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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
82/201

『サクシードの物思い』

 パイオニアオブエイジ(POA)地下本部——。

 午前八時、訓練ドームでは訓練生たちが東向きに整列していた。

 小柄で褐色の肌のナムジン教官が、トレーニングの内容を発表する。

「注目ー! 今日のトレーニングは、トラック十周で軽く流し、休憩後に筋力トレーニング各種、最後に障害物競走で締める。以上だ、五分後にスタートするぞ。各自をウォーミングアップしておけ!」

「オーッス!」

 Tシャツにスパッツ姿の訓練生たちは、思い思いに散らばって、ウォーミングアップを始めた。

 サクシードが屈伸していると、後ろからジャンティが声をかけてきた。

「つれないな、サクシード。一人でさっさと始めるなって」

「いや、訓練ですから、仲良しこよしというのも……」

 サクシードにこそっと言うジャンティ。

「……よくあのダンの視線に耐えられるな?」

 斜め後方では、ダンがサクシードをライバル視して、目をぎらつかせていた。

「記録保持者に勝てる気はしませんが――これも勉強ですよ」

「さすが日々英気を養ってるだけあるな」

 レンナのことを言ってるのだとすぐわかる。

「……」

 サクシードがサッと表情を曇らせたのを、ジャンティが勘違いする。

「おおっ、図星か? 羨ましいぞ、このっ!」

 隣で聞いていたイーリアスが口を出す。

「バカ! デリカシーってもんがないのか、おまえは」

「バカで悪かったな。青春爆走真っただ中、からかわれてナンボだろうが」

「サクシード、悪い。こいつ昨夜も君の待遇にくどくどこぼして――」

「バラすなよ、イーリアス」

 二人の会話に吹き出すサクシード。

 改まって礼を言う。

「……ありがとうございます」

「な、何が?」

「こちらの話です」

 それ以上、突っ込めない雰囲気に、二人は顔を見合わせた。

 打ち明けるわけにはいかないが――と、サクシードは思った。

 下宿生活を送れているのも、天の配剤だとわかる。

 今、この時、レンナの傍にいることも偶然ではないだろう。

 傍にいる、と約束して、泣いて喜ばれた。

 それがすべてだった。


 ピーッとホイッスルが鳴って、トラック十周マラソンはスタートした。

 今日もまた、ダンが飛び抜けて速い。

 そして、やはりサクシードが続く。

 後方にはガルーダたちが集団で迫り、やや遅れてジャンティが追っていた。

 三周する頃には周回遅れが出て、トラックに満遍なく散らばった。

 ダンが何度も振り返って、サクシードとの距離を確かめる。

 対してサクシードは無心で走っていた。

 十周くらいなら、ペース配分はほとんど考えなくてもいい。

 かなりのハイペースで走っていることに、気づいていなかった。

 ダンとの距離が徐々に迫っていく――。

「おいおい、マジか?」

 二人を目で追わない者はいなかった。

「ゲルツ!」

「……」

 秘かにサクシードを敵視している、ゲルツたちも同様だった。

 サクシードがダンの背中を完全に捉える。

 ダンは逃げるように必死に走っていたが、サクシードはペースを崩さなかった。

 いよいよ追い抜くのでは? という頃、二人は同着でゴールした。

 ハァハァと肩で息をするダン。

 ゆっくり呼吸を整えるサクシード。

 この二人の競争が際立って、手を抜かずに走ったガルーダらが霞むほどのデッドヒートだった。

 憎々しげにサクシードを睨むダンの視界を遮るガルーダ。

「競技じゃねぇんだから、記録は関係ねぇ。人に囚われるな」

「ガルーダさん……!」

「記録より総合力を重視しろ」

「……!!」

 ガルーダの取りなしに、歯噛みして悔しがるダン。

 一方、サクシードの周りには、例によって能天気な先輩たちが群がっている。

「やっぱすげぇわ、おたく」

「鉄の心臓だよなぁ」

「次は抜かしちまうんじゃね?」

「下馬評、覆しやがんの」

 バンバン叩きながら、健闘を称える。

「相棒は例によって、あそこで伸びてるけどな」

 見ると、ジャンティはゴール近くで大の字になっていた。

 サクシードは会釈しながら群れを離れると、ジャンティの方へ向かった。

 側ではイーリアスが、しゃがんで一言述べていた。

「懲りないやつ。後の訓練に響くだろうが!」

 ゼーハー言いながら、ジャンティはピースして見せる。

「な、なんのこれしき! 絶対スキルアップしてやるぜ」

「ジャンティさん?」

「おー、サクシード! 見てた? 俺のハイグレードな走り」

「サクシードは後ろなんか見てないって」

「すみません」

 その通りだった。少し薄情だったかと思う。

「気にするな、こいつがバカなんだ」

「バカバカ言うな! っこらせ。それに、一度ハイペースで走っておいて手を抜くなんざ、言語道断だろうが」

 起き上がってジャンティが事情を明かす。

「それはそうだが……」

 イーリアスが眉をひそめる。

「いいんだよ、これで。ほれ、次いくぞ!」

「はいはい」

 身軽に立ったジャンティに呆れながら、イーリアスはサクシードに言った。

「伸び盛りなんで、聞く耳持たないとさ」

「将来有望ですね」

 軽口を叩きながら、次の訓練の準備をする。

 ナムジン教官が、二人一組になって腹筋と背筋を百回ずつ行え、と大声で指示していた。


  













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