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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第三部
97/202

『再会』

 ローズアルバ号は、定刻より遅れて港に入った。

 直ちに据え付けられた鉄骨の階段を、人の波に紛れて降りていく。

 港に降り立った時、パラティヌスの和やかな気が足元から伝わった。この感覚は五年前にはないものだった。

 視線を上げた途端、その人は目の前に立っていた。

「サクシード……!」

「!」

 ミントグリーンのスプリングコートに、水色のワンピースからスラリと伸びた脚、白のパンプス、キャメルのバッグ。

 赤茶のセミロングをなびかせて、ナチュラルメイクにピンクベージュの唇、そして懐かしい翡翠色の透き通った瞳。豊かな笑みを湛えた瑞々しい美女、レンナがそこにいた。

「お帰りなさい」

 苦労を忘れさせる鮮やかな声は、あの時のままだ。

 言葉にならないサクシードの視線を受けて、レンナは手を頼りなく上げて自分を爪先まで見た。

「……どこか変だった?」

「見違えたよ、レンナ。すっかり変わったな……」

「そう? どういうふうに」

「綺麗になった」

 心からの賛辞が口をついた。

「あら、お世辞が言えるようになったのね。あなたも変わったわ」

「そうか?」

「かっこよくなった」

「それはどうも」

 肩を竦めて笑い合う。

「さぁ、行きましょうか。入国管理局はIDカード一つで手続き完了よ」

「ああ」

 二人はごった返す人の中を縫うように歩いて行った。


 メーテスの主街道を並んで歩きながら、レンナはサクシードに聞いた。

「本当にお腹空いてないの?」

「ああ、船の中で軽食を摂ってきた。安心したから早く帰りたい」

「何か心配事でもあったの?」

「……お叱りを受けるかと思ってな」

「宣言通りだったってだけのことよ。怒るなんて筋違いじゃない」

「それならいいんだが。お土産、用意してないんだ。すぐに船に乗ったから」

「そんな、いいのよ。それで文句をいう人は誰もいないわ。あなたが無事に帰ってきてくれたのが一番の贈り物よ」

「女らしくなったなぁ……外見を裏切ってないぞ。大したもんだ」

「ずいぶん褒めてくれるけど、これもサクシードのおかげよ」

「何にもしなかったのに?」

「考えて身に修める時間は十分にあったわ。ねぇ、私の方が渡したい物があるの。後で部屋に行ってもいい?」

「——安全は保障できないぞ」

「望むところよ、と言いたいところだけど。都合が悪いわね……」

「左様ですか」

 そういえば、満月を過ぎたんだった。魔女は暦通りにバイオリズムを刻んでいる。

「相変わらずだな……」

「サクシードの方が太陽暦に合い過ぎているのよ。どうすれば五年後の予定まで同じ日になるのか、調べたいくらいよ」

「それは俺よりPOA上層部に言ってくれ」

 というか、『万世の占術師』、ウェンデス・ヌメンの手腕だろう。人知の及ばないことを、日々政に活かす人物の神業だった。

「みんなも変わらないか?」

「ええ、相変わらずよ。そういえばファイアートから伝言があるわ。「電車の三時間で、五年の空白を埋めてこい」ですって」

「ハハハ、あいつらしい助言だな」

 手紙の恨み節は冴え渡っていた。ファイアートがそう言うのも無理はなかった。

 サクシードはリコノ駅に行く道の途中で、路地を曲がろうと言い出した。

「こっちに用事がある」

「?」

 するとその先に、小さな花屋が見えてきた。

「あっ……!」

 レンナが気づいた。花屋の主人は五年前にチューリップの花束を作ってくれた、あの無精髭のおじさんだった。

 花屋は二人の姿を見て、目を丸くした。

「おや、あんたたちは――!」

「お久しぶりです、おじさん。元気でしたか?」

 サクシードが言うと、花屋は店先に出てきて彼の手を両手で握った。

「いやぁ、すっかり立派になって! 本当に久しぶりだよ、相変わらず仲がいいじゃないか。それとお嬢さん! すこぶる美人になったね。あの時はボーイッシュなところがあったが、もう影も形もないよ」

「ありがとうございます、おじさん。あの時のチューリップ、まだ庭にあるんですよ」

「うん――? ああ、そういうことか! あんたたち、『万世の秘法』の関係者かい」

「はい」

「そうかそうか……生産修法とやらで、球根を再生させたわけだ。やるじゃないか、霊験あらたかだよ、ホント」

「おじさんもお店を構えたんですね」

「ああ、そう言われてみれば、あんたたちに会ってからツキが回ってきたみたいに、とんとん拍子だったな。お膳立てが効いたかな」

 三人は快く笑い合った。

「おじさん、彼女に花束を作ってくれませんか?」

「おお、いいとも。何がいいかな?」

「お任せします」

「こりゃ、大変なお題が出たな……どれ」

 花屋はバケツの花の中から、まず赤いバラを取った。それから赤紫のアネモネと白の八重咲ユーストマ(トルコギキョウ)、そして銀縁のシルバーレースで見事な花束を作って見せた。

「まぁ、こんなもんかな……花言葉は推して知るべし。お嬢さんはおわかりだろうがね」

「おいくらですか?」

「二千E(エレメン)かな」

「えっ」

「どうした?」

「あの……安すぎるんじゃ?」

「おじさん――」

「野暮なこたぁ言いっこなし! ちょうど今、お客様大感謝セール中でね」

「ありがとうございます」

 サクシードは花屋から花束を受け取り、レンナに両手で渡した。

「ありがとう、サクシード!」

「……」

 花と競い合うような美に、サクシードは感じ入っていた。

     

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