表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パイオニアオブエイジ  作者: どん
第一部
20/201

『執行部部長ドギュスト・グランク』

「僕はドギュスト・グランクという。体面上は一応、執行部部長ってことになってるけど、これが名ばかりでね。人員がまだ一人もいない」

 道すがら、ドギュストが話すことに耳を傾けるサクシード。

「今選考してるところなんだけど、どうかな。任務が特殊だから、人材をふるいにかけてしまうんだよ。しまいに誰も残らなくて、選考のやり直しをする羽目になる。これじゃ、いつまで経っても起ち上げられないな」

 泣き言としか取れない話を、新入りに聞かせる。

 ドギュストは背が高く、百八十センチ以上あるサクシードと、ほぼ肩を並べるくらいだ。

 撫でつけた黒髪と、整っているが、どこか芯の抜けたような、とぼけた顔立ち。適度にがっしりした体格をしているが、淡緑の詰襟服をかっちり着こなしているから、鍛えてあるかどうかわからない。エリートっぽくないところが、人物の器量を曖昧にしている。

「というわけで、組織の中で僕が一番暇なんだ。ご静聴ありがとう」

 言い終わった時、二人は広いフロアを横切った場所にある、エレベーターの前に着いた。

 この先は、名高いパラティヌス統治者ウェンデス・ヌメンが政務をとる執務室。さらにその奥に議事堂が控えている。

 エレベーターのドアが開いた。他に乗り込む客はいない。ドギュストが数字パネルをランダムに押した。すると、地下二階を通り越して、さらに地下へとエレベーターは下降した。

 二十秒ほど待っただろうか。

 止まったエレベーターから出ると、そこは天井まで七十メートルはある洞窟になっている、軍設備を備えた基地だった。 

 パイオニアオブエイジ本部——。

 宮殿や庭園を見ているだけでは、絶対にわからない秘密がここにある。

 サクシードは、近代施設の重厚さに圧倒されていた。

「ようこそ、POA本部へ――!」

 片手を基地に差し向けて、ドギュストは歓迎の意を表した。


 宮殿は、四角に近い多角形をしている。

 四方を枠のように建物が取り巻き、中央は中庭になっている。 

その中庭をレンナは歩いている。

 噴水を巡り、巨木の生えた丘の下を通り、糸杉の歩道を真っすぐ進む。

 目指す貴賓館は別称を『白い貴婦人の館』という。一階が柱廊で、二、三階が白壁で統一されていた。華美さを抑えた気品のある建物である。

 中央にモニュメントが配置されていて、多くの意味を語る。

 世界の主要宮廷国を代表する七賢人の彫像と、それぞれの象徴である、巨石・炎樹・諸島・湖島・高原・農園・花が地図通り配置され、国際協力を表している。頭上を取り巻くのは”連携と団結の綱”。来たるべき世界平和が象徴化されているのだ。

 地下には軍事基地を配備する矛盾を抱えて、パラティヌスは平和を謳う。それを知る者にとって、平和とは力(軍事力)なしには成り立たないものだ。

 表面は経済が価値を占有していても、資源がなくなり均衡が崩れれば、どうなるかわからない。戦争どころか共倒れの危険を孕み、世界は動く。テロはそのことを警告するかのように、物資・資源も狙う。

 宗教が無力化しつつある世の中だ。

 一人一人が、どう心を治めるかが鍵になる。

 そのためには――

 顔を上げ、レンナは貴賓館に入っていく。

 まるで答えを知る者のように。


「ここが、トレーニングを積むドームだよ。君の主な訓練場所になる。ちょうど今、護身術の訓練中だからのぞいてみよう」

 ドームは青みがかった緑色の外観をしている。巨大な建造物で、小さな競技場ならわけなく収まりそうだ。

 サクシードは見上げてから、期待を込めて中に入った。

 内部は五十メートルほどの高さの天井に、下は芝生と競技用トラック、運動マットと、多彩な訓練に対応できるようになっている。

 護身術の訓練をしていたのは、運動マットがあるエリア。ちょうど手前だった。

 大柄な男たちが、Tシャツ・スパッツ姿で吠え、二人一組で組み手をしている。よく見ると片一方が赤いハチマキをしている。おそらく犯人と逮捕者に分かれているのだろう。よく観察して見極める。

 ハチマキをしている方がA、していないのがBとする。

 BがA目がけて、武器を突き出す動作をする。Aが脇によけ、Bの右手を手刀で叩き、架空の武器を落とす。すかさずAがBの腕を捻り上げる。Bは膝をつき、降参する。

 どうやらハチマキ(A)は逮捕する側のようだ。

 他の組を見てみる。

 Bが後ろから襲いかかる。AがBに羽交い絞めにされる。AがBの締めている腕に手をかけ、ぶら下がって体を委ね、両足を思いっきり振り上げる。Aが着地と同時に、反動でBを投げる。Bの手の甲を掴み、手首の関節を固めて抑え込む。きれいに決まった。とても模範的だ。

 他は術が決まるのもあれば、Bが食い下がって手こずるなど、様々だった。

 しばらく見ていたが、ドギュストがエリアの外で腕組みしている教官に近づいたので、サクシードも続く。

「どーも、サラート教官」

 片手を上げて挨拶すると、小柄だが、がっしりした体格をした無精髭のサラート教官は、短く「おう」と言った。

「だいぶ技も決まるようになりましたね」

 ドギュストが鷹揚に言う。

「まだまだ! 同輩に手こずってるようじゃ、実戦では役に立たん」  

 次にどう来るか読める同輩だから、手強いのではないか、とサクシードは思ったが、どうやら認識が違うらしい。

「相変わらず、訓練に妥協はなしですか」

「的外れなことばっかり言いやがって。ここで気を抜きゃ、命に関わるだろうが。俺の目の黒いうちは、体術でミスするバカなんざ出してたまるか」

 熱血な教官は、人一倍訓練生思いだった。

「尊敬します……今日は新しい訓練生を連れてきましたよ。サクシード・ヴァイタル、十七歳です」

「十七歳? エラく若けぇな」

「履歴データ、見てないんですか?」

「んなもん、アテになるかよ。俺はこの目で見たヤツしか信用しねぇんだ。どれ……なかなかいい体格じゃねぇか。面構えもいい。若けぇの、中入ってやってみるか?」

「お願いします!」

 勢いよく、頭を下げるサクシード。

 ドギュストが慌てる。

「待ってください。今日は登録だけで……」

「かてぇこと言うな。いつでも使い物にならなきゃ、意味ねぇんだよ」

「やれやれ」

 ぼやくドギュストを尻目に、サクシードは革ジャンを脱ぎ、Tシャツになって靴を脱ぐとマットに上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ