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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
9/175

『下宿シンパティーア』

 いよいよ、湖岸の下宿『シンパティーア』に到着した。

 道路沿いに建つ離れの脇を通り、庭を過ぎ母屋の玄関から入る。

「さぁ、どうぞ。ただいまー!」

 レンナがサクシードを招き入れ、声を張り上げる。一瞬、反応がなかったが、間もなくリビングに通じる扉が開いた。

 中から出てきた少女に、サクシードは息を呑んだ。

 豊かに波打つ藍色の髪を持つ、ほっそりと華奢な美少女。俯き加減に咲く白百合のような立ち姿。薄いピンクのフリルのカーディガンに、グレイのフレアスカートがこの上なく似合っている。

「お帰りなさい」

 声も柔らかく、優しい音色をしている。

「ただいま、フローラ。待ったでしょ?」

「いいえ。レンナさんたちこそ、お疲れ様」

「紹介するね。こちらサクシード・ヴァイタルさんよ。サクシード、フローラ・フラメンよ。私たちより一つ年下の十六歳」

 会釈して挨拶するサクシード。

「サクシード・ヴァイタルです。よろしく」

 にっこり笑ってフローラが答える。

「初めまして、フローラ・フラメンです。ようこそ、シンパティーアへ」

 サクシードはフローラの瞳を見て驚いた。深い海の青、どこまでも澄んでいる。まるで別世界の住民だ。

「すっごい美少女でしょ。びっくりした?」

 レンナが、サクシードの心を読んだように言う。

 サクシードは、一瞬レンナの顔をまじまじと見て、スッと視線を逸らした。

「?」

 これまでの親しさから、サクシードの反応に違和感を覚えるレンナだった。

 そこへリビングから声がかかった。

「おーい、そこで固まってないで、早くこっちにおいでよ」

「今行くわ」

 気楽な男性の声に呼ばれて、レンナに続いてサクシードがリビングに入り、フローラが扉を閉めた。


 明るいリビングはずいぶん広々としていて、壁は生成り色、家具は木製、ソファーセットはモスグリーンだった。

 ソファーには男性が三人いて、一人はのっぽでニカニカ笑った青年で、一人は中背で片目を金髪で隠した青年。一人は優しそうな小柄な少年だった。

 サクシードは一目で彼らの名前がわかった。聞いていた通りの雰囲気が、姿に顕れていたからだ。

 扉に近いソファー側に、レンナはサクシードを促した。対面に金髪の青年と小柄な少年が、脇にのっぽの青年とフローラが入る。

 中央の白木のテーブルを囲んで、一堂に会した。

「紹介するね、サクシード・ヴァイタルさんよ」

 レンナが言うと、のっぽの青年が手を差し出した。

「よっ、お疲れー! 待ってたよ。僕はファイアート・メイタリス。年上だけど”さん”付けはなしだぜ。よろしくな」

 気軽で陽気なファイアートに、偉ぶる様子はまったくない。ゆるくカールしたくせっ毛は薄紫色。目は灰色で幾分吊り上がり、良く動く眉は弓なり。鼻は小さく反っていて、口は大きく、表情豊かそうだ。服装は臙脂色と白のTシャツの重ね着と、丈の短いオリーブ色のズボンで、ラフな感じがする。

「よろしく、ファイアート」

 素直にサクシードが希望に沿うと、満足そうに何度も頷いた。

 すると、また違う手が差し出された。金髪の青年だった。

「ラファルガー・サインスだ。ラファルガーでいい」

 ぶっきらぼうな挨拶と、片目を隠した髪型に、得も言われぬ迫力がある。月のような白い肌に、ミステリアスな紫の瞳。ファイアートとは対照的に無表情だが、整った顔立ち。服装はベージュ色のセーターと水色のシャツ、黒のズボン。彼はぞくっとするような美青年だった。

 サクシードが握手すると、血が通っていないかのような冷たい手! だが、逆にラファルガーの方は熱い手だと思っただろう。

「よろしく、ラファルガー」

「よろしく」

 視線が対峙したが、すぐに逸らされた。

 そして、最後に小柄な少年が手を差し出した。

「初めまして、サクシードさん。ロデュス・スカルフです。ロデュスと呼んでください」

 素朴な心温まる誠実さが伝わってきた。

 上を逆立てて、下を伸ばすという変わった髪型で、緑色をしていた。顔はあどけなく、薄い眉とびっくりしたような金茶色の瞳、低く座った鼻におちょぼ口。服装は淡い黄緑色のシャツにチョコレート色のベスト、肉桂色のズボン。とても個性的だ。

「よろしく頼む、ロデュス」

「はいっ!」

 早くも信頼関係を築いて、自己紹介が終わった。

「というわけで、夕食にしましょうか」

 レンナが手を打って言うと、ファイアートたちは心得たようにダイニングに移動していく。

「お腹空いたでしょ。いっぱい食べてね」

 見上げてくるレンナに、サクシードは言った。

「レンナ」

「なに?」

「いいやつらだな」

「そうでしょ」

 レンナは胸を張って威張って見せた。苦笑するサクシード。

 どんな価値観を持っているのか、大いに興味を惹かれるところだが、今は歓迎のために振舞われる料理に、舌鼓を打つことが先だった。

  

 

   

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