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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
84/201

『その頃、下宿では…』

 下宿ではロデュスがフローラと意見を交わしていた。

 レンナは戻ってきていたが、一人になりたいと言って、部屋にこもっている。

「フローラの立場から、生命の樹に意見することはできないの?」

 ロデュスはレンナのために、何とか打開策を立てようと必死だった。

 その気持ちがわかるから、フローラは力の及ぶところと及ばないことの明確なラインを示した。

「……生命の樹の意思を仲介できるのは、レンナさん一人だけよ。わたくしはどうしても女神様を介してしか、生命の樹の第二義的な決定事項しか受け取れないの」

「だって、生命の樹より女神様の方が格は上なんじゃ……」

「つまりね、名のない力の衝突は、第十層神界が取り仕切る事柄ではなくて、あくまで第五層生命樹界が切り盛りする出来事なの」

「じゃあ女神様も、当たり障りのない事柄しか関知できないってこと?」

「ええ……おそらく生命の樹がレンナさんを側に置いていたのは、名のない力に備えてのことだった、と言えると思うのだけれど。源たる力が決める事柄は、わたくしたちの心の奥の奥にあって、把握が難しいの」

「そうか……フローラでも難しいのか」

 がっかりして肩を落とすロデュス。

「ごめんなさい。でも……レンナさんが心を導管のようにする方法なら、お手伝いできると思うの」

「本当に?!」

「ええ、降霊界に伝わる『空の儀』は、有り様がよく似ているの。レンナさんなら習得できると思うわ」

「すごいよ、フローラ! じゃあ今すぐレンナさんに……」

「待って、ロデュス。あと一年……時間をたっぷりかけてレンナさんに空の儀に臨んでもらいたいの。気持ちをあるべき処に落ち着けることも、今のレンナさんにとっては大仕事なの。焦りは禁物。側にいるわたくしたちが、ペースを落とす役割があるのを忘れないで」

「あ! そうか。そうだよね、ごめん」

 それからロデュスは、これからのレンナに必要な接し方について、フローラに篤と教えられた。


 その頃、リビング向かいの部屋では、レンナがライティングビューローで顔を横向けにして、腕枕して伏せっていた。

 窓のレースのカーテンが、風にドレープを作っている。

 ぼんやり見ながら考える。昨日までの自分と違う自分を。

 それまでは、できること――可能性の世界に生きていた。

 今は近い未来に、できないかもしれない不安がある世界だ。

 どんな高い壁があっても、努力して乗り越えてきた。

 だが、今回ばかりは……自分のことだけではないだけに、割り切れない思いでくすぶっていた。

 並大抵ではない、まるっきり質の違う努力が求められていることがわかっていた。

 そして、フローラが解決の糸口を握っていることも。

 サクシードに、乗り越えられるような気がする、と言ったのは間違いではないが、    その時、見えたと思った希望の光も、不安という雲の向こうに隠されていた。

(……どうするの?)

 そう自分に問いかける。

 一人で抱え込むには、名のない力は手強すぎる。

(また自分を変えなくちゃいけない――)

 レンナはサクシードが直面したものと、同じだが似て非なる抵抗感に突き当たっていた。

(みんなに迷惑をかけずに、成し遂げるにはどうしたらいい――?)

 本音が出た。

 世話をするのは好きだが、されるのは苦手意識があった。

「……ダメだ。一歩も進めない!」

 状況に折れればラクなのだが、それはしたくない。

 今までの自分という執着と、まっさらな状態に戻らなくてはならない本来の在り方が、せめぎ合っているのだった。

 どちらかというと――堪えきれずサクシードの腕の中で泣きじゃくる、といった、それまでの自分にはありえない反応の方が求められていた。

 そうやって心で抵抗を生み続けることが、後々首を絞めるのに薄々気づきながら。

 レンナは気力の浪費を続けていた。

 











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