『残像』
リコノ駅に着いた。
売店でレンナは二人分の紅茶と、野菜たっぷりのサンドイッチを買って、サクシードに預けた。
「約三時間、爆睡OKよ!」
指を三本立て、こっちを見て茶目っ気たっぷりに笑う――。
サクシードは五年前、出逢った頃のレンナに再会していた。
そうか、この時にはもう……。
花束を両手で持ったレンナが、サクシードを見て微笑んだ。
「……」
微笑みを返して思う。
レンナが好きだ。かけがえのない、たった一人の俺の恋人。
よく五年もの間、彼女を見ずに過ごせたものだ。
再会は鮮烈だった。
こんな美しい人を、行かず後家にするのは、確かにもったいない。
ファイアートの手紙の一文が浮かぶ。
”いつまでも あると思うな 美女の気心”
突然、吹き出すサクシードを、不思議そうに見やるレンナ。
「あ、いや、ごめん」
「なぁに、思い出し笑いなんかして……」
「ファイアートの手紙が傑作揃いだったんで、思い返してた。君の様子を事細かに……まるで俺がその場で見ているように。おかげで退屈知らずだった」
「嫌なサクシード。それくらいなら他にいくらでも見る方法があるのに」
「君を雄弁に弁護した、男らしい手紙だったよ?」
「知らないわ、男の人の考えなんか」
「理解してくれてるんだと思ってたけど」
「……あなたはストイックすぎるのよ。みんな心配していたのよ?」
「それには感謝してもしきれないよ」
「うん……」
そんなサクシードだから、みんな言葉を惜しまなかったのだ。そしてサクシードも、一通一通に返事を書くことでそれに応えていた。
「みんなに会うのは楽しみだが……反面怖くもあるな」
「正直でよろしい!」
言って笑い合うと、電車がホームに入ってきた。
あの日と同じ、臙脂色に金の花と葉模様の汽車が。
到着案内のアナウンスを聞きながら乗り込み、個室のドアを開けてレンナを通してやるサクシード。すれ違いざま、微かに香りがした。
「……香水つけてるか?」
「わかった? レモンヴァーベナっていう、ハーブのオードトワレよ。お気に入りなの」
「ふーん」
「あんまり好きじゃない?」
「君の髪の匂いが好きだったからな」
「ああ、オレンジブロッサムね。それは変わってないわよ」
「——嫌いな匂いじゃないが、香水は苦手だな」
「あら、良いこと聞いたわ」
「レンナ……」
困ったように言うサクシードを、レンナがからかう。
「どうしようかなぁ……」
「……」
「こういうのはどう? 私一人で出かける時や、都合の悪い時だけつけるの。それならあなたにもわかりやすいでしょ」
「わかった」
パタッと手を小さく上げるサクシード。拗ねた子犬のようだ。
クスクス笑うレンナを軽く睨んでいると、急にガタンと汽車が動いた。
「!」
「おっと……もう出発の時刻か」
サッとレンナを支えたサクシード。柔らかく胸に埋もれる感覚があった。
女らしくなったのは、言葉や見かけだけじゃない。
スッと腕を離すサクシード。明らかに照れている。
レンナはあっという間に形勢逆転されて、恥じらっていた。
サクシードが迷ったのは一瞬だった。優しく笑いかける。
「座ろう。そして思う存分話そう!」




