【下ネタ注意】男はただ……
叩いた……!盆踊り大会で櫓の上で和太鼓を叩く男のように……!叩いた……!時間が、情熱を孕んで膨れ上がり、男に別な世界を垣間見させるようだった。
感動とかじゃない。だが、涙は男の目から、頬へ、そして顎をつぅーと抜けて、尻へ。きちんと張られたティンパニの面のような、しかしマシュマロのように跳ねて柔らかい、そんな尻に。尻は赤らめて、もはや独立した生物のように、甲斐甲斐しく脈打った。 ジョッキーが馬の尻を叩くのは、前に進むためだが、私がこの尻を叩くのは……この尻に深く沈むためだった。叩かれたことによりつくられる音や衝撃が、尻と私との境界線を形作る内は、まだ繋がっているとは言えない。
やがて音が私と尻との間の外側に消えて、時間が消えて、空間が消えて、そこにただ尻と、私と、手と、赤みと、ぷるんと跳ねるそれがある時に、私は尻と一緒になる。私の手にも、尻にも、痛みがあるだけ。しかし痛みしかない。痛みが私をつくり、尻をつくり、それをつくる。
尻はまるで、森のようで、川のようだった。そこにあるだけで、偉大で雄大な、そんな感があった。男は延々と、そこに尻がある限り叩いた。男が道端の石ころなら、尻は道だ。男が炊きたての米なら、尻は熱々の釜だ。男がB級映画なら、尻は映写機だ。男が地球なら、尻は宇宙だ。
太陽はいつか死ぬ。宇宙もいつか死ぬんじゃないか。そしたら地球も……。
いつか死ぬって……、そりゃ当たり前だろう。どんな偉人だって、どんな政治家だってどんな往年の名優だって、死んで行った。残ったのは、彼らの生きた軌跡だけ。批判されまくった政策だけ。スクリーンに焼き付いたぶっさい横顔だけ。切り取られた瞬間が、その他と分けられて永遠に……。私が死んだって……この私と尻との奇跡で軌跡は永遠に残る。切り取るのは私でも尻でもなく、2つの快感だけ……しかし、なんだろうか、この尻が……この尻がやがて無くなって……私の目の前から消えて……やがて私も尻の前から消える……そして脳に焼き付いた衝撃も、何者かが残す永遠のシーンも、私が死んだら私の前から消える……意味ないじゃないか……死んだら骨だけっていうけど嘘だ、死んだら尻だけなんだ!そのはずなんだ……どうやらそうではなくて、死んだら骨だけらしい。
もう知ったこっちゃないな、と男は考えた。エクスタシーの狭間の妙な不安が生んだ新たなエクスタシー。どうでもいい、どうでもよくなってしまう。常にそこにあるはずなのに光が差し込まなければ意識しない部屋中に舞う埃。そんなものを見まいと、ただ見まいと、カーテンを思いっきり閉じた。そうすると、不思議なことにそれが快感になった。そう、叩くのと同じなのだ。叩くとは、つまり現実逃避の手法なのである。
もう叩き続けた。必死に。懸命に。叩いた。汗と涙と謎の汁が全部ひとつになって尻に垂れて、シーツに跳ね返って、シミになる。乾いて、また濡れて、乾いて、また濡れて……私は一体何時間叩いただろうか……。一体いつからいつまで叩き続けたんだろう……。もう、自分が叩いているのか、叩かれているのか、分からない。あ、作用反作用ってやつか……俺は、叩いているが、……叩かれてもいる。どっちだっていい……幸せとは表裏一体である……。あ、やべぇもうなんか……くっ......
男は腹上死ならぬ尻叩死を果たした。男と尻をネットに永遠に残そう。そうすれば、男の快感は永遠に残るのだ。
幸せなら手を叩こう。幸せになりたいなら尻を叩こう。