『レンナの傍を』
午後五時半——。
研修センターで国際法律学の学科を受けていた訓練生が、時報で解放された。
「今日はこれまで!」
学科教官のゴア・レーラーは、三重顎に小さな目が丸眼鏡に埋もれた、四十代後半の中年だが、決して授業を長引かせないことで有名だった。
「うがーっ、終わったぜい!」
派手に伸びをする訓練生たち。ゴキゴキ肩を鳴らす。
ほとんどの訓練生は、がやがやとロッカーのある訓練ドームに向かい、サクシードたち三人は、最後に消灯して教室を出た。
「目一杯だったなぁ。昼過ぎに学科詰められると、眠くていけねぇぜ」
ジャンティが欠伸すると、イーリアスが苦笑した。
「確かに身体動かしてる方が楽だな」
「法学の決まりきった文言見てると、眠気倍増だもんなぁ。俺、途中でサクシードのノートの書き込み見てたもん。すっげえ几帳面な字でびっしりと。よく気力が続くよ」
「俺は中途入隊ですから、追いつかないと――」
「言行一致してないと、対応に困るからな」
イーリアスも同意する。
「俺なんか、覚えたそばから忘れていくぞ」
「威張るなよ……」
「超法規的措置が本分だからいいんだよ」
「いるよな、基本守れない言い訳に、そう逃げるやつ」
「RPGで学習するご時世だぜ? 実際の事例に対処する能力を養うのに、効果が出始めてるって報告あったぞ」
「身に修めるのにRPGでは役不足です。結局、真に根づいた実力しか、いざという時は頼りになりませんから」
サクシードが断言するので、ジャンティも引き下がった。
「ま、とどのつまり実力主義が幅を利かせてんだけどさ」
研修センターの入り口まで来ると、ドギュスト部長が壁に寄りかかっていた。
「お、部長。お疲れさんっす」
ジャンティが敬礼する。サクシードたちも続く。
「お疲れさん。——サクシード、ちょっといいかな?」
「——はい」
「じゃあ先に帰るぜ、サクシード」
「お疲れ」
「お疲れ様です」
ジャンティたちが行ってしまうと、ドギュスト部長はおもむろに話を切り出した。
「君から話したいことがあるだろうと思ってね」
「恐れ入ります」
一拍置いて、サクシードは言った。
「私の実戦デビューは、豊穣の十月ということでしたが」
「延期、だね」
「はい、名のない力の問題が片付くまで、下宿を離れたくありません。身勝手で申し訳ないのですが」
「下宿というか、レンナの傍を、だろ」
「……」
「もちろん、ウェンデス様を始め、POA上層部はそのつもりで調整に入った。心配はいらないよ」
「ありがとうございます」
「レンナが修法者なのは知ってるね」
「はい」
「彼女の指導でも修法行はできる。課題の性質上、考えすぎるのもよくないんで、君のレクチャーを任せようと思ってる。ただ、一年しかないからなぁ。万武・六色全部とはいかないが、どれか一つに絞って、特化技術にした方がいいと思う。——レンナにそう伝えてくれないか?」
「わかりました」
「うん、じゃあ頼んだよ」
「はい、失礼します」
つと、行きかけたサクシードに、ドギュスト部長が声をかける。
「あ、そうだ、サクシード」
「はい?」
ニヤッと笑って、ドギュスト部長は言った。
「上からのお達しだ。青春、大いに結構、だそうだ」
今朝の一幕のことだ、とピンとくるサクシード。
「自重します」
即座に言ったが、ドギュスト部長は苦笑した。
「だから、謳歌してもらった方が、かえって都合がいいんだってば」
「はぁ……」
ポン、と肩に手を置いて、ドギュスト部長は言った。
「ゴーサインは出てる。レンナのことは任せたよ」




