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冬の夜空での再会

 秋が過ぎ、冬の匂いが空気にまじりはじめたころ。

 もふもふは、すっかり冷たくなった風にのって北の空をただよっていました。

 地上では木々が葉を落とし、山々は雪の帽子をかぶりはじめています。

 寒さは少し苦手でしたが、もふもふは胸を張っていました。

 秋の山で山の精に教わり、雲の手紙を送ったあの日から、彼女の心には確かな強さが宿っていたからです。

「もくもくに届いたんだ。わたしたち、離れててもつながってる」

 そう思うだけで、冷たい風も少しやさしく感じられました。

 けれど、やっぱり、本当にまた会えるのか。

 夜になると、不安は忍びこんできます。

 広い空のどこかにいるのはわかっていても、姿を見つけられないもどかしさ。


     ◇


 一方そのころ、もくもくは東の空のさらに高みにいました。

 冬の雲として、雪を地上へ届ける役目を与えられていたのです。

 冷たい空気を体いっぱいに取り込み、しんしんと雪を降らせる。

 子どもたちがその雪で笑いながら遊ぶ姿を見下ろすと、胸の奥はあたたかくなりました。

 でも、そのあたたかさの奥には、ぽつんとしたさみしさがまだ残っていました。

「もふもふ……元気かな。泣いてないかな」

 雪の結晶が風に散るたび、彼の心も少しずつちぎれていくように思えました。


     ◇


 十二月のある晩。

 空は澄みわたり、星がまるで凍りついた宝石のように光っていました。

 地上では町のあちこちから明かりが見えます。冬祭りや、年の瀬を祝う準備でにぎやかでした。

 もふもふは、一人でその光景を見下ろしていました。

「……いいな。みんな一緒で」

 ついぽつりとこぼしたときでした。

 ふいに、遠くの空から聞き覚えのある声がしました。

「もふもふ!」

 その声に、胸が大きく跳ねました。

 振り返ると、力強い風に乗ってやってくる影。

 大きな雲のかたち、その端が夕日に染まって輝いていました。

「……もくもく!」

 ふたりは風をかきわけ、勢いよく近づき、ようやく再び並びました。


     ◇


「お、お前……ほんとに元気だったんだな!」

 もくもくは勢いよく声をかけ、でも目は少し潤んでいました。

「うん。わたし、ずっと手紙を送ってたんだよ。届いた?」

「届いたさ! あの雨粒、ちゃんと俺の胸に落ちた。だから……だからまた会えるって信じられたんだ!」

 言葉が風に混じりながらも、ふたりの胸にははっきり届きました。

 その瞬間、冷たい冬空の真ん中に、温かな光が差し込んだように思えました。


     ◇


 けれど再会の喜びも束の間、冬の空はすぐに二人を試すように荒れはじめました。

 強い北風が吹きすさび、雪が渦を巻きます。

 雲たちは体を揺さぶられ、形を保つのが難しくなりました。

「くっ……! また嵐か!」

 もくもくは歯を食いしばりながら声を張り上げます。

「でも今度は一緒だ! 俺らなら大丈夫!」

「うん……! 一緒なら!」

 もふもふは涙をこぼし、それが雪の粒と混じってきらめきました。

 その光景は不思議なものでした。

 雪に混じった涙の粒が光を受け、冬の夜空に細い虹のような色を描いたのです。

「見ろよ……! 冬に虹だ!」

「……ほんとだ。ふしぎ……!」

 ふたりは揺れながらも必死に寄り添い、渦を越えていきました。

 涙と雪が混ざりあってできた光の帯は、まるでふたりをつなぐ橋のようでした。


     ◇


 やがて風はおさまり、星空が広がりました。

 ふたりは疲れ切っていましたが、笑顔で見つめ合いました。

「やっぱり俺ら、最強のコンビだな!」

「……うん! わたし、もう寂しくないよ」

 地上では、町の広場で人々が空を見上げていました。

 雪とともに現れた細い虹を見て、誰もが息をのみ、そして笑顔になりました。

「新しい年を迎える印だ……!」

 と誰かが言いました。


     ◇


 その夜。

 大きな星が東の空でひときわ明るく瞬いていました。

 もくもくともふもふは寄り添いながら、その星を見上げました。

「ねえ、来年も……ずっと一緒に空を旅しよう」

 もふもふが小さな声で言いました。

「もちろん! 俺たちは、どんな風が吹いても絶対つながってる!」

 もくもくは力強くうなずきました。

 冬の夜空は冷たく澄んでいましたが、その下に漂うふたりの心は、どんな火よりもあたたかく輝いていました。

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