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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第三部
98/202

『残像』

 リコノ駅に着いた。

 売店でレンナは二人分の紅茶と、野菜たっぷりのサンドイッチを買って、サクシードに預けた。

「約三時間、爆睡OKよ!」

 指を三本立て、こっちを見て茶目っ気たっぷりに笑う――。

 サクシードは五年前、出逢った頃のレンナに再会していた。

 そうか、この時にはもう……。

 花束を両手で持ったレンナが、サクシードを見て微笑んだ。

「……」

 微笑みを返して思う。

 レンナが好きだ。かけがえのない、たった一人の俺の恋人。

 よく五年もの間、彼女を見ずに過ごせたものだ。

 再会は鮮烈だった。

 こんな美しい人を、行かず後家にするのは、確かにもったいない。

 ファイアートの手紙の一文が浮かぶ。


 ”いつまでも あると思うな 美女の気心”


 突然、吹き出すサクシードを、不思議そうに見やるレンナ。

「あ、いや、ごめん」

「なぁに、思い出し笑いなんかして……」

「ファイアートの手紙が傑作揃いだったんで、思い返してた。君の様子を事細かに……まるで俺がその場で見ているように。おかげで退屈知らずだった」

「嫌なサクシード。それくらいなら他にいくらでも見る方法があるのに」

「君を雄弁に弁護した、男らしい手紙だったよ?」

「知らないわ、男の人の考えなんか」

「理解してくれてるんだと思ってたけど」

「……あなたはストイックすぎるのよ。みんな心配していたのよ?」

「それには感謝してもしきれないよ」

「うん……」

 そんなサクシードだから、みんな言葉を惜しまなかったのだ。そしてサクシードも、一通一通に返事を書くことでそれに応えていた。

「みんなに会うのは楽しみだが……反面怖くもあるな」

「正直でよろしい!」

 言って笑い合うと、電車がホームに入ってきた。

 あの日と同じ、臙脂色に金の花と葉模様の汽車が。

 到着案内のアナウンスを聞きながら乗り込み、個室のドアを開けてレンナを通してやるサクシード。すれ違いざま、微かに香りがした。 

「……香水つけてるか?」

「わかった? レモンヴァーベナっていう、ハーブのオードトワレよ。お気に入りなの」

「ふーん」

「あんまり好きじゃない?」

「君の髪の匂いが好きだったからな」

「ああ、オレンジブロッサムね。それは変わってないわよ」

「——嫌いな匂いじゃないが、香水は苦手だな」

「あら、良いこと聞いたわ」

「レンナ……」

 困ったように言うサクシードを、レンナがからかう。

「どうしようかなぁ……」

「……」

「こういうのはどう? 私一人で出かける時や、都合の悪い時だけつけるの。それならあなたにもわかりやすいでしょ」

「わかった」

 パタッと手を小さく上げるサクシード。拗ねた子犬のようだ。

 クスクス笑うレンナを軽く睨んでいると、急にガタンと汽車が動いた。

「!」

「おっと……もう出発の時刻か」

 サッとレンナを支えたサクシード。柔らかく胸に埋もれる感覚があった。

 女らしくなったのは、言葉や見かけだけじゃない。

 スッと腕を離すサクシード。明らかに照れている。

 レンナはあっという間に形勢逆転されて、恥じらっていた。

 サクシードが迷ったのは一瞬だった。優しく笑いかける。

「座ろう。そして思う存分話そう!」  

  

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