『今後の進路』
「君は徹頭徹尾、日常のことやみんなの様子に限って書いてたけど、その後、どうなったんだ?」
「私? 私はね……POAの所属になったの」
「そうなのか?」
「『世界の大変革』の中心人物だったから、修法者としてNWS(環境修復協賛団体)で活動することも出来なくて。代表をナタルさんに委譲して、POAで訓練生の教官職に就いたのよ」
「『万世の秘法』のレクチャーか……」
「うん。実技じゃなくて学科の特別講師にね」
「女教官じゃ、盛り上がったろうなぁ」
普段、男だらけの訓練課は、女に飢えている。浮かれた訓練生の騒ぎが見えるようだった。
「授業になったのか?」
「心配性ね。渋い顔をする人もいたわよ。その人たちが要所で締めてくれて、体面は保てたわ」
「ならいいが……それで褒めまくられて、そんなに綺麗になったのか」
「イジワルね。ちゃんと彼氏がいるって、公認だったわよ」
「それはマズイなぁ……」
彼氏がサクシードだとわかった途端、訓練生の嫉妬が爆裂しそうだ。
「そんなに心配する必要はないと思うわよ。……隠形術って知ってる?」
「いや」
「そうね、サクシードなら最強かな……」
レンナは左手で髪を耳にかけ、つまみのようなものを回す仕草をした。
するとみるみる、彼女の姿が光を消したようになり、少し地味な印象の女性になった。
「……!」
「わかった? この状態で授業してるから、ちやほやされてたわけじゃないわ。高貴な人が市井に降りるために、古くから使われている技術なの。世界の大変革の後は、こうするようにウェンデス様から指示があってね」
「へぇ、便利だな」
「……このままでサクシードに会えばよかったかしら」
「何でだ?」
「私を見て微妙な顔をする、あなたが見られたわ」
「残念、君が綺麗になったことは、みんなの手紙で承知済みだ」
「あなたなら何かあるって感づくわね」
「当然な。——早く元に戻りなさい」
「そうね」
レンナが同じ仕草をすると、たちまち瑞々しい美女が現れた。
その流れるような指の動き一つとっても、匂い立つような艶めかしさがあった。
あの、元気で溌溂とした中に、少女のようなかわいらしさがあったレンナはいなかった。
サクシードの胸をよぎる、微かな喪失感。
知ってか知らずか、レンナは顔を赤らめた。
「それからね、下宿のみんなもPOAの所属になったのよ」
「みんなが――? どうして」
「人員が決まっていなかった、執行部に配属されたの。もちろん、私も。そしてあなたも」
「俺も?」
「そのためにパラティヌスに呼び返されたのよ。聞いてなかったのね?」
「ああ……帰還命令が下っただけだった」
「元々、その計画があったから、私の下宿に集められてたみたいよ。「世界の大変革がなければ、あの時点で結成していた」って、ドギュスト部長が言っていたわ」
「そうか、俺はてっきり……」
まだ戦火の残る、カエリウス下層の因果界、『制裁の戦場』に派兵されるのかと思っていた。
それを断るつもりで、パラティヌスに帰ってきたのだ。
「サクシードが命令に従順でよかったわ。POA上層部が痺れを切らしたのよ。いつまでも中枢が機能しないままで、組織が目的を維持できるわけがない、ってね」
「目的——?」
「『世界ぜんたいん幸福』のための、具体的な活動よ」
「!」
「あなたに実力を磨いてもらうために、希望通りエスクリヌスに派兵したけれど……納得するまで五年もかかるとは、上層部も思ってなかったみたいね」
「君は――子の顛末を知っていたのか?」
「私が? いいえ……たぶんあなたのことだから、傭兵になってもエスクリヌスを離れないだろうとは思っていたけど」
「……俺の決断を待っていた、というのか……」
冷や汗の出る思いをする、サクシード。




