手紙
サクシード・ヴァイタル様
初めまして、下宿の世話人で管理者のレンナ・モラルです。
私たちの下宿『シンパティーア』にご入居いただき、ありがとうございます。
早速ですが、下宿をご案内します。
場所はパラティヌスの中央、レピア湖畔区のバッソール町にあります。
下宿は湖岸にあり、正面は湖と森のパノラマです。
南向きで、西の増築されたL字型の、赤い屋根と白い壁の家で、お部屋は西側二階の一人部屋を用意しました。必要な家具などはすべて揃っていますが、足りないものがあれば遠慮なく言ってくださいね。
下宿人は私の他に女性一人、男性は三人で、みんな年齢が近く和気あいあいとしています。
ちなみにサクシードさんは私と同い年ですね。
みんな今からサクシードさんの到着を心待ちにしています。
それから、港へは私が迎えに行きます。
蒼水の三月秘史の十九日十一時四十五分着の、ローズアルバ号でいいんですよね。
当日は『シンパティーア』の看板を持って立っています。
念のため、写真を同封します。
気軽に声をかけてくださいね。
では、良い船旅でありますように。
蒼水の三月運観の十日
レンナ・モラル
赤茶色の、頬にはねたボブカットの髪。
生き生きとした翡翠色のどんぐり眼と、艶やかなオレンジ色の唇を持つ、活発そうな少女の写真。
手紙を読み返して、確認のために写真を見ていたサクシード(十七歳)は、しばらくしてからボクサーバッグに二つともしまった。
ずっと一人で臨時の警備士をしていた。
これから向かう、パラティヌス以外の主要宮廷国六つを転々としながら、ある目的を追っていたのだ。
だが一人の力では限界があり、外国で出会った人物に勧められて、パラティヌスで身を固めて目的に臨むことにした。そうして出来た伝手で、落ち着く先まで決まったので、彼としては幸先がよかった。
苦労を背負ってきただけあって、彼は逞しく忍耐強かった。
焦げ茶色のくせっ毛に、凛々しい一文字の濃い眉と鋭い眼光、筋の通った鼻、引き締まった輪郭、肌は日に焼けている。百八十センチ以上の長身で、黒い革ジャンの下の肉体は鍛え上げてある。
一見険しそうだが、滲み出る温かさは隠せない。
それが彼の本質だった。
さらなる成長を目指して、サクシードは一路パラティヌスに向かっている。
船は定刻通り、港に着く予定だ。