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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
78/202

『惚れちゃったのかい』

 しばらくして戻ってきたレンナは、微妙な顔を浮かべていた。

「おっ、レンナ。どうだった? 上からのご用命は」

 ファイアートが話を振ると、レンナは言った。

「フィート、ちょっと」

「? なんだよ」

 ファイアートと連れ立って、再びリビングを出て行った。

「……仕事関係の話か?」

 サクシードの疑問に答えたのはロデュスだった。

「付き合いが広いですからね、レンナさんは」

 一方、レンナたちはリビング向かいの彼女の部屋で、話そうとしていた。

「緊急事態」

「はぁ? 例によって、生命の樹のご託宣じゃなかったのかい」

「そう、そうなんだけど――結論から言うと、約一年後に『名のない力』が飛来して、この世界に衝突するんだって」

「げっ、名のない力って、創世紀と万世紀にニアミスして、とんでもない被害を出した、ってあれ?」

「うん」

「まずいじゃん! って、僕に言ってどうしろっての? 報告するならウェンデス様でしょうが」

「聞いて。今回は私が生命の樹から下賜された『天窓(てんそう)の鍵』で、被害を受けずに済みそうなの。詳しくは省くけど、それ次第でこの閉ざされた世界が解放されて、人類に新たな世界が拓かれる」

「ちょっと待て。今、君とんでもないこと言ったよ。何の鍵だって?」

「ああ、今まで『幸せの鍵』と云われて持っていたけど、本当の名前は『天窓の鍵』と云うそうよ。七大神器の一つね」

「だってそれは、君が起こしたグランドクロス事件以来、行方不明になってたはずじゃ……」

「実は私が持ってた。所管の降霊界に申し開きしなくちゃ。ああもう、そういうことじゃないのよ。サクシードのことなんだけど」

「なんでサクシードが出てくんの?」

「だから、彼が実戦に向かう期限を延ばせるかもしれないと思って」

「——そこ?!」

 ファイアートは目をむいて突っ込んだ。

 世界の危機と、恋人の行く末を並べて語るか。

 必死なレンナを見て、大真面目に言ってるらしい、とファイアートは呆れ果ててしまった。

「私はこれから、ウェンデス様にご報告に行くけど、説明してる時間がないから、フィートがサクシードに説明して」

「それくらい時間あんでしょうが」

「予備知識だけでもいいから知ってもらいたいの。天窓の鍵については、まだ話せてないでしょ? このまま黙って出かけると不審がられるし、きっと心配するわ。お願い!」

「……惚れちゃったのかい?」

「私にできることがあるなら、そうしてあげたいだけ。じゃ、あとお願い。着替えるからゴメン」

「はいはい」

 慌ただしくレンナの部屋から出たファイアートは、ドアの前で一人ごちた。

「それを惚れたって言うんじゃないですかね」

 吐息をついて、やれやれと思いながら、ファイアートはリビングに戻った。


「あれ、ファイアートさん、レンナさんは?」

 ロデュスの問いに、ファイアートは気まずそうに答えた。

「出かけるって。今からキュプリス宮殿に」

「今から――?」

 サクシードの不審な表情に、曖昧に返す。

「ああ、問題なし。何しろひとっ飛びだから」

「?」

「僕らがどこでもテレポートで移動できるのは、身を持って体験したね」

「あ、ああ」

「レンナからレクチャーを受けて、この世界が層状になってて、第三層降霊界までが人類に拓かれてることも知ってるね?」

「確かにそう聞いてる」

 一昨日の学科訓練でも同様のことを説明されている。

「ところが……レンナがただ一人、第五層生命樹界に出入りできる、って言ったらどうする?」

「!」

「いいんですか、ファイアートさん? そんな重要な情報を開示して」

「レンナから頼まれたんだ。サクシードに説明してくれって」

「何か火急の件が?」

 フローラが柳眉をひそめる。

「……今から約一年後、この世界に名のない力が飛来して、衝突するらしいんだ。レンナの話じゃ、何とか被害を出さずに済むらしいんだけど」

「——わたくしもフラメン宮で控えていなくては」

「うん、この場は任せて、お役目に戻って」

「ええ」

 フローラが席を立ち、サクシードに言った。

「サクシード、驚いたでしょうけれど、ファイアートの話をよくよく聞いてくださいね」

「——ああ、わかった」

 ただならぬ事態に、サクシードは身構えた。

「説明に戻ろう。名のない力は有史以来、二度この世界にニアミスして甚大な被害を出している。今回は衝突だからね、意味合いが全然違う。でも、レンナが言った通り、今回は回避する手段があるらしい。文字通り、鍵はレンナが握ってる」

「?」

「サクシードは生命の樹って聞いたことあるかい?」

「昔、童話で読んだ記憶があるな」

「それが本当に《《在る》》んだよ。第一層真央界、第二層因果界、第三層降霊界、第四層軌道界、その上の第五層、生命樹界というのがそれだ。この生命樹界に足を踏み入れたのは、有史以来、レンナが初めてだと言われてる」

「!!」

「まぁ、詳しくはレンナが話すとして――ともかくレンナは生命の樹から、天窓の鍵という神の道具、神器を預けられていたんだ」 

「天窓の鍵って……あの行方不明になってた天窓の鍵ですか? 七大神器の一つの?」

 ロデュスが困惑して問い返す。

「なんか騙し討ちみたいだけど、レンナは生命の樹に幸せの鍵としか云われてなかったらしいよ。つまり、行方不明だって思われてたけど、レンナがずっと持っていたことになるね……」

「それは……」

 ロデュスはそれっきり考え込んでしまった。

「それで? その疑惑の天窓の鍵で、名のない力を何とかすると、被害を受けずに済むんだな」

 ラファルガーが話を元に戻した。

「そうらしいね。悪いけど、ここまでしか説明できない。レンナが戻ってくるまで待たないと……」

「……」

「サクシード、大丈夫かい?」

 ファイアートがサクシードを気遣うと、何かを覚悟したような表情をしていた。

「ファイアート、レンナ以外の修法者に心当たりがないか? これから忙しくなるレンナの重荷にはなれない。俺のことより、名のない力を何とかする方に集中してもらわないと」

「……レンナは君のことを真っ先に考えていたよ。君は違うんだね」

「そうだな……でも、名のない力のことが決着するまでは、ここを離れない。それは今決めた」

「ふーん、わかった。一応、聞いとくけど……事と次第によっては、サクシードにレクチャーするのはいい気分転換になるかもしれないから、まずはレンナと応相談だね」

「わかった」

 ――レンナとフローラは、その日帰ってこなかった。

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