『通常の訓練のさなか』
新訓練の序章が終わると、通常の体力トレーニングが待っていた。
ランニング・筋力トレーニング・ウエイト・運動器具を使用したトレーニング……。
それらをこなす訓練生には、鈍重な雰囲気が垂れ込めていた。
未知のことに挑戦する気概を持つのは難しい。
実際にレンナと対決していない訓練生でも、それは同じだった。
間接的に、目指す高みが天井知らずで突き抜けてしまい、足場まで崩れたような。そんな心許なさを味わっていたのだ。
あの陽気なジャンティでさえ、黙り込んで何かを振り払うように、トレーニングに打ち込んでいた。
イーリアスも思案に暮れている。
誰もがその先へ踏み出すのに、どれだけの前準備ができるか考えていた。
サクシードも困惑を隠せなかった。
こんなふうに一斉に万武・六色の門戸が開かれるとは、予想だにしないことだった。
レンナからは何も聞かされていない――。
これも修法者の務めなのだろう。
理性はそう判断していたが、苦くて割り切れない気持ちがあった。
(また何かの機会に出てくるんじゃないだろうな――?)
正直、これ以上レンナを訓練生の前に曝したくなかった。
昨夜のラファルガーの話じゃないが、周囲からのプレッシャーに、屈することのない関係を築く必要があった。
海千山千の訓練生たちは、全員ライバルとなったのである。
正午の時報が鳴った。
「よし、そこまで――!」
ナムジン教官の号令を合図に、昼休憩の時間に入る。
「おっしゃ! サクシード、行くぞ」
ジャンティの明るさが救いだった。
イーリアスと三人で、別棟の食堂へ向かう。
「いやはや、どえらいもん見ちまったな」
ジャンティは腕を上に伸ばしながら言った。
「そうだな……有無を言わせぬ説得力だった」
イーリアスも疲れたように言った。
「部外秘ってなってたけど……POAの敷地内はいいんだろ?」
「どうかな? 事務員から一般兵まで共有してるかっていったら……そこまでは浸透してないんじゃないか」
「ふーん、じゃあ訓練ドーム内だけか……あ、そういやサクシード。万世の秘法知ってたじゃん。ついでにさっきの、つおい女の子、知り合いだろ?!」
ぎょっとするサクシード。
「……よくわかりましたね」
「そりゃ、あんだけ凝視してれば勘づくって。で、誰なわけ?」
「——俺の下宿の世話人です」
「ほうほう! そいつは興味深い」
「あまり藪を突かない方がいいぞ」
「なんで?」
「最高位の修法者だって言ってたろ。サクシードの下宿入りはPOA上層部の陰謀だ。彼の実力を限界以上まで引き上げて……どうなるかは俺にもわからん」
「結局、匙投げるんかい! いいじゃねぇの、青春街道驀進すれば。お膳立てには乗るべし。そんで、別世界に行ったんさ~い」
「あのなぁ」
明るすぎる発想に、イーリアスが落ち込む。
「サクシード……んな悩むなって! ここだけの話にしておくからさ」
「——助かります」
「お、正直でよろしい。任せとけって、何事も楽しんだもん勝ちだぜ。ハプニング、大いに結構! な」
「はい」
サクシードはやっと肚を決めた。
レンナは誰にも渡さない――!




