『全世界に向けて』
数時間後、世界の指導者であるパラティヌス統治者、ウェンデス・ヌメンより、全世界に向けてメッセージが発信された。
「皆さん、ご機嫌よう。今日は私から重大な報告があります。よく聞いてください。数時間前、世界に『名のない力』というエネルギー塊が飛来しました。これを私の部下・部署が吸収して、この世界の力としました。そして世界の構造を変えたのです。詳しくは後の情報を確認してください。それにより、世間を混乱させていた戦争扇動者、テロリスト、暴力団、悪徳業者、DV加害者などが因果界という場所に堕とされました。もう市民を脅かすことはありません。さらにこの世界、真央界と言いますが、こちらに残った方々は、虹球界という新しい世界に移住できる切符を手にしました。どうかこのことを念頭に置いて、冷静に行動してください。私からのお願いです……」
この放送の直後、真央界は騒然となった。
サクシードが配置されたエスクリヌスでは、警備兵によって車が緊急停止させられており、事故は不思議と未然に防がれた。
だが街を往来する人々は、ポカンとした後、もう一度頭の中でウェンデス統治者の言葉を反芻し、がやがやと言い合った。
「どういうこと?」
「世界の構造が変わったとさ」
「いきなりそんなこと言われても……」
「パッと見、何の変化もないよな」
「これからわかるんじゃないの」
「世界の悪党が何とかって世界に堕ちたって言ったな
「マジかよ、すげぇ」
「そいつはめでたい」
「これからテロに怯えなくていいんだ……」
「やったな……」
「おう、やったぜ」
「カピトリヌスの内戦も終わったよな」
「ああ、そう。あそこは酷いから、これからいろいろ梃入れするんじゃないかな」
「なんかいろいろ大変そうだな」
「いやいや新世界の幕開けだよ。だからいい大変ってことでいいじゃないか」
「そうかぁ……!」
「俺、勉強しよ」
「私も。買い物する気なくなっちゃった」
人々は概ねそのように受け取り、家路につくのだった。
「意外とみんな冷静だったな」
先輩警備兵がサクシードに言う。
「そうですね。ちょっと見ただけでは何の変化もありませんから、落ち着いていられるんでしょう」
「偉大だな、万世の魔女と天窓の鍵、それに生命の樹は」
「はい」
「俺、神って信じてなかったんだけど、今度ばかりは思い知ったよ。やっぱり遠くで俺たちのこと見守ってるんだな」
「先輩の殊勝な改心に、神様もびっくりですよ」
「こいつ!」
「ははは」
と、その時、急に往来へよろめくように駆けてきた老婦人が叫ぶ。
「だ、旦那がいなくなった……!」
ざわめく人々、ここからが正念場だ。
「おいでなすった! 行くぞ、サクシード」
「はい!」
二人は騒ぎの中へ身を投じた。
一般市民の中にも、因果界や虹球界に往った者が相当数いる。
サクシードの任務は市民の混乱を収めること。
世界を統率する思想、万世の秘法、その最高位である修法者として、必要な措置を取ること。
万世の魔女の偉大な仕事を引き継ぎ、人々を指導し、希望の種を蒔く。
その仕事は根気強く、数年の間続けられた。




