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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
8/175

『ソウルメイト』

「うーん、下宿人のことは会ってから情報交換するとして、何を話そうかな……」

 どうやら話題が思いつかないらしい。

 サクシードは両膝に両膝を乗せると、手を組んで身を乗り出した。

「レンナはPOAをどう思う?」

「えっ、どう思うって」

「武力は必要だと思うか?」

「……そうね」

と言ったきり、黙って考えをまとめる。

「……現実にテロの脅威にさらされてる人たちがいるよね。その人たちを守るには警備が必要だし、テロの悪芽を摘み取るには捜査が必要でしょ。でも武力というのは、主に戦争で使われるのであって、テロに対抗するには別の何かが必要だと思うわ」

 深い洞察に、サクシードの目が光る。

「例えば?」

「国家間の連携とか、危険地帯の一掃とか。民間レベルから始めて、世界全体を組織化するの。POAは主要宮廷国は連携していても全体ではないでしょ。でも全体じゃないと意味がない」

「そうだな。テロは中枢の手の及ばないところでも起こるからな」

「だから武力でカバーするしかないんでしょう」

「しかし、テロリストは武力を使う。対抗するには武力が必要だ。警備にも捜査にも規模は小さくても、やはり武力は用いられる。払拭することはできない」

「対抗することを考えるから、払拭できないんじゃないかな」

「無抵抗主義じゃないよな」

「ううん、それじゃ蹂躙(じゅうりん)されるでしょ。テロは無差別攻撃だもの。私が言いたいのは、テロを防ぐ方法。それを開発する技術と知恵が必要だと思う」

「技術と知恵、か……」

「うん……答えになった?」

「ああ。俺はそれが完成するまで、社会を守り抜けばいいんだな」

 スカウトされたものの、サクシードはPOAの存在価値を、今一つ世の中に位置付けないでいた。

 だがレンナの考えを聞いて、腹が据わった。

 レンナなら答えられると思ったのだ。平和の中にいても、物事に対する関心の高さが違う。初対面でこんなに情報を引き出されるとは思っていなかった。

 手応えのある出会いに、サクシードは満足だった。


 すっかり暗くなった車内に明かりが灯り、通路を歩く人の数が増えてきた。

 反対路線とすれ違うと、首都からの帰宅者で満員だった。

 森に隠れて見えないが、西側(左)には縦長のレピア湖があるはずだ。

 間もなく汽車はバッソール駅に到着する。

 毛布を畳むサクシードにレンナが言う。

「セルフサービスだから、お願いね」

「これくらい常識だろ」

「しまい方があるのよ。四つ折りにして、輪を手前に……そう、ありがとう」

「細かいな」

「そうしておけば、係員はチェックするだけだから」

 指差し確認して、個室を点検する念の入れようだ。

「これでよし」

 マナーのいい客だった。サービスに慣れている。

「じゃあ行きましょうか」

 個室を出ると、数人が荷物を持ってたむろしていた。バッソール町の住人だろうか。レンナが静かにしているので、サクシードも黙っていた。


 汽車は定刻通り、十七時二十四分に到着した。

 ホームに降り立つと、ひんやりした空気が身体を包む。

 予想に反して降り立った人々は三十人ほどで、レンナによると一駅前の住宅街の方が乗降者は多いのだとか。

 改札を抜けて、小さな駅を出ると、花壇とモニュメントが中央にあるターミナルがあった。大多数は正面の道路と通って行き、数人は駐輪場へ行く。二人は正面の道路を歩いた。

 両側は小さな商店街で、もうほとんどの店は閉まっている。

 寄り道せずに真っ直ぐ下宿に向かう。

 二、三分もすると人々は散り散りとなり、気づくと二人きりになっていた。緩やかな丘の道路をレンナは案内しながら歩く。

「この道路を真っ直ぐに行くと、レピア湖まで通じているの。下宿の前までね。昼間なら見晴らしがよかったんだけど、朝一番で見てみて。感動すると思う」

「へぇ」

「んー、この時間だと夕食作りしてるか……ちゃんと手伝ってるでしょうねぇ。ロデュスはともかく、ファイアートはフローラにちょっかい出して妨害してるかも」

 プッ、と吹き出すサクシード。

「笑うけどね、いつも止めさせるのに苦労してるんだから。ああ、それにしてもラファルガーが手伝ってる姿が、想像できないっ」

「なんでだ」

「だって、いつも冷めてて我関せずって感じだから。いいヤツなんだけどね。ウチの辛口突っ込み役」

「ファイアートは?」

「道化師ね。人をからかっては笑いの種にしてるわ。私はいい標的よ。ロデュスはフォロー役でウチの良心。フローラは不思議なお姫様。そんなとこかな」

 そして快活で前向きな世話人のレンナ、という組み合わせだ。自分はどんな役割を果たすことになるのか、サクシードは楽しみだった。

「あーっ! 先入観持たせちゃった。気をつけてたのに。会ってからイメージを決めてほしかった。そうじゃないと気づくのが|()()()じゃない?」

 残念がるレンナを、怪訝そうに見るサクシード。気づいて説明するレンナ。

「人にはね、運命の共同体があるのよ。その人たちと絆を深めるべく生まれてくるの。それを知るには、出会いから大切にしないと。曇りのない目で確かめなきゃね」

「似たようなことを、どこかで聞いたな」

「ソウルメイトっていうのよ」

「ああ、じいさんの遺言だ」

「遺言?」

「自立する前に、じいさんが言ってたんだ。「一人で何か物足りない時は、ソウルメイトを探せ」ってな。果たすべき使命がわかると言っていた」

「そう、精神的に支えられる、素敵な遺言ね」

(なるほどな)

 サクシードは隣を歩くレンナを見て納得した。

 彼女は間違いなく、運命共同体の一人だ。そうでなければ懐かしく思うはずがない。

 俄然、レンナの側にいる下宿人に興味が湧いてきた。

「見て、レピア湖よ。下宿はもうすぐだから」

 夜の闇の中、月明かりにチラチラと照らされる湖面。

 神秘的な出会いの日に相応しい静けさだった。

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