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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
69/202

『戦々恐々』

 午後の訓練が始まる。

 しかし、この時は訓練生以外の人間が多数ドーム入りしていた。

 同じ格好はしているが……一見して職業軍人とわかる風体。

 訓練生は明確な目的を知りながら、教官サラートの指示を待つ。

「整列!」

 散らばっていた訓練生が、サラート教官の号令に従う。

 サラート教官は声を張り上げた。

「全員、よく聞け―! 午前にドギュスト部長の話にあった通り、万武・六色の訓練に入る。教官連の要望で、知識でガチガチになる前に、実地訓練を行う。集まってもらったのは、POA本部出向軍人・有志の会だ」

 有志の会……その不穏な響き。

 戦々恐々となる訓練生に、サラート教官はさらなる追い打ちをかける。

「筋肉でものを考えるおまえらには、うってつけの機会だ。軽く撫でてもらえ! 以上」

「やっぱり、そうなるのね」

 ジャンティがボソッと呟いた。

 かくして三十一人の訓練生一人につき、軍人が二人付くことになった。

 ドーム内に目一杯広がって、苛烈な訓練が幕を開ける。

 相手は万武・六色の手練——無学な訓練生が太刀打ちできるはずもなく、なす術もなく薙ぎ倒される。

 敵と想定した軍人の創り出した風壁に立ち向かい、無数の擦り傷を負う者。

 乱射された光の矢を急所に浴び、激しく叱責される者。

 異空間から出現した激流に身を曝し、逆らって構えるよう檄を飛ばされる者。

 闇の立方体に閉じ込められ、盲滅法に拳を隔壁に叩き付ける者。

 足元の芝生が悪夢のように伸びて絡みつき、力ではなく草と同調するように、難題を突きつけられる者。

 激しく燃え盛る炎に、怯むことなく拳を繰り出すよう、発破をかけられる者——。

 一つとして同じ指導はなかった。

 万武・六色とは――?

 六色、とあるように、光・風・水・闇・地・火の六大精霊を使役する闘技である。

 対応する六色は、光は白、風は銀、水は青、闇は紫、地は緑、火は赤。

 各々の精霊の特徴によって戦闘法も異なる。

 通常は、六色ごとに体系づけて、初歩から学ぶ。

 しかし、訓練生の課せられたのは、体当たりの強行突破。

 初めから高い壁を用意して、どんな手段を使ってでもよじ登れ、という無理難題だった。

 落第しようがしまいがお構いなし。

 とにかく、訓練時間内で万武・六色を掴め。

 それが教官連の主眼だった。


 サクシードの訓練に立ち合ったのは、ルシェルとパコバという、金髪を刈り上げたスマートな男と、チリチリした髪の黒肌の男だった。

 ルシェルが初めに問うたのは一つ。

「ハイ! 君の精霊祝いは何だった?」

 意外なことを聞かれて、サクシードは戸惑ってしまったが。とにかく精霊祝い――生誕時に行われる儀式——について思い出し、簡潔に答えた。

「火、です」

 ルシェルがパコバに目配せして言った。

「OK! じゃあレクチャーは火……『六色・赤』だ。パコバが繰り出す炎の拳を見極めろ」

「了解!」

 サクシードが間合いを三メートルほど取る。

「行くぜ、ボーイ!」

 パコバが右手を斜め上にかざして、指を鳴らした。

 突然、拳が火を吹いた。

「ファイア・スネーク!!」

 炎が鎌首をもたげ、何百という紅蓮の蛇が躍り出た。

 サクシードは微動だにせず、フェイクを躱し、鞭のようにしなる蛇の本体を捕らえた。

 拳を掴んでパコバと睨み合う。

「OH! 君は有識の位階者かい?」

 ルシェルが額に手をやって尋ねた。

「……修法者と一度、手合わせしています」

「なんてこった! サプライズが台無しだぜ」

 派手に悔しがるルシェルとは対照的に、パコバはにやりと笑った。

「クレイジーショーの幕開けだぜ。ルシェル、止めるなよ!」

 パコバがそう言った次の瞬間に、至近距離に迫る。

 繰り出された拳を間一髪受け流す。

「ハッ、そいつは凪拳じゃねぇか。一度の手合わせで体得したかい?」

「……!」

 パコバの炎の拳が、サクシードの拳とぶつかった。

 カッと衝撃が走る。

 気と気のせめぎ合いで、火と風が渦を巻く。

「しょうがねぇなぁ……エア・アーク・シャット!」

 ルシェルが直径十メートルに結界を張った。

「ヘイ、ボーイ。反撃はそこまでかい?」

 技に限りがあるのを見切られた。

 一か八か。

 サクシードは反撃のチャンスを待った。

 だが、善戦虚しく、容赦ない拳圧でサクシードの肚にボディブローがヒットする。

「ぐっ……」 

 体を折り曲げるサクシード。

 パコバがさらに嬲ろうと、拳を溜めて迫った。

 刹那、サクシードは驚くべきことに神足で、パコバの懐に飛び込んだ。

「スパイラル・ローリング!!」

「うぉぉっ!」

 パコバは間一髪で、その未完成なアッパーを躱した。が、驚きのあまり尻もちをついた。

 呆然とサクシードを見やる。

「みっともねぇ、あんたの負けだぜ、パコバ。ダウンを取られちまった」

「チッ、しゃあねぇだろ? こいつの天性の勘だけは本物なんだからよ」

 サクシードも心底驚いていた。

 まさに天性の勘が明暗を分けた。

 一度手合わせただけの空技を、ここまで真似られるとは。

「負けたぜ、ボーイ。名前は?」

 パコバに聞かれて、サクシードは慌てて答えた。

「サクシード・ヴァイタルです」

「そうかい、サクシード。おめぇ、このままいったら、とんでもねぇ高みに辿り着いちまうぜ。ウィミナリスで修法行に行っちゃどうだい。こいつはひょっとすると……」

「おい、パコバ。そいつはトップシークレット。タブーだぜ」

「おっと、そうだった。なんにせよ、大したもんだぜ。おまけに顔までいい。女にゃ気をつけろよ、色事と拳の道は両立しねぇぜ」

「……」

「図星かよ! しゃーねぇなぁ……これだけは言っとくぞ。女は女でも、とびっきりの極上の女にしとけ。間違っても萌えロリやあばずれには手ぇ出すな。吸い取られちまうからな」

「その点は大丈夫です」

「クソッ、天は二物を与えねぇんじゃなかったのか!」

 ルシェルが派手にやっかむ。

「いいじゃねぇか、木の芽時は全力で走ってなんぼだぜ。ところでその女ってな、まさかモラル嬢じゃねぇだろうな?」

「——そうです」

 パコバはがっくりと項垂れた。

「やっぱりな、そうじゃねぇかと思ったんだ。おめぇの年に近い極上の女っつったら、それしか該当しねぇもんな」

「マジかよ! 絶対、上層部絡んでるだろ」

「ああ、間違いなく共謀だ。それにこの国は『人界の王』のお膝元だ。何でもアリだぜ」

「っか――!」

 ルシェルが天井を見上げて、吠えた。 




 

 

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