『サクシードの目的』
入国管理局での手続きを済ませ、二人は昼食をとるため、肉料理店に向かう。
メーテスの町並みは、どこも明るいクリーム色の壁にレンガ色の屋根で統一されている。
主街道を左(西)に入って、一区画目の裏路地。手前に噴水公園がある場所に、肉料理店『タウロス』はあった。
船旅の様子など、当たり障りのない会話をしてきた二人は、店内の昼時の混雑に巻き込まれた。でもすぐにボックス席が空いて、座ることが出来た。
「ラッキーだったね」
レンナが言いながら、サクシードにメニューを手渡した。
「私は決めてあるから、サクシードはメニューを見て決めて。お勧めは牛ロースの二百グラムコースかな」
「じゃ、それでいい」
あっさり決まる。
店員が来たので、サクシードの分と、鶏の照り焼きを注文するレンナ。
「ここのスタッフは、みんな一流レストランでの修行経験があるのよ。だからよく引き抜きの話があるんだけど、誰も抜けないの」
「詳しいな」
「ここじゃないけど、料理店でアルバイトしていた時に小耳にはさんだの。本当はそっちに行きたかったんだけど、駅とは反対の区画(東)だから。
「アルバイトは、下宿の運営のためか」
「そう。やっぱりただ始められないじゃない」
「他にも何かやっていたのか?」
「うん。リフォームのためにDIYの資格を取ったり、経理の勉強とか、一応一通りね」
「結構大変なんだな」
「でも、ずっとやってみたかったことだから。サクシードこそ、臨時警備士なんて大変でしょうに」
「俺の場合は生活がかかっていたんだ。面倒を見てくれていたじいさんが亡くなって、姉貴は嫁いじまったし、一人で無人島暮らしするわけにもいかないからな」
「そうだったの……それでカピトリヌスの、警備士養成学校に」
「ああ、体力しか取り柄がなかったから、警備士を選んだ」
「パラティヌスでも、警備士で身を立てるの?」
「いや……パイオニアオブエイジにスカウトされてる」
レンナが驚いた顔をした。
「POAに?」
「ああ、知っているかと思った」
「ごめんね、事前に知らされていたのは、経歴だけだったの」
「迷惑だったか?」
「えっ、違う違う。POAにスカウトされるなんて、有能な人材なんだなぁと思って」
「そんなことはない。ただ目的が重なっただけだ」
「目的?」
サクシードは真剣な表情で告げた。
「テロの撲滅だよ」
射すくめられたように、動かなくなるレンナ。
水を呷ったサクシードは、レンナの様子を見て、しまったという顔をした。
「悪い。食事時に話すことじゃないよな」
その言葉で、レンナの強ばった顔は、優しく包むような笑顔に変わった。
「ううん……崇高で立派な目的ね。各地を転々としていたのは、独自で捜査するため?」
「ああ」
「危険な目には遭わなかったの?」
「一度だけ、カエリウスで接触してる。不意を突かれて怪我をしたし、いいとこなしだな」
頭を振るレンナ。
「危ないわ。でも無事でよかった。その時何かあったら、こうして出逢っていないのよ。命を守ってくれたすべてのものに感謝するわ」
「……ありがとう」
まるでその場に居合わせたようなレンナの言葉に、サクシードは感謝した。
頼んだ料理が運ばれてきたので、食事をしながら、POAにスカウトされた経緯を話す。
パイオニアオブエイジとは ――?
一言で言えば、対テロ組織である。
本部はパラティヌスにあり、他の主要宮廷国、カピトリヌス・カエリウス・アウェンティヌス・エスクリヌス・ウィミナリス、クイリナリスにも支部がある。
世界情勢の混乱を目論むテロリストの無差別攻撃に対抗し、武力を持って排除する。
軍備、情報・諜報活動、捜査・警備などを行い、国際的に強力な布陣を敷く。
設立二年目の、新しい組織であり、人員を随時選定している。
サクシードは当時、テロの頻度が高いエスクリヌスで、街頭警備士をしていた。
そこへ研修と称して、ある人物が入り込んだ。
その人物とは、ジュリアス・ゼム・ゼピュロス。
パラティヌスの時期統治者となるべく、諸国で外交を学んでいる、現カピトリヌス親善大使だった。
サクシードが警備士として自立した時点で、追跡調査していたことを明かし、POAにスカウトしたのだった。
突然の話に戸惑いながらも、目的が一致することを確認したサクシードは、スカウトを受けた。
パラティヌスに来たのは、POAで再訓練を受けるためだ。