はじめての雨ふらし練習
翌朝の雲の原っぱ。
空は青く広がり、太陽の光を浴びた小さな雲たちがきらきら輝いていた。
雲の学校では、今日から「雨ふらし」の練習がはじまるのです。
広場にはごろごろ先生が大きな声で響き渡りました。
『雲は水を運び、大地に雨を降らせて命を育む! これこそが雲の大切な役目のひとつだ!』
もくもくは胸をどーんと膨らませ、やる気まんまん。
一方のもふもふはというと、すでに目がうるうる。
「だ、だって……わたし、またいっぱい泣いちゃったら……」
小声でつぶやくもふもふに、もくもくはにかっと笑いました。
「大丈夫だって! 練習なんだから、泣いたって平気だろ!」
◇
先生は雲の子どもたちを一列に並ばせました。
『いいか! まずは体の中に水の粒をあつめるんだ! 風の流れを感じて、冷たい空気をひきよせろ!』
もくもくは目を閉じて集中しました。
すると、体の中にひんやりとしたものが集まってくるのを感じます。
「よーし、いっぱい集まってきたぞ!」
得意げに叫んだ瞬間、ドバーッと大量の水が降り落ちて、下の町にいきなり夕立のような雨が落ちました。
「うわあっ!? やりすぎた!」
地上の人々が慌てて洗濯物を取り込むのが見え、雲の子たちは大笑い。
もくもくは顔をまっ赤にしながら縮こまりました。
一方で、もふもふは……。
「えっと……あ、あれ……?」
うまく冷たい空気を呼べず、なかなか雨が落ちてきません。
不安で胸がきゅっとなったそのとき、ぽろり、と小さな涙がこぼれました。
すると、ポツン……ポツン……と細い雨が地上に落ちていきました。
『おお、いいぞ!』
ごろごろ先生の声が響きました。
『もふもふ、そのやさしい雨は花をよろこばせるだろう! 雨は強ければいいわけじゃない。大切なのは、降るべきところへ、降るべきだけの水を落とすことだ!』
その言葉に、もふもふの涙はいつのまにか笑顔に変わっていました。
けれど、恥ずかしくて小さな声でつぶやきます。
「……でも、これ、やっぱり泣いたみたいで……」
「いいじゃん!」
すかさずもくもくが隣から声をあげました。
「泣き虫だって立派な雲になれるって、先生のお墨付きだぞ!」
もふもふはくすっと笑い、雨粒の代わりに小さな虹を背中にかけました。
◇
その日の放課後。
二人は原っぱの端で並んで地上を見下ろしていました。
町の畑がしっとりと濡れて、葉っぱがつやつやと光っています。
「なあ、見ろよ! 俺のドシャ降りでびっしょりになったけど、畑は元気そうだ!」
「うん。わたしの雨も、花たちがぴょこんって顔を出してくれた気がする」
もふもふは胸を張って言いました。
「わたし、泣き虫でもいい。だって……だれかの役に立てるんだもん」
その言葉に、もくもくは目を丸くしましたが、すぐに大笑いしました。
「よっしゃ! 泣き虫とドシャ降りコンビ、さいきょうだな!」
ふたりの笑い声が空いっぱいにひろがり、白い雲の影をふんわり染めていきました。
◇
その夜。
月の光に照らされた雲の上で、もふもふは小さな声で記録を残しました。
『今日の雨は、泣いたみたいにぽろぽろ落ちた。でも、それでも花が笑ってくれるなら、わたしも笑える』
そして最後に、ふわりと一言。
「……明日は、もっといい雨を降らせたいな」
もくもくは隣で大きな寝息を立てていました。
その寝顔に、もふもふはまた小さく笑ったのです。




