『開かれた門扉』
翌朝、サクシードが訓練ドームに来てみると、状況は一変していた。
入口近くにホワイトボードが設置され、張り紙が貼られていた。
そこには、万世の秘法入門心得、と印刷されてあった。
一人残らず集まって、ざわざわと話し合う。
「万世の秘法——? なんじゃそりゃ!」
「わっかんねー」
「すっげぇ怪しい響きがあるんだけど」
大抵の訓練生はその言葉を知らなかった。
「ガルーダさん、わかります?」
「——聞きゃあわかる」
さすがにガルーダは知っていた。
そんな中、ジャンティは腕を組んで深く考え込んでいた。
「ジャンティ、何考えてる?」
イーリアスに聞かれて、ジャンティは珍しく声を潜めた。
「……俺、前に聞いたことがあるんだよ。アウェンティヌスで」
「えっ」
「何とかの里ってところから来た人間に、その経歴を生かしませんか、ってな。胡散臭い宗教団体に目をつけられたかと思って、袖にしたんだが。——巡り巡ってこんなところで鉢合わせるとはな」
「ふーん、宗教なのか?」
「いや、思想だって言ってたな。あんまり変わらんと思って聞き流した」
「思想ねぇ……」
知性派のイーリアスも、だいぶ、いかがわしく感じたようだった。
「……」
サクシードは二人の会話を聞きながら、そう思うのも無理はない、と思った。
信頼できる人間に言われるならともかく、初対面の相手に、そんな話を切り出されたら、ジャンティでなくても拒絶する。
その沈黙を不思議に思ったのか、ジャンティがサクシードに言いかけた時、教官たちが現れた。
そして、執行部部長ドギュスト・グランクの姿が。
「はいはい、みんなお待たせ。整列しなくていいから、ホワイトボードの前に座ってくれ」
ドギュストが手を二回打って、訓練生らに指示した。
訓練生たちはがやがや言いながら、適当にスペースを開けて座る。
「この中で万世の秘法という言葉を聞いたことある人——?」
ドギュストがそう切り出した。
サクシードを含む四、五人の手が上がった。
「どういう内容なのか、知ってる人——?」
これはガルーダしかいなかった。
「うん、なるほどね。よくわかった、ありがとう」
教官たちが人の悪い笑みを浮かべている。
ドギュストが話を続ける。
「まず、万世の秘法が何なのか、ということだが。所謂、超能力を有している者を、管理・保護する団体だ。よく思想というふうに解釈されるが、啓蒙を目的としてないし、いかがわしい宗教団体でもない。ましてや、国絡みの陰謀でもないからね。それだけは断っておくよ、ホント」
「超能力——? 胡散臭せぇっ」
「俺たちがそいつを開発するってのかい」
訓練生とドギュストの距離は近い。
遠慮がないからこそ、話せることがある。
ドギュストたちの狙いはそこだった。
「いいねぇ、その食いつき! そうこなくちゃね。万世の秘法はPOAを統括している団体でもある。必然、君たちが有識の戦闘員になることは、運命づけられている、ということだ。前述したように、君たちには万世の秘法の裏闘技、万武・六色の訓練を受けてもらう」
「はい」
ゲルツが手を上げた。
「どうぞ、ゲルツ君」
「それは……他に選択肢はないんですか?」
「断ってもいいよ」
ここでガクッと身体を傾けた訓練生は多かった。
「断って、今の延長線上で任務に就く。それもアリだ。その場合も柔軟に対処させてもらう。ただねぇ……血気盛んな君たちが、万武・六色を目の当たりにして、無関心でいられるかな」
「んじゃまず、そいつを拝ませてくれよ!」
「そうだ! 理屈並べられてわかるかよ」
「そうくると踏んでたよ。特別講師を紹介しよう」
その場に現れたのは、何とレンナだった。
前が開いた薄手の白いライフジャケットに、Tシャツ・黒のスパッツにスニーカーという出で立ち。
しかし、そこで巻き起こった反応は――。
「うぉぉっ、めっさ美少女やん!」
「部長、わかってんじゃん」
「お嬢ちゃん、むさくるしい男の世界にようこそ!」
「ヒュー、ヒュー!!」
思わぬことで、訓練生たちのテンションはだだ上がりになった。
(レンナ―—!)
言葉にならない驚きを込めて、レンナを射るように見るサクシード。
だが、レンナがその視線に答えることはなかった。
「誰かこの子の相手をしてくれる人——?」
ドギュストが言うが早いか、速攻で十人ほどの手が上がる。
「よしよし、やる気があって何よりだ。みんな、出てきて好きなように陣形組んでいいよ」
「部長——! どうなっても知らねぇぜ」
スケベ心全開の訓練生たちの野卑た声が、阿鼻叫喚の地獄絵図となったのは言うまでもない。
「ギャ——ッ!!」




