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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
24/201

『導き』

「レンナは、POAに入らないのかい?」

「……私がですか?」

 意表を突かれて、きょとんとするレンナ。

「資格はあるし、資質的に問題はないし。サクシード君を心配するなら、傍でサポートする方法があると思うんだけど」 

「でも、修法者(エターナリスト)の共通見解があります」

「世界の修復という趣旨にそぐわない、というあれだね。確かに。しかしだからと言って、修法者が必要ないわけじゃない」

「えっ?」

 ヤヌアリウスが何を言い出したのかわからなくて、レンナは眉をひそめた。

「POAは対テロ組織として、危険地帯に軍事介入する。マイナスからゼロにする行為だ。一方の修法者は世界の修復が目的で、どこまでもプラスであってゼロになってはならない。一見咬み合ってないようだが、どちらが欠けてもバランスは崩れる。つまり表と裏なんだ。POAがなければ、世界の修復は成り立たないと言っていい。逆に世界を修復する動きがなければ、POAの活動は決してゼロにならない。この二つを結びつけてはならないと言ったのは鳥俯瞰者(アスペクター)だ。ならば、修法者ならどうなる?」

「……双方、類似につき双璧と成すべし」

 レンナが込み上げる霊感とともに慎重に言葉を練り上げた。

「そういうことだ。POAの活動の裏には、修法者の動きが必要なんだよ」

「……」

 正直、レンナは修法者の共通見解に依っていたから、ヤヌアリウスの境地に立ったことはなかった。

 確かに表の『万世の秘法(ロック・エターナル)』で考えると、POAの活動はかけ離れている。だが、裏から万世の秘法を役立てようとするなら、多くのことが容易になりそうだ。

 しかし――。

「双璧になるには、多くの折衝が必要ではないでしょうか」

「そう。だからそれを、君から始めるんだ」

「! 無理です」

 レンナは即座に言った。

「そうかな? 確かに君は、修法者の中で、小さな活動しかしていない、と評されている。批判もある。されど修法者だ。『万世の秘法』に携わる、多くの同志が君が立ち上がるのを待っているんだ。その声に耳を塞いでいられる君じゃないだろう」

「実績のない修法者に耳を貸すほど、他の修法者は甘くないと思います」

「愛する者を、その力で守ろうとする者に、背を向ける修法者はいない。君は認識を誤っているよ、レンナ。実績があるに越したことはないが、それは結局過程でしかない。本当に大切なのは、目指すべきところは、世界ぜんたいの幸福だからね」

「はい」

 レンナもその考えに異存はなかった。

「何のためにその力を身につけたのか、もう一度考えた方がいいよ。君の力があれば、サクシード君を守れるんだ。彼をゆっくり好きになるといい。そうすれば自ずとわかる」

「ヤヌ様……」

 ヤヌアリウスの言葉を心に留める。

 だが多くの障害(ハードル)が立ちはだかる内容だった。

 今のレンナには受け入れがたかったが、正確な暗示は彼女の瞳を(かげ)らせた。

(サクシードを守る……自分の力で)

 そのことばかりが頭にこだますのだった。


 

 キュプリス宮殿正門前——

 サクシードはPOAの登録を終え、戻ってきていた。

 眼下の眺めの素晴らしさに呆然とする。

 白堊の壁と赤い屋根の建物群。広大で複雑なデザインの庭園。湖に浮かぶ離宮と中央に架かる主街道。首都を取り囲むような森林。

 遠くレピア湖まで見渡せて、そのまた遠くの集落や田畑の美しさ。

 この風景を見ながら、中枢で仕事をすることは、さぞかし誇らしいだろう。今日二度目の爽快感で胸が満たされるのだった。

 すると後ろ……正門の中から、走ってくる足音がする。振り返ると、レンナが走ってくるところだった。

「サクシード!」

 スピードを上げて走ってくる。速い。

「お、お待たせ。ごめんね、待った?」

「いや、十分くらいだ」

「そう、とにかくごめん。どうだった、登録は?」

「問題なかった。そっちは?」

「私はちょっと近況報告をしただけだったから」

「そうか」

 短い、穏やかな言葉。

 レンナは気持ちに迷いがあることを、気づかせまい、立ち入らせまいとして、かえって失敗した。次の言葉が出てこない。

 サクシードが訝る。

「どうした?」

 さっきのヤヌアリウスの話を、消化しないままで来てしまったことを後悔する。

 そっと、サクシードの顔を見上げるレンナ。彼は木蔭のようにレンナを庇っていた。思い切って話してみる。

「……あのね、サクシード。聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ」

「もしも……もしもよ。世界を守るのに、必要な力を持った人々がいて、その人たちの力があればPOAの活動が容易になるとしたら、サクシードはその人たちの力を借りたいと思う?」

 サクシードが眉間に皺を寄せる。何を言い出したのか、わからなかったからだ。

「それは、そういう人間がいるという前提で話してるんだよな」

「だから、もしもって……」

「いないのなら、質問に意味がなくなる。いるから、考えてほしいんだろ」

「うん……」

 わざとだった。レンナはサクシードに、現実と違う世界を往き来する、自分たちのことを知ってほしかったのだ。そうでなければ、サクシードの世界観を拡げることはできない。

「歩きながらでいいか?」

「あ、うん」

 階段を下りながら、サクシードは自分の意見を述べる。

「結論から言うと、組織としては力を借りていいと思う。でも俺個人は干渉されたくない」

「どうして?」

「世界を守る力があるなら、POAの活動を強力に推進できる。だから指導者が直々に交渉すれば、末端にも伝わる。でも、俺がそういう力に対峙したら、俺自身を否定するしかなくなる」

「そんな……サクシードはサクシードじゃない」

 レンナが言うと、サクシードは前をじっと見つめて心情を吐露した。

「俺は頂点を目指してるわけじゃない。必要な技能を身につける以外は、かえって心が鈍るからだ。だがな、俺には正義の盾だという自負がある。たとえ、力のある者が代わりに立つことになっても、おいそれと譲るわけにはいかないんだよ」

 怒気のこもった声に、レンナは立ち止まった。

 サクシードにとって、POAに所属することは、もうこんなにも意義があるのだ。存在すら賭けているのだから、何もかもすべてがPOAになってしまっている。

 レンナは途方に暮れた。これでは守られているとわかったら、屈辱としか映らないかもしれない。

「どうした?」

「……」

「レンナが気にすることじゃないだろ」

 その一言でカチンときたレンナは、サクシードに詰め寄った。

「気にする!」

「?」

「どうして対峙することしか考えないの? お互いの立場を尊重すれば、諍いなんて起きないはずだよ。理解すれば学ぶこともたくさんあるじゃない。可能性を投げ出すのは、自分を粗末に扱ってる証拠よ」

 今度はサクシードがムッとした。声を抑えて、怒りを露にする。

「俺のやり方が、間違ってるって言うのか」

 レンナも負けていない。

「違うわよ。ただ、自分のやり方を守るあまり、見逃してしまう大切なことから、目を逸らさないでほしいだけ。そうじゃないと……」

「そうじゃないと、なんだ」

 危険だ、と続くはずだった言葉を、レンナは飲み込んだ。口にするのも憚られる言葉だったからだ。

「なんでもないわ。怒ってるから信じてくれないかもしれないけど、私に世界を守る力があったら、わからないようにサクシードを守るわ。あなたを守ることは、私の幸福につながるもの」

 真顔でサクシードを見つめて話す。

 サクシードはカッと赤くなったが、どうやら怒ったためではないらしかった。顔を背け、階段を降りて行く。

 レンナは溜め息をついたが、自分が必殺のストレートパンチを放ったことに、気づいていなかった。

とそこで、サクシードが振り返った。

「おまえが俺を守るというなら……」

「?」

「俺もおまえを、かけがえのない存在として大切にする」

「……サクシード」

 感動して、レンナは瞳を潤ませた。

 サクシードは頭を掻くと、正面に向き直って、大きな声で言った。

「腹が減ったな、どこかに食いに行こうぜ」

「うん!」

 レンナは足取りも軽く駆け下り、サクシードに追いつくのだった。


 こうして、サクシードはPOAに登録し、訓練しながら下宿で生活することになった。

 ソウルメイトたちとの良き出会いを通して、彼は大きく成長していく。

 そして、謎の思想『万世の秘法』に関わるレンナは、どう動くのだろうか。

 物語は二人の心を解きながら、続いてゆく。

 やがて結ばれる、時を目指して――。

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