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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
74/202

『万世の秘法の学科』

 三日後、蒼水の三月献舞の三十日、金曜日——。

 POA研修センター三階の視聴覚室では、執行部部長ドギュストによる、万世の秘法の学科授業が始まっていた。

「さて、出向軍人・有志の会にこってり絞られてから、三日が過ぎた。調子はどうかな?」

 どうもこうもなかった。

 いきなり実地訓練だったおかげで、万武・六色がどんなものか、骨身に沁みていた。

「……なんか最近、変な夢見るようになっちまってさ」

「俺も、俺も! しかも、ドラゴンとかユニコーンとか、空想上の生き物がわんさか出てくるんだよな」

「俺なんか、河童に同情されて、手作り軟膏もらっちまったよ」

「ギャハハ、なんだそりゃ!」

「夢じゃねぇ、リアル河童だぞ。しかもキュプリス宮殿側の出口にある滝で出くわしたんだ!」

「いつからPOAは、妖怪の巣窟になったんだよ」

 すると、ドギュスト部長がさらっととんでもないことを言った。

「ああ、それは水甕湖の水神様だよ。運がよかったね」

「マジなんかい!」

「その辺りも含めて、新常識を今日は教えよう。リアクションは大袈裟に、脱線大歓迎! メルヘンから禁忌まで幅広くいくよ。準備はいいかい?」

「準備、ってなんだよ」

 訓練生の一人がごちた途端に、辺りが突然、真っ暗になった。

「今度は何だよ」

 もちろん、ここでうろたえる、かわいい訓練生は一人もいない。

 すると、教壇に立っているドギュスト部長と、席に座っている訓練生の間の床が、ぼんやり明るくなった。

 光は立ち昇るようにドーム状に広がって、十層の膜を作った。

「みんな、こっちに来て、側で見てごらん」

 どやどや言いながら、訓練生たちが光のドームを取り囲む。

「これが僕たちの世界の全球図だ。僕たちが住んでいる場所が、最下層の真央界,

第二層が現実と映し鏡の世界、因果界。第三層が神々や偉大なる師、祖霊と交信できる降霊界。第四層が天文の世界、軌道界。第五層が世界の根源エネルギーを供給する、生命樹界。……という具合に、第十層まである」

「このてっぺんがまさか、神界とか言わないよな」

「おや、勘がいいね。その通り、第十層は神々の住まう神界になってる」

「——頭痛くなってきた」

「俺も」

「思ったより世間が広くて驚いたろう? なにせ見知ってる世界がすべてという人は意外に多いからね」

「何でもいいからついてこい! まだ、ただの導入部に過ぎないんだからな」

 ガルーダに叱咤されて、ぼやく訓練生を引き締める。

「まぁ、世間は広いけど、万世の秘法の活躍の場も限られててね。真央界と因果界だけなんだ。人類に拓かれているのは、第三層降霊界まで。それ以外は未知の領域というわけだ」

「ふーん、降霊界にはどうすりゃ行けるんだい?」

「アホ! 俺達が行くにゃ、真逆の方法が必要なのに決まってる。——頭丸めて坊主になんだよ」

「げっ、そういうことか!」

「ブハハハ!」

「うん、そういうことだね。降霊界は人生を悟りたい人が《《往く》》ところだと思ってくれればいい。どっちかっていうと、僕たちにとって重要なのは、因果界の方でね。POAの当面の敵である、テロリストも根城にしてる、厄介な世界だ。彼らの別称を呪界法信奉者という」

「!!」

 突然、核になる情報がもたらされた。   

 が、ドギュスト部長の口調は余裕たっぷりだった。

「君たちが三日前に手ほどきを受けた、万武・六色は善なる精霊界の力を借りている。善なる、と前置きしたということは、当然、悪なる精霊というのがいてね。呪界法信奉者に力を貸している。その仕組みはこうだ」

と、ここでまた真っ暗になった。

 そして、現実世界、真央界が中央に映し出された。


 勝手知ったる真央界は、巨石の宮廷国カピトリヌスと湖島の宮廷国エスクリヌスの国土が暗転していた。

「これが呪界法信奉者の勢力図。つまりテロ活動が頻発している地域だ。そしてそのまま因果界での彼らの根城であり、活動限界でもある」

「活動限界——?」

「悪なる精霊、悪精の活動限界、ということだよ。悪精は戦争やテロ活動なんかで、汚染された土地にしか住めないんだ。つまり、範囲が限定されていることになるね」

「んじゃ、呪界法信奉者って、悪精に精神汚染された人間なわけ?」

「そう……陰陽の法則って聞いたことがあるかい? 汚染された土地は極化した陰、即ち、負のエネルギーが蔓延している状態でね。そういうところに長くいると、人間にも大きく作用する。それが精神汚染という形で出る者もいれば、病気だったり、あるいは状況が八方塞がりになったりする」

「う~ん」

「物事は突き詰めれば単純でね。呪界法信奉者は因果界から、善なる精霊界の働く土地を侵略しようとしてるけど、未だかつて実現したことがない。もちろん、万世の秘法が水際で叩いてるからなんだが、それ以上に、そう簡単に悪精の活動領域を広げることができないんだよ」

「で、膠着状態なわけ?」

「そうとばかりは言えなくてね……ちょっと前まで壁にぶつかり続けて疲弊しているだけだったんだが。悪精に依存しないで活動する方法を編み出そうとしてるらしいんだ。本来、両手に持てるだけしか物を持ち込めない因果界で、ミサイル製造したり、人体改造とか、異様な方向性に走ってる。万世の秘法が劣勢になったことはないけど、今後のあちらさんの発展次第では、思わぬことも起こるかもしれないな」

「なんてこった……!」

「そこで、万世の秘法、ひいてはPOAは、万武・六色に精通した者を増員しようという流れになったわけだ。世界情勢in2980。ここまではいいかな?」

 ドギュスト部長は珍しくシリアスだった。


 

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