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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
65/201

『いつの間にか』

「……」

 アニスの剣幕からいって、レンナにはPOA入りを反対していることをはっきり言ったのだろう。

 だが、事情を聞かされたはずのレンナには、柔和な笑みがあるだけだ。

「前に連絡した時点では、姉貴ははっきり反対してた。その勢いでおまえに話したんだな」

「ううん。でも、私だってお姉さんの立場だったら、弟がPOAに入ろうとしていたら、その情報が十分になかったら。必死になって止めると思う。反対するのは無理ないわよ」

「そうだな……姉貴は俺が説得するよ。かなり心配させているし、あまり丈夫でもないからな」

「そうしてあげて。サクシードがどれだけ訓練に万全を期しているのかを知れば、お姉さんもきっと考え直してくれるわよ」

 サクシードはレンナをじっと見つめた。

「——ありがとう。ごめんな、姉弟のことに巻き込んで」

「いいの、私でよければ。それに、これも世話人の務めだから、気にしないで」

「……」

 細い肩、優しく温かい言葉だけを紡ぐ唇、自分を見つめる真摯な眼差し。

 深い思いやりを差し出されて、サクシードはレンナの肩に手を置いた。

「サクシード?」

 するとそこへ――

 バンッ。

 いきなり予告もなしにドアが内側に開いて、ラファルガーが入ってきた。

 二人を見るなり、さらっと言う。

「あ、悪い。本を返しに来た。すぐ出て行く」

 サクシードはもうレンナの肩から手を下ろしていたが、自分が何をしていたのか、突然わかって、カッと赤くなった。

 レンナも顔を赤らめたが、肩を竦めてくすぐったそうに笑った後、ラファルガーに聞いた。

「ラファルガーはレポートの作成?」

「ああ、提出期限が迫ってきたからな」

「サクシード、ラファルガーはね、ここから西側にあるサンドプッセ川の研究をしているの。とても詳細で手が込んでいるレポートなのよ」

「今朝、話を聞いた。ラファルガーなら文句のつけようのない、完璧なレポートを提出しそうだな」

「作業そのものは地味なんだがな」

 ラファルガーは平然と話を合わせた。

「それで、夜中に突然、下宿を出て行って標本を採りに行ったり、蜘蛛の巣だらけになって帰ってきたり。人が変わったように活動的になるのよね」

「へぇ」

「勢い余って、高そうなシャツをびりびりに破ったり、泥だらけになってくるのは困りものね」

「思考が研究に絶えず向かっていると、あまり身なりに構わなくなるんだ」

「せっかくの男前が台無しだな」

「実は元々、無頓着なのよね」

 その時、階下からレンナを呼ぶファイアートの声が。

「レンナー、電話!」

「はーい! じゃあ私は行くね」

 そう言ってレンナは、男二人にして書庫室を出て行ってしまった。

「忙しい時にマラソンに付き合わせて悪かったな」

「いや、一人だったらしようと思わないことができて、いい刺激になった。おかげでレポートも順調だ」

「それならいいんだが……」

「そんなことより――こっちこそ邪魔して悪かったな」

 出し抜けに言われて、サクシードが動揺する。

「な、何を言ってるんだ」

「俺が言うのもなんだが……勢いを殺すより乗っかった方が、自然なんじゃないか」

「ファイアートみたいなことを言うんだな」

「君のような男が恋に落ちるのは見ものだからな」

「面白いか? 俺が気持ちを持て余すのが」

「——持て余す、というより、レンナのことは張り合いになってると思うんだが、違うか?」

「……」

 その通りだった。

 レンナは目新しい日常、そのものの象徴として、サクシードの生活を潤していた。

「こうなったら肚を決めて取り掛かった方がいいだろう」

「POAの先輩もそうけしかけてたな」

「それはあくまでも他人の意見だ。君はどうしたいんだ?」

「——わからない」

 こんな気持ちは初めてだ、とサクシードは思った。

「……さっきも、考えるより先に、手の方が動いていたふうだったな」

「……!」

「君もPOAの訓練で大変だろうが……この状況は予め仕組まれたものだ。万世の秘法然り、恋愛も予測の範囲内。その上で要求されているレベルアップも目指していけ、そういうことじゃないのか」

「難しいな……」

「別に今すぐどうにかしろとは言ってない。訓練期間が明けたら、POAの任務に就くだろ? そうなれば、恋愛にうつつを抜かすわけにはいかないんじゃないのか。限られた時間の中で……レンナから受け取るものは大きいと思うぞ……つまりは万世の秘法からお題が出たのと同じだな」

「……わかった、俺も初心者同然だが。レンナと前向きな関係を築いていこうと思う」

 プッとラファルガーが吹き出した。怪訝な顔をする サクシード。

「とことん真面目だな。でも隙だらけだ。ファイアートには油断するなよ、恋の曲芸師だからな」

「なるほど、確かに」

 ファイアートに対する、二人の評価が一致した――。


 

 


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