『時報』
白熱の特訓は午後いっぱい続けられた。
終わりを告げる五時半の時報が鳴った。
訓練生にとっては救いの音である。
「よし、それまで! 各自片付けに入れ」
ドーム床面は、トラックから芝生に至るまでズタボロだった。
驚いたことに、指導していた軍人らが、その持てる力で修復を始めた。
万世の秘法の表、環境修復技術だ。
その一連の作業を見届けてから、訓練生はようやく引き揚げることができた。
全員、帰るのに足腰が立つぐらいには、特訓を抑えられていた。
中にはヒーリングを受けた者もいる。
ロッカールームで盛大にぼやく訓練生を尻目に、サクシードたち三人はいち早く帰途についた。
「お疲れ様でした――!」
「おう! 明日ちゃんと出てこいよ」
「泣き寝入りは今夜までだぞ」
「何だかなぁ、俺らって打たれ強いじゃん? でも、心折られると弱いんだよね」
「ギャハハ、情けねぇ!」
「ちゃんと心のケアしとかねぇとよ」
「おっ、いいねぇ」
その際限ない他愛なさと離れて、サクシードたちは笑い合った。
「あの、しょうもなさが救いだよな」
ジャンティが頬に思いっきりついた痣を撫でて言った。
「本当に軽くあしらわれてしまったな」
イーリアスが腹をさする。
「万武・六色は奥が深いです」
あの後——レベルアップと称して、六色・赤を叩き込まれたサクシードも、あちこち打ち身があった。
「とか何とか言いながら、善戦してたじゃん! サクシード」
目端の利くジャンティは、しっかりサクシードの様子を見ていた。
「いえ……初めの小手調べだけです、追い風だったのは。後でしっかり借りを返されましたから」
「なまじ知ってることが仇になるのはしょうがないか」
「はい」
イーリアスに言われて、サクシードは素直に頷いた。
「はぁ~っ、先は果てしなく遠いなぁ」
ジャンティが目を瞑って、ほとほと参ったように言った。
「この上、わけのわからん学科があんのかよ……どうキャパ広げりゃいいんだか」
「俺はむしろ楽しみだがな。POAの一枚岩じゃなかったところが、正直面白いというか、怖いもの見たさかもしれないが」
「そりゃあんたはお勉強大好きだかんね、苦にはならねぇさ。あーあ、体で覚えろってところまでは共感できたのに」
「その方が身につきますよね」
サクシードが言うと、ジャンティがそのすまし顔をビシッと指差した。
「サクシードには発言権なし! 下宿に帰りゃ、あのウルトラ美少女がご飯作ってくれてるんだろうが。その上、万世の秘法を手取り足取り……厳重抗議だぜ! 何だよ、この待遇の差は」
「そう言うがな……後でとんでもない重責背負わされるとも限らんし、とんとんだと思うぞ」
イーリアスがどっちつかずに言った。
「けっ、優等生め! 男だらけの生活に、潤いがもたらされても、結局人の物。楽園はいずこ?!」
「ま、その能天気な思考回路で、堂々巡りするんだな」
「何だと?!」
ジャンティがイーリアスに拳を振り上げたところで、サクシードが割って入った。
「落ち着いてください。どんな約束ができるかわかりませんが、俺から彼女に話してみますから」
ピタッとジャンティの動作が止まった。
「そういうことなら……」
「サクシード、いいのか? 後で問題になるかもしれないぞ」
「大丈夫です、彼女は公明正大ですから。自分のしたことについて余波があれば、責任を引き受ける覚悟はあると思います」
「固い! 固いぞ、サクシード。いいんだよ、んな難しいことは。日頃お世話になっている彼氏のお仲間のために、ホームパーティーを開くってだけで。へへっ、楽しみにしてるぜ」
「やれやれ……」
そうこうしているうちに、高速エレベーターを出て、三人は今日の訓練を労って
国立図書館前で別れたのだった。




