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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
91/201

『恋人の笑み』

「ただいまー」

「お帰りなさい」

 キッチンに顔を見せたサクシードに、レンナは慈母の如き微笑みで迎えた。

 おや、と思ったサクシードだったが、レンナはその手を取って一言。

「サクシード、お話があるの。あとで書庫室に来てくれる?」

「あ、ああ」

「ありがとう! 着替えてきて、すぐお夕飯よ」

「わかった」

 レンナが今朝の態度を責める様子がないので、サクシードは構えていた気持ちを置くことができた。

 それは下宿仲間も同様だった。

 ファイアートは面白おかしく今日の出来事を話していた。

 ロデュスは困り顔で聞いていたし、ラファルガーは突っ込むのを忘れなかった。

 フローラはレンナと、お流れになったチーズフォンデュをいつにするか相談していて、レンナは今度の日曜日がいいと言っていた。

 みんなとそれなりの会話をしたが、どうもサクシードが塞ぎ込んだのを鷹揚に受け入れたらしい。

 そんなこともあるさ、と言っている。

 みんなをまとめたのはレンナでしかあり得なかったが、彼女はそんなことはおくびにも出さなかった。

 戸惑うサクシード。しかし、彼も暴くようなことはしないでおいた。

 そしてお茶の時間に二人で抜け出して、書庫室へ。

 温かいマグカップにはカモミールティー。

 一口飲んで、レンナは話を切り出す。

「あのね、サクシード。聞きたいことがあるの……あなたがリラックスするのはどんな時?」

「リラックス……?」

「うん!」

 意図をはかりかねて、サクシードが眉をひそめる。

「あなたをずっと見てきて思ったの。いつも何かしようって、気合いが入ってるけど、息抜きしてるところを見たことないのよね」

 この申し出はタイムリー過ぎて、サクシードは思わず尋ねた。

「昨夜何があったのか、知る方法があるのか?」

 生憎サクシードはそういう情報に明るくなかった。

「何のこと? あなたが教えてくれること以外は知らないよ」 

「……」

「私といる時でさえ、気を抜いてないよね。それじゃ疲れちゃうわ。一人でいたい時だってあるでしょ? そのための自分の部屋よ。立派でいてくれるより、素顔でいられる時間を作ってくれた方が嬉しいよ。そうしてほしいなぁと思って」

「……君といて疲れたなんて思ったことはないよ」

「嘘つき! 初日に私とファイアートがお互いの縁を「腐れ縁!」って笑った時、明らかに疲れてました」

「あれは君たちの仲がいいから、圧倒されただけで……」

「ふーん……正直にならないと、また肩揉むわよ」

「それはやめてくれ!」

「苦手なこと発見。やる気があるのはいいことなんだけどね。行き過ぎると、みんな引きずられちゃうのよ。それでロデュスみたいに疲れちゃう。はっきり言うわ、ペースを落としてほしいの」

「……」

「散々、自分のことに巻き込んでるから、言う資格があるかって言ったらないんだけど。これは下宿の世話人として言わせてもらうわね。その上で私のこともよろしく!」

「無茶苦茶だな」

「あなたらしく生きてほしいの。私はお節介だから、あなたのためになるなら苦言も呈すし、その逆なら敢えて言わないこともあるわ。そこは応用が効くのよ」

 ハッとしてサクシードがレンナを凝視する。

 ニッコリ笑って、レンナは言った。

「私の恋人になるって、そういうことよ。よーく覚えておいてね」

 一筋縄ではいかない恋人の微笑に、サクシードは初めて女性を怖いと思った。













 

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