『怒涛の一日』
サクシードが帰宅した頃には、もう八時を回っていた。
「ただいま」
「お帰り―!」
「お帰りなさい」
みんなダイニングで食事中だった。
あらかた食べ終わっていて、ファイアートが弁舌を奮っているところだった。
ニヤッと笑って、サクシードに言うことには。
「今日は怒涛の一日だったね、サクシード」
「それについては――レンナ、あとで話がある」
「……了解」
レンナがやや引いて言ったので、サクシードはもう許していたが、おまけのようにレンナの額にこつんと手の甲を跳ねさせた。
「お、意味深発言」
ファイアートが食いついたが、さっと躱してサクシードは言った。
「着替えてくる」
「うん、用意しておくね」
今夜のメニューは、海鮮豆乳鍋に厚揚げ豆腐とパプリカの甘酢餡かけ、ほうれん草のお浸し、デザートは大学イモだった。
席に着いたサクシードは、小さい土鍋からよそいながら、旺盛な食欲で美味しそうに食べた。
最後にお茶を淹れてもらうまで、賢明にも他の話をしていたファイアートは、突然話の舵を切った。
「ところで、サクシードも大変だよね……上層部の意向とは言え、しのぎを削る強敵の前に、レンナを曝さなきゃなんないんだから」
「——昨夜の電話が、その依頼だったのか?」
「うん、そう! ドギュスト部長からの依頼でね」
「……部長とは、万世の秘法を通じて顔馴染みか」
「そういうことだね。つうか、レンナの修法行仲間なんだよ」
「年が離れているようだが……?」
「万世の秘法の入門の時期がズレているんだよ。レンナは五歳から十二歳まで。部長は成人した後だって話だから、レンナの方が先輩にあたるわけ」
「なるほど」
「それに、部長だけじゃなくて、現ウィミナリス統治者でPOA長官のヤヌアリウス様と、第一秘書のシルデニアさんもご学友と来てるからね。まさに黄金時代をレンナは駆け抜けてきてるんだよ」
「へぇ……そう言えば、俺がPOAに初めて出向いた時、レンナは宮殿の貴賓室で誰かに会っていたようだが、もしかして……」
「ビンゴ! もちろん、パラティヌスとウィミナリスを、テレポートで移動している、ヤヌアリウス長官と会っていたんだよ」
「なんであんたがそんなことまで知ってるんだ?」
「フフン、皆まで聞かなくても、点と線を繋げばわかるっつうの。だいぶ読めてきたぞー!」
「——長官は、私の力があれば、サクシードを守れると仰ったのよ」
「うん? それがなんで訓練士全員に情報開示になるわけ」
「知らないわ。でも、サクシードの入門が大きく関わってることは確かね」
「ふーん? 予定していたのか、予定はなかったけどいきなりぶっこんできたのか……まぁ、この国にはあの御方がいらっしゃるからな」
「あの御方?」
サクシードが問い返す。
「『人界の王』、パラティヌス統治者ウェンデス・ヌメン様だよ。この世界の政を、なんと占星術で動かしてるって謂われてる。なーんでもご存知だし、どーんなことも隠しておけない、神懸かりな御方だから、万世の秘法を問わず敬われてんのさ」
「……当然、あんたの出歯亀な傾向も掴んでおられるわけだな」
ファイアートを除く全員が吹き出す。
「さすがサクシードさん」
「一本」
ロデュスが口を手で押さえて笑う。
ラファルガーも一言置いた。
「んなこと言ってると、訓練生に垂れ込むぞ。サクシードは訓練にかこつけて、レンナとイチャイチャしてます、ってな」
逆襲に転じるファイアート。そのやっつけ願望丸出しの顔を見て、サクシードはあることを思い出した。
「レンナ、それからみんな。俺から相談したいことがあるんだが」
「あら、なぁに?」
レンナに聞かれて、サクシードは全員の顔を見渡して言った。
「いつも訓練でお世話になっている、ジャンティ・フリュさんとイーリアス・ルースキンさんが、この下宿に来たいと言ってる。……フローラのことは承知しているつもりだが、迎え入れることは可能だろうか?」
「いいわよ」
レンナはあっさり言った。
「サクシードを深く知ってもらうにはいい機会だし、ホームパーティーを開きましょうか。ねぇ、フローラ」
「ええ」
「そうだよね……湖岸一周マラソンの件で、警備が柔軟なこともわかったし。POAの訓練生なら身元もはっきりしてるし、断る理由ないよ」
ファイアートが椅子の背もたれに寄りかかって、前で手を組んで言った。
「また離れでお迎えすればいいんじゃないですか?」
「プライベートをかき乱す人間でなければ、俺はどっちでもいい」
ロデュスとラファルガーが賛成して、全員の了解を得た。
ファイアートとジャンティは意気投合するだろう。イーリアスはラファルガーと雰囲気が似ている、とサクシードは二人の人となりを教えた。




