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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
45/201

『生物研究の仕事』

「すごい部屋だな」

 改めてサクシードが感想を言った。

「ああ、維持費が別途必要だがな」

「ハハハ、やっぱり職業意識から、こういう部屋に?」

「そうだ。もう少ししたら熱帯魚は同僚に譲ることにしている。ここから三分もしない西側に、サンドプッセ川というところがあったろう?」

「ああ、あの小さな川だな」

 レンナと湖岸一周マラソンのコースを下見した時、彼女が川の名前と、そこにかかる小さな橋の謂れを教えてくれた。

 だが、サクシードは聞き流してしまっていた。

「俺はサンドプッセ川の生態を主に研究している。首都の水甕湖と、東のストルメント山脈からの支流が合流してる川なんだ。小さな川なんだが、淡水魚が豊富に生息してる。ウグイ・アブラハヤ・メダカ・コイ、ドジョウ……。もちろん餌になる水生昆虫も研究の対象だ。それから周辺地域の樹木・土壌・流域の水質も調査してる」

「へぇ……」

「下宿に来てから四年……だいぶデータが揃ったんでな。川の淡水魚をここで飼ってみようと思ってる。なるべく自然に近い形にしたいから、水は川の水、水草も壁に這わせる蔦も現地調達するつもりだ」

「ということは……餌もか?」

「——これはいずれわかることなんだが、レンナがあまり昆虫類が得意でなくてな」

「? 万世の秘法は、環境修復技術が主な仕事なんだよな……」

「言いたいことはわかる。昆虫が苦手だからと逃げ回っていたら、仕事にならないだろう、ってことだな」

「ああ」

「修法者の最終試験場『太陽の峰(サン・ピーク)』は、因果界のアルペンディー大山脈にある。察しがつくと思うが、険しい山に分け入って、十日間生活しなくてはならない。神足と呼ばれる超高速移動で踏破するんだ」

「俺がレンナに一瞬で間合いを詰められた、あれか……」

「山でのアクシデントへの対応力を問われるわけだが……。それこそ昆虫がわんさか生息する山で、レンナがどうしていたかというと。入峰(にゅうぶ)というんだが、それをする前に、山に生息する昆虫と交渉するらしい。どんな内容かはわからんが「私は生息地を騒がせないので、代わりにどこにいるか知らせてください」とかな。それで三回ほど踏破に成功して、修法者に任命されたのが十二歳の時だそうだ」

「十二歳……」

 その頃、自分は自立もしていない、とサクシードは思った。

「ここから先はレンナに直接聞いてくれ。扉は開いたばかりだ、不備があっては申し訳ないからな」

「ありがとう。思いがけず深い話が聞けてよかった」

「いや、訓練初日、頑張ってくれ」

 

 それを潮に、サクシードはラファルガーの部屋を出た。

 廊下を曲がったところで、洗濯カゴを手にしたレンナと鉢合わせた。

「あら、サクシード。新聞は読めた?」

「ああ」

 そう言えば忘れてきた、とサクシードは気づいた。

「すごかったでしょ? ラファルガーの部屋」

「そうだな……レンナがラファルガーと会ったのは、生物学の学会でだったな」

「あ、覚えてた? そうなの、私が講堂の後ろの方で、学会の内容をタイピングしていたら、ラファルガーが後ろの席でそれを見ててね。「ご迷惑でしたか」って挨拶して。……あの通りだから、二言三言しか返してくれないんだけど、その時に下宿に住みませんか、って誘っちゃったの」

「一見で?」

「なんでかな……あの時のラファルガーって、必死にもがいてて、全然余裕がないように見えたの。四年前にパラティヌスに来た時は、どこにも伝手がなかったみたいで。いつまでもホテル暮らしはできないしで、いろいろ焦ってたんじゃないかな。それで、私もファイアートに手を焼いていたから、よく抑えてくれそうだと思って。それは後付けだけど、本当に助かったの」

「……」

「浅はかだと思う?」

 サクシードは黙ってレンナの髪をクシャッと撫でた。

「いや……何よりも彼のためになったさ」

「……」

 自分が同じ立場だったら、そんなことができるかどうか。

 レンナの人を見る目は確かだ。

 ラファルガーのように、容姿や言動で誤解されやすい人間を、引き取るのはこちらも構えてしまう。

 まず相手ありきなところが素晴らしい。

 万世の秘法の修法者ともなれば、こういう人となりが要求されるのだろう。

 それはサクシードにとって、最上段の人間の在り方だった。 


 




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