表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
76/201

『恋のタイマー』

「ただいま」

「お帰りなさい」

 サクシードは定刻通りシンパティーアに帰ってきて、キッチンでレンナの溌溂とした笑顔に迎えられた。

 側でフローラもニコニコ笑っている。

 サクシードはレンナの髪を撫でて言った。

「今日も美味そうな匂いがするな」

「今日のメニューはね、紅鮭のバター乗せ包み焼きと、ジャガイモとベーコンのローズマリー和え、キャベツとニンジン、エノキのお味噌汁とアサリご飯。デザートはイチゴのパフェよ」

「それは豪勢だな。着替えてくる」

「うん」

 優しい温もりを残して、サクシードは部屋に向かった。

 レンナはくすぐったそうに笑って、フローラに向き直る。

「もう包み焼きできたかな?」

 照れながら言うと、フローラは人差し指を立てて言った。

「恋のタイマーに狂いはありませんわ」

 レンナは浮かれるのもそこそこに、親友を気遣った。

「……いつもアドバイスありがとう。あの、フローラの方はどう?」

 フローラは優しく首を振った。

「今年も都合がつかないみたい」

 花翔の五月の女神の祭典で、斎官であるフローラは、献舞という舞踊を披露するのだ。

 ジュリアスは彼女が斎官になった三年前から一度も、親善大使の仕事が多忙なのを理由に、その晴れ姿を観に来たことがなかった。

「そう……フローラが大人だから、つい甘えちゃうんだけど、つらくなったらいつでも言ってね。私、フローラのためなら修法者権限、迷わず使うからね」

「そんなレンナさんが側にいてくれるから、わたくしは大丈夫。薄情なジュリアス様のことは置いておいて、今を全力で楽しみましょう!」

「アハハ、言うね、フローラも」

 二人が慰め合っていると、ファイアートがキッチンに顔を出した。

「そうそう、あんな仕事オタクは忘れて、僕と付き合おう!」

「あら、聞いてたの?」

「……仕事オタクでも、この時期は忘れずに連絡をくれますわよ」

「んなの、普段の仕打ちの償いにもなりゃしないよ。たまには反乱起こせば? 君の機嫌が悪くなったら困る人間が、何人いると思ってんの」

「その人たちのためにも、自分本位な行動はとれないんじゃないの!」

 レンナがフローラに助太刀する。

「フローラが生まれながらのお姫様なのは、同じ立場の僕だって百も承知だよ。ただ、言わせてもらえば、恋にはちと没個性だ。同じ人の同じ面だけ見て、飽きないなんてのは、ただの変わり者だよ。君のピアノ演奏みたいに、百花繚乱咲いてこその恋でしょうが。もっと自己主張してもいいんじゃない?」

「一理ありますわ」

「でしょ。その気になったら言ってよ。手伝いまっせ!」

「ありがとう、ファイアート」

「どういたしまして」

「えーっ、フローラどうしちゃったの?!」

 フローラの声のトーンが真剣みを帯びていて、困惑するレンナだった。


 夕食には全員が顔を揃え、いつものように楽しい歓談が始まった。

「あーっ、バターの香りって幸せ感じるよね」

 ファイアートが紙包みを開けて、バターの香りを吸い込んだ。

「こんな凝った料理を食べるのは久々だな」

 サクシードも同感のようだった。

「とっても簡単なのよ? 紅鮭の切り身に塩胡椒して、刻んだ野菜とキノコを敷いて、バターを乗せて紙に包んで焼くだけ」

「へぇ……」

「サクシードは島育ちだから、乳製品は手に入りにくかっただろ?」

 鮭をほぐしながら、ファイアートが言った。

「そうだな――たまに姉貴が人伝にもらってくるんだが、大事に使っていた」

「乳製品は好き?」

 レンナが聞いた。

「ああ、どこに行っても手に入るんで、自立した当初は驚いた。特にチーズは好んでよく食べた」

「ふむふむ……」

 レンナの頭の中で、チーズ料理のレパートリーがさぁっと流れ込んだ。

「とりあえず明日の朝は、サイコロチーズパンにしようかな」

「ありがとう。でも、みんなの好きなものと順繰りにしてくれよ」

「フフッ、そうね」

「僕はお付き合いしますよ。一週間続いたってへっちゃらです」

「一か月続いたら?」

 ロデュスの発言に、ラファルガーが突っ込む。

「カロリー過多になっちゃいますね。いよいよ運動を習慣にしなくちゃいけないかな」

「そう言えば、ラファルガーの故郷では、チーズ作りが盛んだったのじゃありません?」

 フローラが質問した。

「クイリナリスではチーズは常備品だ。牧畜が主要な産業だからな。カマンベール・ゴーダ・モッツァレラ・青かび……シェーブル、山羊のチーズなんかもポピュラーだった」

「それは絶対、利きチーズしてみたいなぁ。ワイン片手にね」

「ねぇねぇ、明日の夕食はチーズフォンデュにしない? もちろん、ワインも用意して」

「いいねぇ、やろうやろう!」

 レンナの発案で、明日の夕食はチーズフォンデュに決定した。

 話題に上った材料は、すべて入手可能だ。

 テレポートを使えば現地調達も訳ないのである。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ