『すれ違う姉弟』
フローラが淹れる香り高い紅茶を楽しみながら、寛いでいると、ラファルガーが席を外した。
次にサクシードがトイレに行くため席を立った。
終わらせて戻ってくると、レンナがリビングのドア前の廊下で待っていた。
「サクシード、話があるの。ちょっと付き合って」
「?」
言われるままについて行き、階段を上って東側のバルコニーの手前にある部屋に入る。
そこは書庫室だった。
東と西の壁が一面書棚になっていて、真ん中に長方形の木のテーブルと、椅子が四脚ある。
南の大きな窓は、ベランダに出られるようになっていて、レースのカーテンが掛かっている。
二人は入り口近くに立って話し始める。
「ごめんね、急にこんな形を取って」
「いや……話ってなんだ」
「午前中に、お姉さんのところへメール便を送りました。その時に、一緒に私からも挨拶文を添えさせていただきました。……ここまではいいかな」
「ああ、ありがとう」
すっかり忘れていた。いろいろなことがありすぎて、気を回すこともできなかったと、サクシードは振り返った。
「そのせいだと思うんだけど、お姉さんからすぐに電話があったの」
「姉貴から――?」
意表を突かれて、サクシードはそのあとが続けられなかった。
いったい何を言ってきたのだろう。
「私が応対して、いろいろお話させてもらったんだけど、サクシードには個人的に伝えた方がいいかなと思って」
レンナの気遣いに感謝する。
「そうか、助かる。で、何だって」
「サクシードがどんなところに住んでるのか、世話人の私はどんな人間なのか、知りたかったみたい。それで、私から下宿のことと、私自身のことをいくつか話しました。……お姉さん、ずいぶん心配してらしたわよ」
「そうか……」
姉貴のやつ、レンナに何を言ったんだ。
サクシードはなぜか空恐ろしくなった。
「お姉さんはPOAに入ることを反対していたの?」
レンナに聞かれて、サクシードはその時のことを思い出した。
三週間前、蒼水の三月運観の十日——。
「なんですって、POAに入る?!」
アニスは繊細な顔の作りを、目一杯強ばらせて言った。
「ああ、でも一度、再訓練のためにパラティヌスに行く」
「な、何言ってるの。POAって言ったら、テロの矢面に立つ最前線の仕事じゃない」
「よく知ってるな」
「あなたみたいな弟を持つと、自然に詳しくなるのよ。そんなことよりPOAなんて絶対ダメよ。命がいくつあっても足りないわ」
「命を無駄にするような仕事はしない」
「冗談じゃないわよ。命を賭けるような仕事なんて、反対だって言ってるの!」
「もう決めた。後には引けない」
「大事なことなんだから、ちゃんと聞いてよ。おじいちゃんがあなたに託したのは、命を粗末にすることじゃないわ。大切な人を見つけて、絆を作るように言ったのよ。——末永く幸せに生きていきなさい。そういうことよ」
「俺は姉貴のようには生きられない」
「そんなことはやってみなくてはわからないわ。サクシード、お願いよ、思い留まって。あなたが危ない目に遭うかもしれないのに、自分だけ安心して暮らせないわ。じっくり話し合いましょう、時間を作って」
「悪いけど、こっちで事後処理が残ってる。終わったらすぐパラティヌス行きの船に乗る。そっちに行ってる暇がない」
「サクシード……こんなに頼んでるのに」
アニスは泣いてしまった。
しかし、サクシードの決心は揺るがない。
「ごめん、姉貴。じゃあ」




