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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
80/201

『レンナの決意』

 熱めのシャワーが気持ちいい。

 目を閉じてお湯の心地よさを染み渡らせて、レンナは昨夜の疲れを溶かしていく。

 若く細い肢体がピチピチとお湯の玉を弾き返す。

 鏡に映った自分の身体は、まだ女性らしさにはいささか欠けていて、少し痩せすぎの脚が嫌いだった。

 いくら食べても太らない体質だったから、食養法にはこだわったが、あまり効果は見られなかった。

 今は――そんな小さな悩みがたまらなく愛しい。

 何も知らなかった。

 こんなことが立ちはだかるとは夢にも思ってなかった。

 できることなら、現実にうずくまってしまいたい。

 でも……サクシードやみんなを守るためなら。

 レンナは自分でも驚くほど真剣な顔で、鏡に向かって呟いた。

「私なら、きっとできる」


 準備が整ったレンナを見たフローラは、自分のことのようにどぎまぎした。

 麻色のジャケットに、淡い黄色のタイブラウス、紺のシフォンスカート、マリンブルーのハイヒール、小さめのキャメルのバック。

 カジュアルの多いレンナにしては、ややトラッドな装いだった。

 そして、魔法をかけたようなナチュラルメイク。

「気合入ってんなぁ。オフィスレディな感じ?」

 ファイアートなどは呑気にそう言ったが、フローラにはわかった。

 これはレンナの決意の表れだと。

「……じゃあ、行くか」

「はい」

 はい、か。

 サクシードは何か予感めいたものを感じ取っていた。

 玄関のドアを開けて下宿を出る二人を見て、フローラは祈りを捧げずにいられなかった。


「春らしくなったね」

「そうだな」

「そろそろ革のジャンパーは暑いでしょ」

「一張羅だからな」

「ジャケットとかだと涼しいよ。着回せて便利だから、一着あると助かるのよね。あ、そう言えば……」

「そうじゃないだろ」

 レンナの話を途中で遮って、サクシードは説明を迫った。

「……びっくりしたでしょ。急にいろんな話をされて」

 黙って頷くサクシード。

「私が生命の樹がある第五層生命樹界に往ったのは、五歳の時だったわ」

「……」

「生命の樹はこの時をずっと待っていたんですって。混迷する人界に、より多くの援助を送れるように、神様にお願いしていたらしいの。神様の答えが天窓の鍵という神様の道具。それを、生命の樹が、この人と思う人物に預けて、より多くの根源エネルギーが人界に流入する仕組みを作った。私は生命の樹に選ばれて、以後、天窓の鍵を預かることになったの」

「——どうして君が選ばれたんだ?」

「……幸せだったから。そう云われたけど、確かにあの頃は何も怖がってなかったし、疑ってなかったかな」

「……それで?」

「私の超常能力に気づいた両親が、鎮守府に相談して、ウィミナリスで万世の秘法を学ぶために、留学することになったわ。いろいろあったけど……ともかく、十二歳の時に修法者にまで上り詰めた。帰ってきてからの初仕事は、パラティヌスの西に広がる霊長砂漠の砂漠化防止だった」

(十二歳——)

 同じ頃、サクシードは祖父にやいやい言われて、うるさがっていた。

 そんな時分から、国の命運を背負って仕事してきたレンナの言葉は重い。

 それなのに、淡々と話すところがレンナらしい。

「その時に施した、修法陣という天地の運行を調整する術に問題が起きた。霊長砂漠だけじゃなく、世界に大きく十字架を描くように、四方中央五箇所に修法陣が施されてしまったの。それが――」

「天窓の鍵を持っていたが故のアクシデントだったんだな」

「そう……私はウェンデス様、万世の占術師様の英断で守られたけど、二度とアクシデントが起こらないように、修法者としての活動が制限されたの」

「なるほど、その処遇は仕方ないな」

「うん。私は別の身の処し方を考えて、下宿を運営することにしたの。これが現在までの諸事情ね」

「ああ」

 ヒヨドリが二人の目の前を滑るように飛んだ。

 けたたましく啼いて、遠ざかる。

 目で追ったレンナを切なさが襲う。











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