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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
77/201

『シグナル』

 繁緑の四月天察の一日、日曜日。

 サクシードにとって、二度目のシンパティーアの日曜日は平穏だった。

 その日の夜、例によってフローラが紅茶を淹れて、レンナお手製のマドレーヌをお茶請けに歓談する。

「ところでさ、サクシードってシンパティーアに来てから、顔艶よくなってない?」

 ファイアートがサクシードの顔を眺めてしみじみ言った。

「いいものばっかり食べてるからな。以前と比べたら、食生活は激変したと言っていいくらいだ」

「それもあるけど……オーラがきれいな卵型してるんだよ。すごく冴えた赤で、その辺の邪な霊なんか一瞬で浄霊しそうな勢いだよ」

「そうなのか? 自分ではよくわからない」

「まだ万世の秘法の入り口に立ったばかりだからね。いつも見えてても都合が悪いから、僕も普段は制御してるんだけどさ。……本当にすごいよ、なぁ、レンナ」

「うん……たぶん火の精霊と特に懇意だからじゃないかな。精霊祝いは火なんでしょ?」

「ああ、それだ。精霊祝いがどうして万武・六色と関係があるんだ?」

 サクシードに聞かれて、レンナが口を開きかけた時だった。

 その耳元で微かな鈴の音がした。

「……!」

「……?」

 レンナの注意が別の方に向いていることが、サクシードにもわかった。

「……フィート、あとよろしく」

「うん? ああ……はいはい」

 スッと立ち上がって、レンナはリビングを出て行った。

「? どうしたんだ、レンナは」

 違和感を覚えて、サクシードがみんなに問う。

 そこはファイアートがフォローした。

「ほら、レンナって修法者じゃんか? だから時々、上から呼び出されたりするんだよ。たぶん、表の環境修復の仕事の件じゃないかな」

「ふーん」

 一応納得して、サクシードはスルーした。

「んで、さっきの話の続きね。精霊祝いはこの世界に古くから伝わる生誕の儀式だ。親がいなかったり、記録がなかったり、何らかの特殊事情でわからない人もいるけど。大概の人は戸籍と同時に役所に届けられて保管されてる。いわば万世の秘法に入門した時に、伸びる可能性のある超常能力、最も適性の高い守護精霊を調べるためのものなんだ。理解できる年齢になったら、だいたい両親が精霊祝いの話をしてくれるわけ」

「なるほどな……俺のように万武・六色に適性があれば、もっと関係が深くなる、ということか」

「あったりー! ちなみに僕の精霊祝いは光だよ」

「へぇ、みんなは?」

「僕は水です」

「俺は闇だ」

「わたくしは地ですわ」

「レンナは?」

「レンナは――」


 その頃、レンナは一人、とある場所に来ていた。

 がらんと開けていて、天地の境界がぼんやりしている。

 いや、大地が天を映す、鏡のようなものだった。

 天地があるとどうしてわかるかというと、一本の巨木が生えていたからだ。

 巨木は『生命の樹』と太古より伝承され、虹色に光る白い幹と枝を持っていた。

 張り渡された枝々には常盤の葉が生い茂り、時折キラリと輝く。

 それらが、どこからともなくやってくる風に吹かれて、さわさわと揺れる様は、悠久の時を孕んでいるかのようだった。

 レンナは、白く短い丈で前身頃に生命の樹を象徴化した、古いとも新しいとも言えない衣裳を身にまとっている。

 胸元には、青緑色の宝石が中央にある、六芒星を(かたど)った、白い小さな鍵が下げられていた。

「——」

 無言の会話。

 根元で幹に両手を当てがって、それはしばらく続いた。

 やがて、遠く梢を見上げたレンナの表情には、つらさに耐えるような忍従が現れていた。

 そっと幹から手を離した途端、生命の樹は沈黙した。

 そして、もう答えることはなかったのである……。



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