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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第二部
27/201

『サクシードの述懐』

 カタタン、カタン。

 そうとは知らずに、レンナは母屋の東側にある離れで窓を開いていた。

 こもった臭いが風で散っていく。

 いつも整理整頓はしているが、埃は薄く積もる。

 箒で掃き清め、軽く拭き掃除する。

 カウンターにソファーセット、暖炉、壁一面の戸棚には楽譜。そして、グランドピアノ……。

 サクシードを迎える準備のために、ここ数週間使っていなかった物たちが目を覚ます。

 ジャージを着たまま忙しなく動き回るが、全然苦にはならない。

 今日は汗ばむくらいの上天気。

 髪を額にへばりつかせて、無心で掃除に汗していると、後ろから声がかかった。

「レンナ」

 サクシードだった。

 さっぱりした顔をして、西側の勝手口の外に立っている。

「あら、いらっしゃい、サクシード」 

 レンナが布巾片手に振り返る。

「入ってもいいか?」

「もちろんよ。掃除もう少しなの。喉乾いてない? 冷蔵庫に炭酸水があると思うんだけど」

 サクシードは苦笑すると言った。

「そんなことより、掃除を代わるからシャワー浴びてこいよ。そのためにここに来たんだ」

「ええっ、いいのに……せっかくさっぱりしたんだから涼んでてよ。本当にもう少しなんだから」

「そういうわけにはいかない」

と言って、サクシードは強引にレンナから布巾をヒョイと取り返すと、さっと室内に目を配って言った。

「このピアノと、あとはテーブルと暖炉の上を拭くだけでいいか?」

「うん、そう。よくわかったわね!」

「何となくな、お前に気が入ってない」

「……そういうの、わかるの?」

 思わず尋ねるレンナの方は見ないで、ピアノの蓋の上を体を伸ばして拭きながら、サクシードは答えた。

「……自立して鍛錬を重ねて、組手で相手の気配を躱すことを覚えてからかな。それまではもっと漠然としてたんだが」

「へぇ……」

「レンナはそういうのに詳しいんじゃないか?」

「えっ、どうして」

「初めて会った日に、バッソール駅から下宿に向かう途中で、ソウルメイトの話をしてただろ」

「あ、そうか。でも……今、あなたに言ってあげられることは、その感覚を磨くことによって、違う境地に立つのが可能になる、ということだけね」

「ふーん」

「入口はどこにでもあるけど……門戸を叩いてみようとは思わなかったのね?」

「ああ、余計な枝葉だと思ったんでな」

「うん、そう言ってたわね」

 必要な技術を身につける以外は、かえって心が鈍るからだ。

 レンナがサクシードに、思想『万世の秘法』の存在を伝えようととした時に、彼はそこを目指さない理由を、そう表現した。

「これも感覚なんだが、底の知れない真っ暗な穴を覗き込んだような気がした。やめておこう、と心が拒否した。目的から遠ざかる恐れがあったからな」

「テロの撲滅ね」

「そうだ。結局、そこを通らずに一人で事を進めようとしても、分厚い壁に阻まれるようになってるみたいだがな」

「……」

「ジュリアス親善大使に出会わなかったら、俺は今でも堂々巡りをしていたと思う。……レンナはジュリアス氏とどういう関係があるんだ?」

「……ジュリアス様はパラティヌスの雲竜の滝谷の出身なの。名政治家を多く輩出している処で……知ってる?」

「いや」

「繋がりがあるのは、私じゃなくてフローラよ。北端国セライはパラティヌスの水源だけど、源流の一つが雲竜の滝谷なのよ。二人は王家として親交があって、いわば幼馴染なわけ」

「なるほどな……フローラならジュリアス氏と釣り合うか」  

「そうなの、お似合いでしょ」

「まぁな」

 二人が話し込んでいると、また勝手口から声がした。

「ちょっと、いつまで盛り上がってんの?!」

 ファイアートががなる。

「おたくらが仲良くやってる間に、ランチの準備も全部終わって、あとは運んでくるだけなんですけど」

「悪い悪い」

「ったくぅ、レンナ、十五分でシャワー浴びてきてよ。もう腹が限界なんだから!」

「わかったわ」

 レンナはサーッと、風のように離れを出ていった。

 ファイアートはサクシードに嫌味を忘れなかった。


「サクシード……」

「何だ」

「順調だね」 

「―—別にやましいことは話していない」

「あのねぇ、朝っぱらから食事の用意を手伝ったり、二人でマラソンしたり。こうやって離れで会話を楽しんだりしてさ。やましくなくったって特別には思ってるでしょ? 君みたいな硬派がかわいこちゃんに目尻下げることを、ツンデレっつうんだよ。よく覚えとけ!」

「じゃあ聞くが。俺の目的がテロの撲滅だって言ったら、あんたはどう答える?」

 意外にも、ファイアートは即答だった。

「明らかに手数が足りないね、一人でどうにかできる問題じゃないよ。まさか君、臨時警備士の権限でテロリストと渡り合おうって考えてたわけ? それは認識を改めた方がいいね」

「……」

 正論だった。

 ようやくわかりかけてきただけに、ズバリ指摘されるのは不愉快である。が、そこで腹を立てるほど堅物ではなかった。

「返す言葉もないな」

 サクシードが苦笑すると、ファイアートはにんまりした。

「もっとも、レンナを口説くには有効かもね。あの子、真摯な人に滅法弱いから」

「だから……」

「いいの、いいの、好きに表現してやって。恋の花はどこにでも咲くんだから。ああ、ちなみにレンナは男と付き合ったことないから、押しが強すぎると引いちゃうんで、手加減よろしく」

「……やっぱりレンナに聞く」

「えっ、力不足? 心外だなぁ」

 ファイアートの話もなかなか面白いが、いかんせん恋愛趣向が強すぎて、相談相手には向かないのだった。 


   


  



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