『空の儀』
レンナは一人、真央の部屋に入って扉を閉めた。
そこは不揃いの岩が積まれ、中が三平方メートルほどの小さな部屋があり、中央に敷物が敷かれている以外は何もないところだった。
ブーツを脱いで敷物に立ち膝になり、首から下げた天窓の鍵を取り出す。
それは白い金属に六芒星が象られた中に青緑色の宝石が埋め込まれた、ごく小さな鍵だった。
両手に鎖をかけ、手を組み、はるかな場所より飛来する名のない力を透視する。
真っ暗な空間をつんざいて、光をまき散らして膨大なエネルギー塊がやってくる。
あと約一時間——。
事ここに至って、他には何もすることがなかった。
名のない力がやってくると、生命の樹に託宣されたのは、約一年前だった。
三千年近い歴史の中で二回、ニアミスしたことがあるという。
その時の混乱の記録が残っているが、地震や津波、天候、生態系異常と大変な事態だったらしい。
これを収めたのが、創世紀のカプリチオ・エスペラード女王と万世紀の聖女フローラ・フラメンであった。
二人は世紀こそ違え、取り乱す人々を導き、平和の尊さを説き、復興に尽力したという。
どうやら天窓の鍵は下賜されていなかったらしく、それは有史以来、レンナが初めてである。
研究者によると、三人の女性は遠い血縁なのではないか、という推論がある。
しかし血縁であろうとなかろうと、無事この難局を乗り越えなければ意味を成さない。
そのため、レンナに架かる重圧は相当なものだったが、「大丈夫」と言えるほど、考えつく限りのことはしてきた。
時間だ。深呼吸して気を調える。
名のない力を導管として通し、心で受け流す。
勝負は一瞬。
瞑想状態になり、第五層にある白く巨大な生命の樹と繋がる。
風がざあっと吹いて、梢を揺らす。
天窓の鍵がきらりと輝いた。
そしてすべてが決した。
レンナが真央の部屋から出てきたのは、小一時間経ってからだった。
詰めかける人々に、眩しい笑顔で「終わりました」と告げる。
途端に沸き起こる大歓声。
地面が少しも揺れず、何事もなかったのが偉大な仕事の証。
世界は予告の下に構造が変わったが、それは人が曲がり角を曲がるほどの当然さで済んだのである。
「よくやった! 偉いぞ」
「無事でよかった。レンナちゃんもみんなも」
「ばんざーい、ばんざーい」
「いやぁ、やっぱりやってくれる」
「生命の樹が選ぶ人は何かが違うよね」
「君に任せてよかった」
人々は大変な喜びようで、レンナをもみくちゃにした。
それを止める警備兵はいなかった。
彼らは集合をかけられると、すぐにでも真央界に向かい、配置につかなければならなかった。
サクシード・エターナリストもその様子を遠巻きに見ながら、自らの任務に戻っていった。




