『三人の謎』
「ふぅん、そんなにいい男なのか、サクシード君は。レンナにそんな表情をさせるなんて」
「え、違います。私は家族として……」
「無理しなくていいよ。その顔は愛する人を思う顔だよ」
「ヤヌ様!」
思わず昔の呼び名が口を突いて出た。
「ほら、やっと呼んでくれた。今は私たちだけじゃないか。誰にも気兼ねしないで、昔みたいに接してほしいな。先輩」
ヤヌアリウスは、レンナを先輩と呼んだ。
「そうよ、先輩。私たちは『万世の秘法』を、幼い頃から一緒に学んだお友だちでしょ」
シルデニアまで後輩になっている。
「やめてください、先輩なんて。『万世の秘法』を実践されているお二人と違って、私は下宿の運営だけで納まってしまってるんですから」
「何を言ってるんだ、規模なんて関係ない。『万世の秘法』は、生態系における人間の価値ある生活を提唱しているんだから、それでいいんだよ」
「ええ。むしろ私たちは手広くやっている分、齟齬があることを反省しなくてはならないわ」
「私たちが忘れがちなことを、レンナは繰り返し教えてくれるお手本だよ。規模を広げる時には、私たちよりももっと大きな仕事ができるさ」
「そんな……」
「本当よ。それまでは私たちが何とか”修法者”の視点で、POAを支えて見せるわ」
POAを支える。
サクシードが所属する組織を『万世の秘法』が支える。
レンナは新しい考えを吹き込まれて、呆然となった。
『万世の秘法』とは何か?
簡単に言えば、『生態系の底の視点から目指す、世界の修復』のことである。
生態系の底の視点というのは、猛禽・猛獣などの高次消費者、イタチ・蛇などの三次消費者、小鳥・リス・蛙などの二次消費者、昆虫などの一次消費者、生産者の植物、分解者の菌類・細菌類、さらにその下に人間を配したものの見方である。
実際には高次消費者より多くの資源を費やし、物質循環に加われないほどの大量消費者である人間だが、生態系の底に位置することで、生態系にとって無害な存在に近づこうとするのが概要だ。
もちろん人間が、植物のような生産者そのものになることはできないし、分解者になって土を肥えさせることはできない。しかし、培養・増殖する技術があるから、一部は生態系の底になってる。
これを社会のあらゆる分野に浸透させる。例えば建物を築くにも、基盤となる土にいる分解者を脅かすことなく建てる、といったことを可能にする。
ヤヌアリウスの言った、”生態系における価値ある生活”とは、生態系を脅かさない生活、つまり共生のことである。レンナの下宿はモデルケースなのだ。家は最小単位だが最大件数でもある。世界中の家がモデルケースなら、エネルギー消費はどれだけ抑えられるかわからない。
この意義を理解し、何事も生態系の底の視点から見た価値基準で行動・実践する者を、”修法者”という。
次に生態系を為政者の視点から見る者を、”鳥俯瞰者”という。
生態系ではなく、地上面の視点を持つ者を”平面者”。
方向性のみを追う者を”方向者”という。
発祥はパラティヌスであり、象徴である花の植生を考えるのに、生態系全体を視野に入れたことから派生している。
だが『万世の秘法』には、裏の顔が存在する。
これら四つの視点を取り入れた闘技があるのだ。なぜ、無関係そうな闘技が関わってくるのか。それは次元を移動できる、超常能力者の心技体を育てるのに有効だからだ。
この世界には、現実と層を成して、別次元が存在する。別次元はあらゆる一般常識を拒む。だから超常能力者は混乱し、現実と区別がつかなくなる。超常能力者を保護し、自覚的に能力を開発させる目的で闘技は生まれた。
表の『万世の秘法』は誰にでも門戸を開くが、裏のそれは超常能力者以外、固く扉を閉ざす。
裏はウィミナリスでしか学べない。
レンナは両方学ぶために、ウィミナリスに留学して、修法者にまで登り詰めた。
ヤヌアリウスとシルデニアも同様。
ちなみに、パラティヌス統治者のウェンデス・ヌメンも表の修法者で、”万世の占術師”と呼ばれる。
レンナは……”万世の魔女”という。




