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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
7/174

『汽車の旅』

 メーテスの西側、港から二十分のところにある、リコノ駅に着いた。

 売店で買い物をして、ホームに向かう。

「バッソール町にはどのくらいで着くんだ?」

 サクシードが聞くと、レンナは一瞬、いたずらっ子のように笑い、指を三本立てた。

「約三時間! 爆睡OKよ」

 軽く睨むサクシード。

 ホームに汽車が入ってきた。

 客車は臙脂色で統一しており、金色の花と葉の紋様が装飾してあって豪華だった。

 乗り込むと、個室でオレンジ色の座席が向かい合わせになっていた。窓際に張り出したテーブルがあり、その上には赤いバラのアレンジメントが置いてある。

「期せずしておんなじだね」

 隣にチューリップの花束を立てかけると、華やかさが増した。

「ホントに、どこにでも花があるんだな」

 サクシードが感心すると、レンナは笑って頷いた。

「サービスなのよ。ちゃんとマニュアルがあって、専属のフローリストがいるわけ」

「フローリスト?」

「花を飾る職人」

「ああ……」

「疲れたでしょ。座席の下に毛布があるから、あったかくしてどうぞゆっくり休んで」

「レンナはどうするんだ」

「私はこれ、本を持ってきてるから、お気遣いなく」

「そうか。だったら、しばらく景色を見てから寝る」

「うん」

 

 港街を抜けると、なだらかな丘陵地が続いていて、見渡す限り農地のようだった。

 林や小さな集落が点在していて、春にはまだ早いせいか、土肌ばかりが目立つ。

 各駅停車する汽車は、五、六分毎に規則正しく駅に着く。

 レンナによると、この辺りの人にとっては鉄道が唯一の交通手段だから、駅の数が多いのだという。

 路線もたくさんあって、二人が乗ったのは首都直通の北都本線。

 首都まで三時間以上もかかるのは不便なようだが、パラティヌスという国が、近隣諸国を併合して出来た連合国だったから、そうなってしまっただけだった。

 パラティヌスの歴史は古く、建国は二千九百八十年前に遡る。

 世界を取り囲む四大自然の一つ、パラティングス大樹海。その東端で栄えた、エスペラント王国の末裔が、この地に国を作ったのが始まりとされる。

 神話によると、花の女神フローラが降臨して、国造りせよ、と望んだとか。真偽のほどは別にして、以来、花はこの国の象徴だ。

 主要宮廷国の中では西端に位置し、経済も文化も高水準の、もっとも繁栄する安定した国である。そのため、芸術家や文化人が多数移住し、国も擁護している。

 一方で、サクシードが所属することになる、パイオニアオブエイジの本部もこの国にある。

 まだ設立二年目の組織だったが、水面下で推し進められ、続々と志願者が集まってきていた。

 平和の裏には必ず不穏の種があるのだ。


 西日が差す車内を歩く人は、まだまばらだった。

 外の景色は相変わらず単調だが、町が確実に増えてきていた。

 汽車に乗り込んでから二時間。

 レンナは本を読んでいたが、タイトルが替わっていた。

 サクシードは寝ようと試みたが駄目だった。起き上がって靴を履く。

 レンナも本を閉じると、腕時計を見た。

「あと一時間ね」

「そうだな」

「眠れた?」

「いや、ダメだった」

「きっと食後のコーヒーが効いたのよ。お茶にすればよかったね」

「お茶? 紅茶か」

「リンデンのお茶。リラックス効果があるの」

「リンデンって何だ」

「ああ、菩提樹の葉よ。お茶はあんまり飲まない?」

「習慣がない」

「そっか。下宿にはいろんな茶葉がストックしてあるから、トライしてみて」

「その下宿の話をしてくれよ」

「そうね。えっと、場所はレピア湖畔区のバッソール町ね。首都までは徒歩で四十分。最寄りの駅もあるから、利用すれば五分で着くわ。町は木彫りの民芸品作りが盛んで、やっぱり花をモチーフにしたものは人気ね。近くに牧場はあるし、魚市場もあるから食べ物は地産地消出来ておいしいわよ」

 さすが世話人。情報がスラスラ出てくる。

 話はなおも続く。

「下宿は湖岸に建ってて、一年中通して最高のパノラマよ。母屋と離れがあって、母屋は部屋が十三部屋あるわ。増築した分も含めてね。サクシードの部屋は、ファイアートとロデュスの間で、広さは八畳。家具はベッドと机と椅子。クローゼットと飾り棚は据え付けてあるわ。床はフローリングになってるけど、絨毯を敷いたほうがいいと思うの。どう?」

「見てから決める」

「そうね。あとは……お風呂と洗面所、トイレは共用よ。洗濯機は二台あるから、個人でお願いします。食事は今のところ、私とフローラが作ってるけど、男性陣はみんな作れるっていうの。ちなみにサクシードは?」

「出来るつもりだが……凝ったものは作れないぜ」

「いいのよ、普通で。じゃあ当番制にしようかな。わぁ、楽しみ!」

 一人で盛り上がるレンナだった。 

「それで……そうそう、離れね。離れは十六畳あって、カウンターにソファーセット、グランドピアノ、暖炉があって、みんなの憩いの場になってるの。みんな思い思いに本を読んだり、工作したりしてるわ。サクシードは何か趣味がある?」

「いや、ない」

「そっかぁ……もしかして園芸に興味ない?」

「野菜なら作っていたが……」

「ほんと、ラッキー! 庭がね、広いんだけど土が悪くて散々なの。一応ラファルガーが詳しくて、改良はしてみたの。でも野菜まで手が出なくて……」

「——悪いが、あまり手伝えないと思うぞ。POAの訓練があるからな」

「あっ……! そうだよね、ごめん。ついみんなと同じつもりで……本当に暇なときに、良かったら手伝って。待ってるから」

「わかった」

「お掃除もあるんだけど、出来る?」

「住む以上はやるさ」

「ありがとう! POAの訓練はどうなるのかわからないけど、協力させてね」

 要するに警備士宿舎にいた時と同じだ。  

 炊事、洗濯、掃除ができないと、警備士は務まらない。

 自分の世話ができない者に、他人の世話は出来ないのだ。 

 

     




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