『突然の……』
歓談がひとしきり終わって、サクシードとレンナは二人で話すことになった。
フローラが淹れてくれたカモミールティーのマグカップを二つ、トレイに載せて、二人は階段を上った。
「万世の秘法に入門したことで、いろいろな情報が目白押しで、退屈しないな」
「……こんな突然、展開するんじゃなくて、もっと緩やかに理解出来たらよかったのにね」
女性らしい意見に、サクシードの心が和む。
だからこそ、言っておかなくてはならないことがあった。
書庫室に入るとひんやりしていた。
「暖房入れる?」
「いや、実は……六色・赤を特訓してきた。火の精霊を呼んで暖を取る方法を習ったから、それを使う」
「そんな細部まで、今日一日で?」
「雑談がてらだがな」
「へぇ、余裕があるのね」
面白がるレンナに座るよう促して、話を切り出す。
「じゃあ、お叱りを受けますか!」
「その前に、言っておきたいことがある」
「?」
溜めて、サクシードは言った。
「俺は……おまえが好きだ」
えっ? という表情で、レンナが固まる。
凝視したその先には、一大決心の末、告白できた自分に安堵するサクシードがいた。そして続ける。
「誰か他に好きな男がいるのか?」
視線を逸らし、俯くレンナ。言葉が継げない。
「迷惑だったか?」
ギュッと目を瞑って、首を勢いよく振るレンナ。
「まだ会ってから一週間そこらだし、おまえが戸惑うのは無理もない。——しかし、俺にしてみれば、周りからの突き上げや、職場にまでおまえを担ぎ出されて気が気じゃない。それなら……いっそ前向きな関係を築いて、責任を持った方がいい」
なんだ、そういうことか。レンナも落ち着いて話す。
「でも、サクシード……あなたは訓練を通して、いろいろな出会いもあるし、義務も発生するわ。そんな時に私のことまで考えていたら、手が回らなくなるんじゃないかしら」
「そうかもしれない。けどな、俺にとって、おまえはもうかけがえのない女性だ。大事にすると言ったからには、この考えも含まれていると思う。違うか?」
「……」
サクシードはテーブルの上で手を組んで、レンナを真摯に見つめている。
その表情は、初日に乗った電車の中で、テロに対する考えについて、レンナに問いかけた時と同じく、真剣そのものだ。
レンナはその場しのぎの言葉で逃げることができなかった。
「サクシード……お姉さんがね、こう仰ったの。私にあなたの家族になってくれないかって」
やっぱりそうか。
姉、アニスの言いそうなことは見当がついている。
とんだフライングだった。
「家族って意味合いが広くて、私は衣食住のお世話をすることも、その一環と思って、お姉さんの申し出を了解したの」
「そうだったのか……よく知りもしない人間から、そんなことを言われたら傷つくだろう。それは俺の身から出た錆だ。ごめん、姉貴に代わって謝る。許してくれ」
「ううん、お姉さんには感謝しているわ。あなたのことを私に任せてくれて……気持ちが一緒になれて」
「! それじゃ」
「……不束者ですが、よろしくお付き合いください」
レンナはちょこんとお辞儀した。
「ありがとう……!」
「うん……」
スッとサクシードは両手を差し出して、レンナがためらいながら差し出した手を、暖かく包んだ。
二人の気持ちが重なった瞬間だった。




