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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
47/201

『電車内のアクシデント』

 何事もなく行きつきたいところだが、彼の目前で事件は起こった。

「うっ……!」

 突然、側に立っていた老婦人が、胸を押さえてしゃがみこんだ。

「きゃあ!」

「大丈夫ですか?!」

 周囲の人たちが騒ぎ出す。

 サクシードは進み出ると、それらの人々に指示する。

「そこのお三方、彼女に席を譲ってください」

「お、おおっ……」

「はいっ!」

 慌てて前に座っていた中年の男性と女性が、席を立ってよける。

 サクシードはあっという間に老婦人を抱え上げて、椅子に座らせると、脈拍を測った。

 老婦人の顔が青ざめ、額に汗が浮かぶ。苦しそうだ。

「ご婦人、聞こえますか。狭心症ですね、お薬を持っていますか?」

 老婦人の前に屈みこんだサクシードが尋ねる。

「……はい……カバンの中……茶色のポーチ」

 荒い息をつきながら、絶え絶えに老婦人が答える。

「探してください」

 席を譲った女性に頼む。

「は、はいっ!」

「どなたか、車内にある電話で、車掌に知らせてください」

「わ、わかった」

「おい、電話はここにあるぞ」

 ざわざわとざわめく車内。

「お、お薬ありました!」

「ください」

 女性から受け取って、確認してから、老婦人に飲むように促す。

「飲めますか?」

 老婦人は何とか薬を口に運んだ。

 それからサクシードは、老婦人の隣に腰かけ、背中から第二胸椎と第四胸椎の左側を交互に速く、拇指頭で突いた。

 周囲から嘆息が漏れた。

 サクシードの的確な処置から、大事に至らないだろう、と言うことを感じ取ったのである。

 老婦人は薬を飲んで安心したらしかった。段々、荒い呼吸も収まってきた。

 事態を聞きつけた車掌がやってきたので、サクシードは詳しく状況を語った。

 すぐに到着した水甕湖駅で老婦人は救急搬送され、車内に安堵した空気が流れた。車掌がサクシードに何度も礼を言い、周囲からは温かい拍手が送られた。

「君は看護師かね?」

 背広を着た中年男性が感心したように聞いた。

「いえ、警備士です」

 サクシードが答えると、男性は驚いた。

「警備士だって? すごいねぇ、そんなに若いのに見事な手際だった。この国で若年層の警備士の質がよく問題になるのが嘘のようだよ」

 すると、側にいた別の中年男性も口を挟んだ。

「こんな優れた若者がいるなら、おいそれと批判もできないですな」

「まったくですよ。君、名前を教えてくれないかね。私はこういう者なんだが」

 初めに質問してきた男性が、名刺を差し出した。

 サクシードが困惑しながら名刺を受け取ると、そこには「公共誌ヒューマニズム記者 ラルフ・ドーマン」と印字されていた。

 反射的にサクシードはまずいと思った。

 POAに所属する以上、名前が公表されるのはいかがなものか。

「記事になるのは困るんですが」

 率直に言うと、ラルフは心得たように言った。

「もちろん、匿名の警備士ということにするよ。同世代の警備士たちに喝を入れる意味で是非、記事にしたい。いいかな?」

 先週、パラティヌスに来たばかりの自分が、引き合いに出されるのはどうかと思ったが、とりあえずサクシードは了承した。

 この一部始終をつぶさに観察している目があった。

 ラファルガーだった。

 サクシードの混乱時における冷静さと物怖じのなさは只事ではない。

 自分だったら、どうするかわかっていても、遠巻きに見ていただけだろうが、サクシードは事態の先頭に立って収めたのだ。

 これが自分とサクシードの決定的な違いだった。

 自信と自負。バランスよくこれらを両立させて、サクシードは大道を進む。

 人々もそんな彼に尊敬と称賛を送る。

 羨ましいとは思わないが。

 ラファルガーは改めて思う。

 それは混迷する世の中に必要な光だ。

 帰ったらレンナたちに教えてやろう。どんなに喜ぶかしれない。

 そう考えて、ラファルガーは仕事に気持ちを切り替えた。

 






 

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