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会議は踊る 不本意に

課長がプロジェクターにプランの大枠を映して説明している。


『三世代で楽しむ温泉宿の旅』という旅の日程だ。

横の専務が満足そうに頷きながら聞いている。


噂では専務肝煎りの企画を課長が具体的なプランにまとめたという。

なかなか『つまらない』とは言えない雰囲気だが…まあ、つまらない旅行プランだ。


「…そんなわけでお祖父ちゃんも息子夫婦も孫達も大喜びの旅行になること間違いなし!」


パラパラと会議室に拍手の音が響く。さすがに旅行プランナーの良心が痛んで盛大な拍手は出来ない。


「澤村くん、どうだね。感想は」

課長が俺に訊いた。…俺に振るか。


「…ええと、三世代で行く旅行というのは、その、意外と新しい切り口かもしれないですね」

専務が大きく頷いた。嬉しそうで何よりだ。


「それから…派手さはなくとも年配の方の健康面とか…そう、趣味に気を遣っていて、年寄りくさ…落ち着いた味わいがありますね…と思います。ハア」


課長が満面の笑みで専務の顔色を伺う。

「中々の評判ですな、専務」


「うん、うん。だが、どうだね。やはり改善点も聞かないと。ワハハ」

専務の鼻の穴が大きく膨らむ。


会議室の他の社員は何かを我慢しているかのように下を向いた。

肩を震わせている奴もいる。誰か何か言え、言ってやれ。


「ですよね。ほら、澤村くん、少しは直すところも指摘しないと。君達はプロのプランナーなんだから」

課長が執拗に俺を指名する。何で俺ばっかり。

もう帰りたい。


「うんうん。いくらいい案でもちゃんと練り合うことが大事だからな。何でも言ってみたまえ。遠慮はいらないぞ」

専務が上機嫌で俺を見た。


「ハア…では」

俺は静かにため息をついてからポツポツと意見を言う。

「若干年配の方の希望に寄りすぎている傾向はあるかもと。千葉なら水族館や遊園地・動物園もありますので、お孫さんの楽しめる場所を入れてみてはどうでしょう。温泉と海鮮と芸者遊びでは年配の男性しか…」


俺がそこまで言うと、他の社員達も堰を切ったかのように口を開き始めた。


「古いですね、発想が。昭和のオジさんの考えです」


「いや、それは昭和のオジさんに失礼だ。それよりよっぽど酷い」


「だいたい三世代っていう家族は減ってますし、マーケットがもともと狭いです」


「大方、初孫ができたジイさんが浮かれて考えた自分本位の案かと」


「没です、ボツ」


「プッ」



「き、君たち!何だ。その、その決めつけ、その、だ、駄目出しは!」

専務が椅子を蹴って立ち上がり、会議室の面々を見渡した。


顔が真っ赤になっている。

『頭から湯気を出す』というのは表現上のものだろうと思っていたが、本当に頭から白い蒸気が出ている。珍しいものを見た。


課長も慌てて立ち、専務を庇う。

「こ、これは専務の原案というか、もともとのアイデアが悪いのではなく。そう、誰かが作った大筋のプランがイマイチだったので」


専務は課長を正面から睨みつける。

「…プランの大筋を作ったのは私だ!」


「ひいぃぃぃ」

課長がか細い声で悲鳴をあげた。

さらにキョロキョロと周りを見渡す。


いやな予感がする。


「さ、澤村くん。君がきちんとしないから」


「ええっ?」

驚く俺を見て、他の社員達は眼を背けた。

誰か助けろ。


課長が理不尽な非難を続ける。

「君がもっと早く前向きな改善案を早く出さないから、専務の輝くアイデアがショボく見えるのだ」


相変わらずシューシューと頭から湯気を出し続ける専務。

なぜか俺の意見について延々と文句を言い続ける課長。


会議室の残りの連中はまたも眼を合わせないよう下を向いている。

だんだん面白くなってきている奴さえいるようだ。

何人かはまた肩を震わせて笑いを堪えている。



専務がため息をつきながら椅子にドシリと腰をおろした。

「フーッ…このプランは誰が作ったのかな。課長」


課長は何のことかわからずまたキョロキョロと視線を泳がせた。

そして…俺と眼が合う。何で。


「さ、澤村くん。君のこのプランだが…ボツだ」


「はい?」


「今週中に専務の名前で改良版を提案するように」


「…」


あまりのことに俺が黙っていると再び専務がゆっくりと口を開いた。

「うちの孫の誕生日は来週なのだ。私の計画で孫を喜ばせたいのだ。フン」

フンて何で威張って。


課長が俺を見て眼で訴える。

(澤村、察しろ。フォローしろ)

窮地を察して欲しいのは俺だ。


ハア…俺は立ち上がって無表情に発言した。

「穴の多いプランを提案して反省しております。来週の…」


専務が呟く。

「金曜日が誕生日だ」


「…週明けにはお孫さんが大喜びの三世代旅行案を再提案します…いや、多分専務がプレゼンされることでしょう。お楽しみに」


会議室に今度は安堵と賞賛と、幾分かの同情が混じった拍手がパラパラと鳴り響いた。








読んでいただきありがとうございます。

その3まで投稿しようと目論んでいたのですが、無理でした。

何とか火曜日には…と思っています。きっと。

できたらおつきあいくださいませ。

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