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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
73/201

『フローラのお願い』

 レンナを部屋に返して、サクシードが一番風呂に入って上がってくると、フローラが階段の踊り場で待っていた。

「フローラ……」

「サクシード、お願いがありますの」

 フローラは穏やかにこう切り出した。

「えっ?」

「レンナさんのことは、おまえではなく、君と言ってあげてください。あなたにとってレンナさんは、何においても尊重したい、愛すべき方でしょう?」

「ああ……!」

 ウェンデス統治者でなくても、何もかも見通しているのは、フローラも同様である。

「でしたら、尊称を用いるのは当然のことです。そうして差し上げてくださいな」

 ニッコリ微笑んでレンナの親友はアドバイスした。

「わかった」

 サクシードの返事に頷くと、フローラはリビングに戻ろうとした。

 階段を下りていくフローラの声をかける。

「フローラ、これもわかっていたことなのか……?」

 立ち止まり、沈黙の後、彼女は言った。

「……それがさして重要なことでしょうか? 大切なのは想い合う二人の気持ちです」

 振り向いて問う。

「違いますか?」

「その通りだな」

 サクシードはフローラの能力の性質を、よく理解した。


 同じ頃、レンナは火照った身体を静めようと、ベッドに横たわっていた。

 そして、サクシードが、万世の秘法という最高峰を見上げていて、自分を忘れずに振り返ったことに驚いていた。

 本当なら、引っ張り上げる側に回るはずだった役目が、あっという間に逆転である。

 レンナでなくても、その成長の著しさは驚嘆に値する。

 サクシードは自分の可能性を制限していただけだったのだ。

 レンナの言葉がきっかけになって、彼は己を顧みた。

 そこからの躍進は、レンナの予測をはるかに上回っていた。

 初めてサクシードがPOAに行った帰り。

 万世の秘法の存在を告げようとしたレンナに、サクシードは頑固に固辞しようとした。

 焦れたレンナはこう言った。

 

「どうして対峙することしか考えないの? お互いの立場を尊重すれば、諍いなんて起きないはずだよ。理解すれば学ぶこともたくさんあるじゃない。可能性を投げ出すのは、自分を粗末に扱ってる証拠よ」

「俺のやり方が間違ってるっていうのか」

「違うわよ。ただ、自分のやり方を守るあまり、見逃してしまう大切なことから、目を逸らさないで欲しいだけ……」


 状況から考えれば、サクシードに敬遠されてもおかしくない会話だった。

 よくわからないが、あの時、サクシードは初めて自分を女性として意識したのかもしれない。

 私がそういう男性に会ったのと同じように、サクシードも初めてなのかもしれない、と思い当たった。

 レンナが男性から愛される性質を持っているのと同じように。サクシードも女性から熱い視線を向けられることを、レンナは知らなかった。


 そうとは知らないファイアートたちは、リビングで呑気にお菓子をつまみながら談笑していた。

「サクシードもやってくれるよね! お互いにとって大事なことは二人っきりで話す、って暗黙の了解を取り付けるし。堅物のようでいて、レンナに対する好意は全然隠さないあたり……。ああ堂々としてられると、こっちもさいですか、って納得しちゃうよね」

「あんたにそう思わせるところが、サクシードのすごいところだな」

「僕がレンナさんだったら、出会った時間に関係なく、ほだされてしまいそうですね」

「おや、ロデュス。君、ホモだったの?」

「違いますよ!! 男も惚れるって言いたかったんです!」

「はいはい、そんなにムキにならんでも……ところでさ、サクシードって女に無茶苦茶人気あると思うのに、取り巻きはまだできないね」

「これからじゃないか? 電車で老婦人を介抱した時も、女連中が目敏く騒いでいたからな」

「そっか、これからか……サクシードにしてもレンナにしても、浮気の心配はないけど。それだけに耳目集めちゃうし、トラブルは回避できないか」

「大丈夫ですわ。二人なら乗り越えられます」

 フローラがリビングに戻ってきた。

「確かにね。日和見決め込むのもなんだなぁ……さっさとくっつけるか!」

「ええっ、そんな……二人の気持ちを無視して」

「あの二人が仲良くしてるところに、割り込んでいけるやつなんて、よほどのKY野郎か勘違い女だけだと思わない?」

「う、うーん、そうか……」

「な?」

 ロデュスが考え込んだ時に、フローラは静かに言った。

「あまりこちらが気合いを入れる必要はありませんわ。それでなくても周りの大人が公認している仲ですから」

「やっぱり?」

「サクシードは態度のはっきりした方ですから、女性に押しかけられても意に介さないでしょうけれど……レンナさんは気兼ねするかもしれませんわね」

「そうなんだよ……基本、優しいからさ。迷惑かけられても突っぱねられないと思うんだよね。特に同性には」

「ああ……それは可哀想だなぁ」

「ラファルガーの時だって、決着するまで相当気を揉んだみたいだし、女の子って残酷だからさ。優しくしてるとエスカレートするんだよね」

「言えてるな」

「だろ? そういうことも踏まえて、サクシードに仕切らせるか……でなきゃ、最初から出会いの芽を摘むか」

「どうするんですか?」

「テレポートで移動させるんだよ。そうすりゃ、待ち伏せもできないしね」

「なるほど……でも、かなり不自然ですよね。出歩かないのに仕事に来てるって」

「それもある。あー、どうしようかなぁっ」

 珍しくファイアートが悩んでいる。

 これも監督責任だろう。

「……サクシードに任せてみてはどうかしら? あの人はレンナさんが二人の仲で不安になることも望まないと思います」

「おおっ、いいねぇ、強気で。うん、それでいこう!」

 ファイアートが両膝を叩いて、方針を決めたのだった。


 













 



 

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