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パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
21/201

『対戦』

 すでに対戦が終わっている組に近づいた教官が、犯人役に話をつけた。

「新入りっすか、教官」

「おうよ、相手してやれ。手加減すんなよ」

「えっ、いいんすか、新入り相手に」

「体術が見てぇんだよ」

「素人さんじゃないんですか」

「いいから、やれ!」

 教官が去っていき、犯人役の訓練生とサクシードが残された。

「よろしくお願いします」

 サクシードが頭を下げる。

「おう、手加減しねぇから、そのつもりでな」

「はい!」

 間合いを取って、組み合う体勢に入る。

 犯人が正面切って向かってきた。サクシードは半身に構えた。

 突き出される拳を躱し、裏拳で犯人の拳を外側に流し、同時に顎を掌底で狙う。一歩退いて反撃を躱した犯人が、サクシードが突き出した手首を掴む。犯人は手首を引っ張って肘鉄をくらわせようとする。だがサクシードは踏ん張って体勢を崩さない。逆に左の拳を突き出す。犯人が反射的にサクシードの左手首を掴んで止めた。

 それがサクシードの狙いだった。

 犯人の体制が崩れたところで手を捻り、もう一方の手で手首を取り、逆手にして……。

 ズダーン。

 犯人……先輩が、後頭部、右手首を肩に押し付けられ、打ちつけて倒されていた。

「ほう、四方投げか」

「なかなかやりますね」

 サラート教官とドギュストが日和見な感想を漏らす。 

「おっかしいなぁ。俺の体固めでフィニッシュのはずだったのに……」

 先輩は倒されたまま、ぼやいた。

 サクシードが手を差し出すと、掴まって身軽に起き上がった。

「っこらせ、ありがとよ。やるじゃないか、名前は?」

「サクシード・ヴァイタルです」

「ふぅん。俺はジャンティ・フリュ。アウェンティヌス出身の二十四歳。よろしくな」

「こちらこそ」

 握手を交わしたところで、教官が声を張り上げた。

「よし! 組手はここまで。各自休憩に入れ」

 疲れたような声とともに、訓練生たちがマットから引き揚げて行く。

 サクシードもドギュストのところに戻ってきて、衣服を調えた。

「お疲れさん」

 ドギュストが声をかける。

「どうも」

「やっぱり君は実戦型だね。エスクリヌス辺りで経験を積んだのが効いてるのかな」

「相手はテロリストとは限りませんから」

「そうだね。それにしても見事な四方投げだった。この目にしっかり焼き付けたよ」

「はい……」

 そこまで言われる意図を量りかねていると、声がかかった。

「ドギュスト部長、組手やってくれよ」

「え、なんだって?」

 振り返ったドギュストが、声のした方を見る。

「いいぞ、やれやれ!」

 訓練生から野次が飛ぶ。

「おいおい、僕は実戦向きじゃないんだよ」

「でも執行部の部長なんだろ。どのくらいの腕が必要なのか模範を垂れなきゃ、いつまで経っても成り手がいねぇんじゃねぇの」

「痛いところを突くね」

「なんだやるのか? ケガすんなよ」

 教官が承諾したので、ドギュストは仕方なく皮靴を脱いで、マットに上がった。

「だったらこっちも、それなりに対応しなきゃなんねぇよな」

「五人くらいでいくか」

「武器もいるぞ。ソフト棍棒持ってこいや!」

 訓練生たちが悪ノリして、ドギュストの相手は五人。内三人は棍棒を持つことになった。

 やり過ぎの感があったが、ドギュストがどうやって切り抜けるのか、大いに興味惹かれるところだ。

 ついでに赤いハチマキも締めて、ドギュストは「いつでもどうぞ」と言った。


 多対一の対戦が始まった。

 始め! という教官の合図とともに、五人は散らばってドギュストを取り囲んだ。

 でやぁっと、一人がこん棒で後ろから襲いかかる。素早く振り向くと、ドギュストは一撃を躱し、相手の懐に飛び込み、掌底で顎を突き上げ、そのまま腕を掴んで投げ飛ばした。

 その隙を逃さず、二人目がドギュストの腕を掴んだ。瞬時に両手で相手の腕を挟み込み、捻りながら締め、逆関節を決める。

 三人目が棍棒で襲いかかる。この時、その場にいた全員が、何が起こったかわからなかった。いきなり三人目が宙を一回転して落ちた。うぉぉん、と驚嘆の声が上がる。

 ドギュストの手には棍棒が握られていた。棍棒を持つ四人目に突進する。慌てた相手は問題にならなかった。一撃打ち合って、ドギュストに二撃目が相手の腹を打つ。

 最後の五人目が策もなく突っ込む。棍棒を放ったドギュストが冷静に相手の腕を取り、鮮やかな一本背負いを決めた。

 この間、わずか一分弱。

 戦意喪失した五人の中央で、ドギュストがかいてもいない汗を拭った。

「いやぁ、危なかった」

「どこがだよ!」

 全員の突っ込みにも平然としながら、ドギュストはハチマキを解いて引き揚げた。

 訓練生が数人行って、倒れている者を助け起こし、棍棒を回収する。

「やってくれたな、ドギュスト部長。腕は落ちてねぇじゃねぇか」

 サラート教官が声をかけると、ドギュストは困ったように頭を掻いた。

「やっぱりモノになるようなのはいねぇかい?」

「いえ、みんな立派なものですよ」

 ドギュストは心から言ったが、それはPOAの組織員として、気概を持つことに対しての賛辞だった。

 後ろで聞いていたサクシードは、訓練生同士の団結力を好ましく思い、同時にドギュストの背後に聳える最高峰を見上げていた。

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