『就業時間』
午後五時半になった。
訓練が終わって、大挙してロッカールームに向かう訓練生たち。
官公庁と同じで、関連施設以外は消灯するので、寄り道する余裕はない。
ただ、ロッカールームにはシャワーも併設されているので、多少前後しても何ら言われることはない。
混み合う中、着替えを済ませたサクシードは、ジャンティたちが終わるのを待っていた。
すると、ベンチに座っていたガルーダが声をかけてきた。
「どうだった、新入り。今日の訓練は?」
「はい、とても充実してました」
スッキリと言うと、ガルーダも頷いた。
「そうか、いつもはこんなもんじゃないが、しっかりついてこいよ」
「はい」
「待たせたな」
ジャンティたちが着替え終わった。
三人揃って声を張り上げ、挨拶する。
「お先に失礼します!」
「おう、お疲れ」
三人はロッカールームを出て、訓練ドームを後にすると、高速エレベーターに向かった。
「今日はサクシードのおかげで、訓練が違って見えたよ。明日はどんな隠し技を見せてくれるかな」
ジャンティが面白がると、イーリアスが呆れた。
「見世物じゃないんだから……」
「どう贔屓目に見ても、今日はサクシードの独擅場だったよな。へっへっ、気持ちいい~」
「サクシードは、そう思ってないようだぜ」
「……」
黙っているサクシードを訝しんで、ジャンティが顔を覗き込んだ。
「疲れたのか、サクシード?」
気づいたサクシードが言った。
「あ、いや……目立ち過ぎたかと思って」
「なんだ、そんなことか。気にすんなって! 実力がある人間にがたがた言うやつをまともに扱ったって疲れるだけだぜ」
「そうだよ、黙殺したっていいくらいさ」
「それでは和が保てません」
「和を乱してんのはそいつらだろ。まさか言いなりになって、大人しくしてたんじゃ、本末転倒だぜ」
ジャンティが憤然として言うと、サクシードは思うところを語った。
「俺は彼らのことをよく知りません。知らないうちは良くも悪くも思えません。
……まだ始まったばかりですから」
イーリアスが感心して言った。
「そうだな……本来、俺たちは敵も味方もないしな。多少のことは乗り越えないと、この先、息詰まるか」
「それならごちゃごちゃ言ってないで、拳で渡り合おうぜ。駆け引きは性に合わねぇ」
ジャンティの言い様に、サクシードとイーリアスは笑った。
高速エレベーターに乗り、地上へ昇る。
「ところで、話は変わるけど、サクシードはどこに帰るわけ? POA宿舎じゃないんだな」
ジャンティに言われて、サクシードは何気なく答えた。
「レピア湖畔区のバッソール町というところにある下宿です。POAに推薦してくれた人が紹介してくれました」
「下宿……?」
イーリアスが意外そうに言った。エレベーターを出る。
「へぇ……宿舎が満員でもないのに、妙な措置だな。まぁいいや、その下宿って男ばっかりなんだろ」
「いえ……世話人は同い年の女性です。他にも一人いますし」
ジャンティとイーリアスは顔を見合わせた。
「やっぱり変ですよね、俺もそう思います」
「んな落ち着き払って……絶対変だろ! 同い年の女の子って、十七歳じゃないか。まぁ、この国ではおかしくないか。でも、POAに専念しなくちゃいけないところを、女の子と同居させて、堅実に生活しろって言うんだろ。なんだそりゃ、滅茶苦茶じゃないか」
「確かに変だな。理屈が合わなすぎる。何か他の意図があるのかな」
「他の意図、ってのは?」
イーリアスの意見に、ジャンティが問い返す。
「例えば……サクシードは若いから、民間と接することで、絆を作って、社会から隔離しないようにしてるとか」
「おお、それならわかるな。若いうちは身も心も定まらないもんだし。いきなり社会と断絶されるのはキツいか」
サクシードも考えた。
確かに、今まで臨時警備士をしてきて、社会との接点は意識しなくては作れなかった。それが必要だと言うのであれば、普通の生活もこなさねばなるまい。
「で、サクシード。その世話人の女の子ってかわいいのか?」
「はっ?」
「とぼけんなよ、こうなりゃ恋愛するしかないだろ。どうなんだよ」
ウリウリとサクシードの腕を肘で擦るジャンティ。
ここは思うところを言った方がよさそうだ、とサクシードは判断した。
「……かわいいですよ」
「やっぱりそうか! 羨ましい。頑張れよ、あたら若い青春を、POAだけに捧げることないって。な、イーリアス」
「そうだな、それもアリだよな」
「……」
そうか……俺はレンナのことを《《かわいい》》と思ってるのか。
我ながら他人事のようにサクシードは心の中で繰り返した。
図書館裏のPOA宿舎へ行く道の十字路でジャンティたちと別れ、サクシードは駅に向かった。




