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血染めの百合は愛ゆえに咲く  作者: 月夜野桜
第二章 運命共同体
5/20

第一話 賭けるのは自分の生命

 撮影拠点の方へは戻らず、奥へと進んだ。理由は二つ。


 一つ目は、異常が起きる前、誰も追い越してはいかなかったこと。先に出ていた者たちはいるだろうが、そう大勢のわけがない。


 もう一つは、スタッフが味方とは限らないこと。自然現象とは思えない。何者かの企みによって、本物のバトルロイヤルに変わったに違いない。ならば、スタッフはそれらの協力者の可能性がある。あの場所は危険。


 緩やかな坂を駆け上がりながら、原作小説を読んでおけばよかったと後悔した。各自の開始地点の予想くらいはついたはずだ。そうすれば、どのあたりが人が少なく安全なのか判断できたのに。


 建物などに隠れるのはかえって危険。皆同じ発想をするはず。見通しの悪い屋外が良い。


 山側の斜面が緩やかになり、落ち葉の積もった林となっている場所まで来ると、ユリアは中へと分け入った。


 サクサクと足音が鳴る。聴力が上がっていることもあり、これならば近づく者の気配を感じ取れそう。笹のようなものが密集して茂った藪を見つけて、その中へと隠れた。


(こんな特徴のない場所、撮影には使わないわよね……?)


 隙間から顔を出し、周囲の地形を見てそう考えた。各自の開始地点として、特に絵になる風景とは思えない。今ユリアがやっているように、隠れて状況整理をしている間に襲われるというシナリオなら想像しうるが、それを言ったらどこにいても安心はできない。


 こんな展開、予想しようがなかった。それでも、何度も映らぬ端役と甘く見て、結局原作を読まなかったのは自分が悪い。


 素人ゆえに信頼されていないのか、皆そうなのかは知らない。少なくともユリアに渡された台本は、自分が登場するシーンだけのものだった。


 だから、目覚めた場所での出来事以外の予備知識はほとんどない。誰がどんな能力を持っているのか。脚本上ではどこが開始地点になっているのか。あの後どこでどんな戦いが起きるシナリオなのか。すべて知らない。奏を中心に結束した数名が生き残るというあらすじだけ。


 すでに脚本とは異なる展開になってしまっている以上、この先は大きく変わる可能性が高い。だとしても、初期配置を知っているだけで危険は避けやすいはず。


 先程襲ってきた人物は、脚本通りの状況で、脚本通りの能力で襲ってきた。あの場所に来たのも、脚本通りにユリアたちがいると予想したからだろう。戦う気があるにせよないにせよ、他の者も同様に考えて動くはず。


 落ち葉の上に寝かせた奏を見た。ゆっくりと胸が上下していて、穏やかな寝息を立てている。彼女ならある程度は知っているだろう。しかし、先程取り乱して金切り声を上げていたのを思い出し、起こすのを躊躇った。


 その前に、一人でできることをやっておくべき。そう考えて、もう一度バッグの中身をチェックした。隠しポケットなどはない。入っているものはやはり、一日保つか微妙な程度の水と食糧、サバイバルナイフとマニュアルだけだった。


 襲われた時に備え、付属のベルトを腰に巻いて、サバイバルナイフをいつでも使えるようにした。武器になるのはこれだけ。心許ないが、皆同条件のはず。


 先程は読む余裕のなかった続きを確認しようと、マニュアルを開いた。一目見て瞼をきつく閉じ、俯いて悔しさに唇を噛み締めた。拾ってきたバッグは、奏のものだったらしい。


(拾いに戻った方がいいのかしら……?)


 初手で殺されなかったのは、ユリアの固有能力が相手に知られていなかったからと推測できる。原作には存在しない追加の登場人物。演者であるユリア本人に渡された資料にもなかった以上、そもそも設定されていなかった可能性がある。少なくとも、周知はされていない。


 脚本通りあの場所にもう一人来たのなら、まだいるかもしれない。何かが近づいてくる物音は、確かにしていた。その人物も戦いを望むかどうかはわからない。それでもリスクはある。


 すでに拾われてしまった可能性も高い。当然中を見るだろう。ならば、戦いになった場合圧倒的に不利。ユリアの方は相手の能力を知らない。まだあそこに留まっているとも限らない。


 元々の表情なのか、何か楽しい夢でも見ているのか。こんな時だというのに、ほんのりと微笑みながら寝息を立て続ける奏を見て考えた。


(この子のことは皆味方につけたがる。私はどうなんだろう……)


 奏の固有能力・再生リジェネは、誰もが欲しがるはず。攻撃性能はなく、武器さえ与えなければ裏切られない。真面目にバトルロイヤルをやる気があってもなくても、味方につけようと考える。


 ユリアの加速アクセルの方はわからない。直接攻撃の能力ではないが、裏切って奇襲を仕掛けるにはもってこいの異能と思える。ユリア自身だったら、こういった能力を持つ者を積極的に味方にしようとは考えない。


 他の者同士でもそうだろう。攻撃的な能力者と手を組むかどうかは、慎重に判断することになる。これが本物のバトルロイヤルなのだとしたら。戦う気になっているのだとしたら。協力関係を築いて情報交換をするのは、ごく少数の相手だけのはず。


 だからユリアの固有能力が広く知れ渡ることは、ないと仮定できる。もし大人数で群れているとしたら、平和的にこの状況を打開しようと考えていると判断していい。


(あとは、皆がどれだけ本気で殺しにくるか……)


 これが本当に殺し合わなくてはならない状況なのかどうかが、鍵な気がする。最初の一人、脚本通りの台詞で襲ってきたが、実際ああ思われていても仕方がない人間だという自覚はある。


 だからあれは例外と考えていいのかもしれない。他の者たちは協力して生き残る道を検討するはず。まともな人間なら、当然そうするのだから。


 他の者の判断を予想するために、マニュアルのページをめくった。ルールが記載されている。当たり前の話だが、最悪の内容。


 最後に残った一人だけが、生きて島を脱出できる。島の外との行き来は不可能。見えない壁があり、泳いで逃げることもできない。当然通信も遮断される。


 壁は時間経過と共に島の中央に迫ってくる。戦場は次第に狭くなっていき、交戦は避けられない。


 手持ち武器はバッグに入っていたナイフだけだが、島の各所に様々な武器が配置してある。序盤から積極的に動いて、遭遇率を高めるための工夫なのだろう。身を守るのに十分な武器を、なるべく早く手に入れる必要がある。


 消極的だと最後まで勝ち残れないようになる設定は、他にも用意されている。殺せば殺すほど強くなるルール。


 参加者を一人殺すごとに一ポイント取得。一ポイントにつき、身体強化エンハンスの効果が十パーセント上がる。殺した相手がポイントを持っていた場合、その分も加算される。


 安全などこかに隠れ潜み続け、他の者たちを殺し合わせて、最後の最後に漁夫の利を得るというのは難しい。参加者が生徒だけと考えても、三十四ポイント稼がれてしまう。


 基本値が常人の二倍だから、三十四ポイントなら五・四倍。おまけに強奪ロバリーもある。相性の良い二つの能力を組み合わされたら、よほど有利な状況からの奇襲でないと殺せない。


 まだ気を失ったままの奏を見ながら考えた。一番重要なのは、彼女の持つ再生リジェネで間違いない。だからこそ、映画では主人公として活躍する。


 そして映画とは異なり、協力するのではなく殺して奪ってしまうのが最善と思える。効果は設定対象数の二乗に反比例する。つまり、対象が一人のときに最大化する。永続効果ゆえに、一度設定したらあとは何も考えずに戦える。


 ユリアは腰からサバイバルナイフを抜いた。鋭く光る切っ先を見つめる。今なら簡単に殺して奪うことが可能。


(こんなシーン、想像もしなかった……)


 お話の中でもあり得ないと思っていた。それが現実に訪れている。今これを彼女の左胸に突き立てれば、それだけで終わり。泣き叫ぶ間もなく、この天使のような微笑は永遠のものとなる。


 狂気をはらんだ冷たい青の瞳で、奏の愛らしい顔を見下ろした。衝動が身体中を駆け巡る。これはこのバトルロイヤルを仕掛けた者の仕業なのか。それとも、最初からの望みなのだろうか。


 奏の口許を左手で塞ぎ、その身体に馬乗りになる。重みと息苦しさで意識が戻ったのか、奏の瞼が上がった。薄茶色ライトブラウンの円らな瞳に、鋭い切っ先が映り込む。


「大声を出したら殺す」


 凍り付くような声がユリアの唇から漏れた。奏はただ眼を大きく見開き硬直している。


「さっき他の出演者が異能を使って殺しにきたのは見ていたはず。誰か来たらどうなるかわからない。欲しいのは再生リジェネの能力だけ。気を失ってる間に殺さなかったということは、敵意はないと理解してくれるわね?」


 刺してしまいたい衝動に駆られながらも、無理やり抑えてなんとか言った。奏は何度も首を縦に振る。しばしにらみ合いが続いた後、ナイフはそのままにして、奏の口を塞ぐ左手だけを放した。


「ど、どうなってるの、これ?」


 ささやくように小さな声で奏が問う。大声を出さないという約束は守ってくれそうに思えた。


「私にもわからない。だから情報交換が必要。協力してくれる?」


「うん。もちろん」


 慎重に様子を探りつつ奏の上から降りる。握ったままのナイフに奏の視線が向いているが、敢えてむき出しのままにし、いざとなれば届く距離を保った。


「あなたは原作を読んだ? この映画の元になったっていう」


「読んだ。何回も」


「私の役に相当する登場人物はいないのよね? 名前、見た目、能力、性格。共通点のある人物は?」


 ふるふると首を横に振りながら、奏は答えた。


「いないよ。オーディションでのあなたのアピールが元になって生まれた追加の生徒。能力は、さっきなんか速く動いてたやつ……? それなら、性格が似たタイプの登場人物はいるけど、別人。その役の子は、朝いたし」


「なら少なくとも、原作の世界に入り込んでしまったとかいうことはなさそうね」


「そんなマンガか小説みたいな……」


「実際そうなってる。見てたんでしょ? ファンタジーだかSFだかわからないけど、とにかく現実とは思えない異能力使ってるところ」


 先程の光景を思い出したのか、奏はやや顔を青ざめさせ、口許を押さえて俯いた。


 ユリアだってこんな状況信じたくない。しかし実際に体験している。夢にしてはリアルすぎる。受け入れられるか、受け入れられないか。それが生き残るための第一関門。


「……殺し合いに、なってるの?」


 恐る恐るといった感じで、奏が問う。あの後の道中も、ここへ来てからも、ずっと静かなまま。他に人がいるかどうかもわからない。


「現状では判断できない。でもその前提で行動指針を決めなくてはダメ」


「わ、わたし――」


「受け入れなさい。そうでないと、あなたが私の役になってしまう」


 奏の言葉を遮るようにして、ユリアはそう言った。氷のような瞳で、あくまでも冷静を装いながら。


「現状わかっているのは、あの場所で起きた出来事は、私がもらっていた台本と大体似ていたということだけ。私が大人しく殺されずに、返り討ちにしてしまう前までは」


「最初から違うよ。わたしの方が先に目が覚めて、ユリアちゃんを起こす役だった」


 そう言われてみれば、確かにその時点から違う。しかし、二人が目覚めた後の展開は同じ。


「でもあの衝撃波のような能力を使って私が襲われるところは一緒だった。詳細は変わるけど、初期配置は同じで、似た展開になる可能性が高い。――そうだ」


 奏のマニュアルを持っていたことを思い出して、彼女に渡した。最初のページを示しつつ、確認をする。


「これ、役名ではなく塚本奏になってるけど、あなた自身のプロフィールに間違いないわね?」


「うん。誕生日も合ってる。わたしの固有能力は、設定通り再生リジェネ……」


「次のページからルールが書いてある。原作や脚本と一緒かどうか確認して」


 大した分量はない。奏はほどなく眼を通し終わったのか、がっくりと項垂れた。


「おんなじ……一人になるまで……」


「私が生き残ってる以外同じなのだとしたら、終わり方も同じにできるんじゃないのかしら? あなたが全員を殺して一人で生き残る話じゃないんでしょ?」


 はっとした感じで顔を上げた奏の表情が、花が咲いたようにぱあっと明るくなっていく。


「壁の発生装置……ホントにあるの?」


「私に訊かないで。原作のあらすじをまとめたサイトを見ただけだし、台本も自分の登場するシーンしかもらってない」


「えっと、少なくとも台本では、原作と同じ終わり方。わたしも自分が出てこないところのはもらってないけど、その範囲では流れは一緒。画面映えするように細部は変えられてる」


 であれば、ユリアが読んだあらすじ通りの展開を期待してもいいのかもしれない。奏が演じる篠川小波を中心に何人かが協力し合い、島の中央にある壁の発生装置を破壊して終わらせていた。


「これは映画ではなく現実になってしまっているのかもしれないけど、鍵はあなたのまま。もしかしたら、脚本通りに周りが協力してくれる可能性がある。私というイレギュラーが、どう作用するかはわからないけど」


「だからわたしを殺さなかったの……?」


 不安げな表情に変わり、震える瞳で問いかけてくる奏。違うと言ってあげた方が良いのだろう。しかし、きちんとした信頼関係を築く必要がある。だから敢えてユリアは本音を言った。


「そう。あなたを殺すのは最悪手。一緒にいれば、もっと簡単に生き残れる。私は強奪枠を別の異能に使える。二人合わせれば四つ。再生効果が四分の一になるとしても、わたしとあなたの二人に設定するのが最善」


 逆に捉えると、奏が最後まで生き残る主役でなければ、殺していたという意味になる。そこに気付いたのか、奏は青ざめた顔で口を何度かパクパクとさせた後、結局何も言わずに閉じた。


「私は別に自分がイカれてるとは思わない。殺したいんじゃない。殺されたくないだけ。だから相手もそう考えてくれるのなら、共存の道を探る」


「みんな、そう考えてくれるかな……?」


 両手を膝の上で握りしめ、何かを堪えるように身を震わせて問う奏。その姿を見て、意外なことを言うものだとユリアは感じた。


(この子、もしかして……?)


 手にしたままだったナイフをベルトに格納すると、ユリアは両手を地面について、奏の顔を間近で覗き込んだ。今にも零れ落ちんばかりに涙が浮いている。不安なのだと知った。


 オーディションの時、陰口を叩かれていたのを思い出した。妬みや嫉みが原因なのだろうが、奏をよく思っていない出演者は多いのだろう。


「奏、死にたくないのはみんな一緒。こんな異常な状況だって、進んで誰かを殺すような人はいない。心配なのは、状況だけでなく人も脚本通りになっていないかどうか。共存の道を選ばず殺し合う役の人は、本当に殺し合うのかもしれない」


 現状では判断がつかない。ユリアは本来性格すらよく示されぬまま死んでしまう人間。最初に襲ってきた少女は、行動こそ脚本通りだったものの、あれで素なのかもしれない。


 奏はあらすじを読んで感じた主人公像と近いが、それすら元々の奏の性格と思える。少なくとも、設定の影響を受けて大きく変化したようには見えない。ならば、希望はある。


「しっかりしなさい。あなたが演じる篠川小波は、ここで私を励ます方の役でしょ?」


 薄茶色ライトブラウンの瞳が、青い瞳をまっすぐに見つめ返した。瞬きと共に溜め込んでいた涙が流れ落ちると、奏は慌てたようにポケットをまさぐり始める。ハンカチを探していたのか、無いと知ると袖を使ってゴシゴシと拭った。


「なら、みんなを探そう? それでどうやってここを脱出するか、話し合おう?」


 やっと主人公らしくなった気がする。誰も疑わず、協力の意思を見せた皆に再生リジェネを使い、結果として効力が下がり危機に陥る篠川小波。そんな彼女だからこそ、最後まで裏切らず共に戦ってくれる仲間を得て、五人で生還できるというシナリオ。


 ユリアは少し安心して座り直すと、思考を巡らせた。この異常な状況で、どこまで正常性を期待して良いのか。


「少しでもリスクを減らしたい。大声を出して呼びかけたりとかはダメ。どちらにせよ、遭遇は避けられない。自然とわかっていくはず」


「でも……」


再生リジェネは他の人には使わないで。私とあなた二人だけのものにする。効果が下がるのは避けたい。最悪全員が敵となっても生き残れる方法を考えないと」


「それって――殺すってこと!? みんなを殺して、自分たちだけ生き残るの!?」


 ここまでずっと小声を保ってくれていたのに、奏は声を荒げて詰問した。ユリアは、先程の涙の意味を誤解していたのかもしれない。


(殺されることより、殺すことの方が怖いのね……)


 天才子役ともてはやされたとはいえ、こんな状況でまだ仮面を被り続けられるわけはない。これが塚本奏という少女の本当の姿なのだろう。さもなくば、篠川小波という割り当てられた役の設定通りに変化してしまっているか。


 いずれにせよ、このままでは危険と思える。脚本通りになるとは限らない。少なくとも、ユリアというイレギュラーは、守られる保証がない。


「どうしようもない場合、あなたも殺す」


 ユリアは氷の瞳で奏に告げた。奏はその視線で凍結させられたかのように身動きを止める。


「原作や脚本通りの装置があるとは限らない。一人になるまで殺し合わないと終わらないのかもしれない。もしそうだったら、私はあなたを殺してこの島から出る」


 予想通り、奏の反応は激しいものだった。ユリアにつかみかかって、狂気に憑りつかれたかのような瞳で捲し立てる。


「ならいっそのこと今殺して! 欲しいのは再生リジェネの能力だけなんでしょ!?」


「さっきも言ったとおり、別の異能もあった方が明らかに有利。戦わずに済む可能性も捨てたくない。嫌ならあなたは殺さなくていい。私が殺す。少なくとも最後の二人になるまでは、あなたを裏切らないと約束する」


 ヒートアップする奏とは対照的に、氷の瞳を保ったままユリアは返す。奏はなおも声を荒げて抵抗した。


「そうじゃないの! 誰かを殺したり、殺されたりするのを見るのなんて嫌。そんなのを見るくらいなら――」


 奏の左手がユリアの腰の裏に伸びる。そこにあったサバイバルナイフの柄を握って引き抜いた。切っ先を見つめつつ、きっぱりとした声で言う。


「今死んでしまいたい」


 ブルブルと震える手で喉元に近づけていく。それを冷静に見ていられる自分にこそ、役柄が設定されているのではないかとユリアは不安になる。


 小さく溜め息を吐きながら、固有能力を発動した。


加速アクセル・三倍速――)


 素早くナイフを奪い取ると、奏を仰向けにして地面に転がした。距離を取って加速アクセルが切れるのを待ってから告げる。


「私の戸籍名は新原ユリア。でも本来はミドルネームがある。ユリア・ユーフェミア・新原。あなたの能力の設定に必要なのは、役名じゃなくて本名かもしれないから、教えておく」


「わたしやらない! 人を殺すのなんて見たく――」


 なおも拒否する奏の前で、自分の首筋にナイフを当て、頸動脈を切り裂いた。勢いよく鮮血が流れ出す。白銀の髪を真っ赤に染めつつ、ユリアは倒れ込んでいった。


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