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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
75/201

『アンケート』

 視聴覚室の照明が点いた。

 やれやれ、と溜め息をついた者がほとんどだった。

「みんな座ってちょうだい。とどのつまり、万武・六色に精通してもらうこそが、対テロの当面の方策なわけだが。そうは言っても、無学な君たちにいっぺんにレクチャーするには手数が足りなくてね」

「あ、俺、あの子がいいなぁ」 

「おー、いいねぇ。手取り足取り教えてもらいたいよな」

 レンナのことを言っているのだ。

 サクシードのこめかみがピクリとひきつる。

「残念、彼氏いるよ」

 平然とドギュスト部長が言ってのけた。

 もうサクシードにはわかっている。

 部長をはじめとするPOA上層部には、昨夜のひとときも隠しておけないのだ、と。

「くそぉっ! どこのどいつだ、んな幸運の星のもとに生まれたやつは」

「のうのうと、ろくな仕事もしてない野郎じゃないだろうな!」

「隠れてないで出てきやがれ!」

「プッ」

 不謹慎にもジャンティが吹き出した。

「ジャンティ、てめぇか?!」

 矛先がジャンティに向けられる。

「冗談じゃないっすよ。どこにそんな隙があるんすか」

 そこで大半の者は隠された事情に気づいた。

 わめいているのは、裏がどうだろうが知ったこっちゃない、単純連盟だった。

「まぁまぁ、万武・六色を真面目に極めれば、その筋の女性とお友達になるチャンスはいくらでも……」

「ホントかよ、部長?!」

「保証はできかねるが」

「フン! んなこったろうと思ったぜ」

「つうか、部長には初めっから期待してねぇ」

「すみませんね、頼りにならなくて。冗談はさておき、今日はとりあえずアンケートで終わりだ。その如何で、今後のカリキュラムを組む。簡単な質問ばかりだから、手抜きしないでくれよ」

 言ってドギュスト部長はアンケート用紙を配布する。

 サクシードもアンケートに記入していく。

 一問目は、精霊祝いは何ですか? また、それに関する民間伝承などの予備知識はありますか? だった。

 そこで彼は、「”火”だと祖父に教わった。これが生まれ持った自分の特性だと教えられた」と書いた。

 二問目は、幼少期からの身体的特徴、例えば、得意だったこと・苦手だったこと・病歴などあれば記入してください。

 それには「体力的には平均以上だと思う。病歴というほどでもないが、春先にのぼせがあって、だるく感じることがある」

 三問目は、今の仕事(POA以外)に就こうとした経緯を教えてください。

「育ててくれた祖父が亡くなり、自立する必要があり、警備士養成学校を選んだ。警備士を選んだのは、当時(三年前)需要が高かったから」

 四問目は、今までにトラウマ(心的外傷)となるような出来事はありましたか? 書ける範囲で記入してください。

「自立したばかりの頃、テロリストに遭遇して、左腕に外傷を負った。屈辱的だったし、自分の認識の甘さを痛感した出来事だった。立ち直るのに時間を要している」

 五問目は、キャリアに自信を持っていますか? またはそう自負する根拠はありますか?

「キャリアはない。一人きりでテロ撲滅への道を探ってきたが、段階を踏まないで、権限も持たずに活動しても意味がない、と友人に指摘されたばかりである」

 六問目は、異性(あるいは同性)に関心がありますか? どの程度の付き合いがありますか?

「これまではまったく興味を持てなかったが、最近、真剣に付き合いたい女性と出会い、順調に交際している」

 七問目は、POAに望むことは何ですか?

「万武・六色を含む訓練の充実。そして、訓練講師の厳選を特にお願いしたい」

 以上だった。

 書き終わった者から帰ることになった。

 アンケートがフラストレーションの思わぬはけ口になった者もいれば、さらっと書いて済ませる者もいた。

 サクシードはちらっと隣のジャンティを見た。

 彼のアンケート用紙は真っ黒になっていた(特に六問目)。

 そのまた隣のイーリアスと目が合った。彼も書き終わったところだった。

 ジャンティの様子を見て苦笑すると、サクシードに目配せして静かに席を立った。


「……あいつ、何をムキになって書いてるんだろうな」

 呆れた調子でイーリアスが言った。

「待遇改善でしょうか?」

 サクシードが言えば、イーリアスはきっぱり言った。

「有り体に言って、溜まってるんだろ。大人なんだから善処すればいいのに。上層部や教官連に言ったって、寝言としか取られないぞ」

 プーッとサクシードが吹き出した。

「す、すみません。イーリアスさんもそんなこと言うんですね」

「いつも取り澄ましてるから、意外だって?」    

「そんなことはないんですが」

「あいつの友だち何年もやってみろ。毒こそないが、五感に刺激がないとやってられないタイプだ。たまには気も利いてるが、そんなのは長く続かない。いや、持続しなくても全然気にしないぞ。おそらくアッチもな」

「そんなものですか」

「サクシード、こう言っちゃなんだが、ジャンティからだけは学ぶなよ。話聞いてると、昔っから女には不自由してないんだ。はっきり言って、女をナメてかかってる。だから禁欲生活を強いられてるんだ。因果応報。まともに恋愛したくてもできないんだから、聞き流しとけ」

「勘は冴えてるんですけどね」

「女たらしの勘がな。俺はロリコンじゃないが、ジャンティは守備範囲が広そうだ。油断するなよ」

「大丈夫です。彼女は修法者ですから、その辺りの見極めは確かだと思います」

「おっと、そうだったな……付き合いは順調か?」

「はい、誰も入る隙はありません」

「さすがだよ。自分よりレベルが上でも、まったく怯まないところが君らしい。ジャンティもそういう視点があれば大成するんだがな」

 視聴覚室のドアの外で待っていると、ようやくジャンティが中から出てきた。

「よっ、お待たせ――!」

「ったく、何をごちゃごちゃ書き殴ってんだ」

「フフン、俺の華麗な女性遍歴を滔々とな。なんだよ、その白けた顔は!」

「……おまえは何にもわかってない。女性遍歴=カルマの深さだろうが。そんなのが上層部や教官連に知れたら――乱れた私生活を叩き直されるだけだぞ。この先、万武・六色の適応力に問題が発生するんじゃないのか」

「まーた始まった、イーリアスの心配症が。んなのは問題の内に入んないの! 俺にとっては。女性遍歴がカルマになるって? そんな深刻な子と付き合ってないっつうの」

「表面だけじゃわからんだろうが!」

「仮に深刻だったとして、それが何だってんだよ。俺が受け止められないとでも? 見くびってもらっちゃ困るね。女の子の悩み、オールOKだっての。任せろって」

「ダメだ、こいつ」

 この話の決着は、イーリアスに軍配が上がることになる。

 彼の予言の通り、ジャンティは向こう三か月、恥ずかしいカウンセリングを受けることになるのである。

   


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