りてきたのは、野性的な蓬髪の中年男。
こちらも多少気取り屋の村親父、といったラフな服装。ウェービーな髪を無理やりオールバックにまとめ、顔の下半分は髭に覆われている。
「わかっとるわい、テッサン」
「ならいい」
だがその眼光は鋭く、静かでありながら総てを見通す、悟りを覚えたかのような眼差しだった。
その手には黒光りする、木刀のようなモノ。
彼らのシップ…『世紀末流星号』と名付けられたコンテナローダーの行く手を塞ぎ、それを囲った盗賊たちの集団は、僅かな人数に勝利を確信し罵声を浴びせ始める。
「ハッハー!こんなデカいシップにたった二人とはな、楽な仕事でついてるぜ!」
「大人しく積荷とパックを寄越せば、生命だけは助かるかもなぁ〜?!」
素裸に近い筋肉肉体を革や金属で覆った、もはや野生に還る寸前のような男たちが各々の凶悪な武器を手に嘲笑する。その数、およそ二十人。
「二人じゃねぇよ。おい、シマケン!」
丸刈りの男がもう一人の名を呼んだ。その声は周囲の暴力の気配と殺気に動じず、全くの余裕を見せている。
「降りてこい。折角だから挨拶くらいしろ」
蓬髪の男がシップ後部のコンテナに声をかける。
「少し、待て」
中から不機嫌な声と、回転する謎の機械音。
秘密兵器でも出てくるのかと盗賊たちがやや警戒したその視線の先に、
「…コーヒーメーカーの調子が悪いんだ」
無造作な髪型に無精髭、マグカップを持った中年男がのそりと姿を現した。
猫背を包むヨレヨレの衣服は、よく見ればかろうじて白衣だったものだと分かる。
明らかに強くはなさそうなその出で立ちに盗賊団は安堵し、削がれかけた威勢をふたたび増す。
「おいおいシケた組合せだな。追放された役立たずのオッサン三人で、寂しいサオの慰め旅かぁ?」
ギャハハハ、と下卑た笑いが荒野に響く。
ヒゲの蓬髪が得物を無造作に担ぎ、一歩出る。
「失礼だな。これでも皆、真面目に仕事を勤め上げてきたんだ。子供も独立、立場も引き継ぎ、さて第二の人生かというところで」
「まあヤーボンは独身だがな」
「うるせぇ!その代わり戦える弟子を百人から増やしたわ!」
白衣の訂正に、丸刈りが怒鳴る。
それは普通に尊敬に値する、とヒゲが答える。
「知るかぁ!もういい、死ね!」
威嚇に全く怯まない男たちに業を煮やしたか、はたまたーー本能的な怯えに突き動かされたか。
盗賊団の野獣たちは、まずはと前面二人の武器を持った男たちに襲いかかった。
「つ…強すぎる…」
まさに瞬殺。たった二人に戦闘員二十余名ほとんど全員が打ちのめされ、地に伏していた。
残ったのはリーダーである自分を含めて数人のみ。彼にとって予想外、目を疑う光景だった。
「…馬鹿な」
相当な猛者。組織か、復讐か、誓約かーーおそらくは予想もつかぬ過去を背負う漢たちであろう。
「お前ら…何者だ…?」
「さっき言っただろうが」
丸刈りが、苛立たしげに得物を向け見栄を切る。
「南の小さな集落で、真面目に真面目にやってきた、幼馴染の意気投合」
「老後は世直しケンカ旅、ネジを外してバカをやろうか、というワケさ」
蓬髪の男が後を引き取る。老後というほどの年齢ではないが、それにしても息も切れていない。
「少し薄かったな」
白衣の男はたまにマグカップの液体を飲む以外、まったく何も動いていない。
「な…」
予想以上に『浅い』答えに、一瞬言葉が詰まる。
「何か…死んだ家族の仇討ちとか、かつての戦友との約束とか…」
「ないよ」
「伝説に至るのだとか王国を築くのだとか」
「ない。遊び。道楽」
「いいトシしたオッサンの行動原理がそれで良いのかあーッ?!」
「何いきなりキレてんだよ」
「道楽でブチのめされる身にもなれやーッ!」
やぶれかぶれで最後の手段ーー貴重な対人用の散弾銃ーーを構えた盗賊リーダーだったが。
擬似刀の小手の一撃で得物を払い落とされ。
鉄パイプの面の一撃で、地面にひっくり返った。
「殺すなって言ったろ」
「手加減したから死んでねぇよ。…たぶん」
大丈夫だ、と白衣の男が盗賊の瞳孔を覗き込む。
残った人数は戦闘員ではないのだろう、悲鳴を上げながら各々の自動二輪で散るように逃げ去った。
「じゃあ行くか。何の話をしていたのだったか」
「運転ヒマだからシリトリしてたろ」
「覚えて…いろ…」
流星号に戻ろうとした三人が振り向く。
リーダーの意地か。辛くも意識を引き留め、地に伏したまま、盗賊は呪いを呟いていた。
「お前たちは…大災害に…手を、出した…」
最後にそう言い残し、がくり、と気絶した。
「次テッサンだぞ。『ラクダ』のダ、からな」
「ダ…ダ…」
「次の豆が成るまでに直さないと…」
だらだらとシップに乗り込む三人。
彼らの旅は、続く。




